「わが社もDXを始めよう」。社長ないしは経営幹部からそういった指示が飛び、システムやPCに詳しいからDX推進担当に任命されたシステム部門、業務部門のリーダー層は年々増えているのではないでしょうか。ひとまず、書店やAmazonでDXに関する書籍を調べると、大量の情報が見つかるでしょう。その中から一つ選び読んでみると、"DXは単なる業務の効率化だけではなく、ビジネスモデルそのものをデジタル技術で変革すること"などと壮大なメッセージが書かれていて、「正直自分に何ができるのだろうか」とお考えになった方々も多いのではないでしょうか。今回は、最前線でプレイヤーとして活躍してきたリーダー層の方がDXに着手する第一歩としてまずやってみることについて、解説したいと思います。
まずは今の業務のやり方の前提を見直すことから
業務を知り尽くしたリーダーだからできること
「仕事のやり方はわかるけれど、ビジネスモデルや事業の変革と言われてもしっくりこない」という方々。業務の担当者として一人前になって、その後管理者になって現場をマネジメントする、というキャリアステップで知識やスキルを身に着けてきたと思います。その経験の中ではなかなかビジネスモデルについて考える機会は少なかったと思います。よって、しっくりこないのは当然でしょう。その場合はまず、自分の持つ業務への圧倒的な経験と理解を基に、現場視点でのデジタル化を推進するという方法があります。
まずやるべきことは現状の業務の可視化をした上で、効率的なやり方は標準化し、非効率なやり方には「No」と言うことです。現場から一歩引いたところで俯瞰して見ることで、あるべき姿とのギャップ(課題)が見えてくるのではないでしょうか。
業務プロセスの改革をするステップはおおよそ以下のような流れです。
①現状の業務プロセスの可視化
②問題点の把握
③あるべき業務の姿の構想
④現状とあるべき姿のGAP(課題)の明確化
⑤課題解決のための方策出しと実行計画の策定
外部のコンサルタントに委託すると、①②はヒアリングや帳票の分析で実態を把握していきます。このとき、第三者視点での的確な改善提案をしてくれるメリットは大きいです。しかし、社内の人材の場合は業務を把握しているという点では、このステップを効率的に進めることができるという強みがあります。
その後、③④⑤のステップを経て、ようやく方策としてのデジタルツールの調査検討が始まるのです。このように、まずは業務の全体像を可視化して、俯瞰した視点で現状のやり方を否定していくことが肝心なのです。
業務プロセスの見直しに必要なのは"全体最適の視点"
業務改革の全体像を計画することがキモ、プログラムは書けなくてもいい
業務プロセスを変える際に注意すべきは、自部署という狭い視野ではなく、自社のビジネスプロセス(顧客を創るところから、お金をいただくまで)の全体を把握することが必要です。営業は楽になったけど経理の負担が増えた、ではだめなのです。プロセス全体を可視化すると、どこにどういった問題があるかが見えてきます。局所最適にならないためには、全体最適の視点が大切なのです。とはいえ、よく知っているからこそ局所的になってしまう場合は、外部の協力を仰ぐことも有効です。
問題点を見つけたら、後はそれをどう変えるべきか全体最適の視点で考えます。そして実現のための施策を考える段階で、「ここはこのシステムを使おう、そしてこの情報は自動化ツールで連携させよう」とアイデアを出していくのです。ここまでできれば全体の設計としてはOKです。後は、システム・ツールの選定や開発となりますが、この先はベンダーや、RPAなどのローコードの自動化ツールであれば社内の得意な人に依頼をして協力してもらえばよいです。このように、業務を知り尽くしているからできることに全体最適の視点で注力すれば良いです。
小さな改革から始め、社内をデジタル"なじませる"
最初からビジネスモデルの変革は狙わない、まずは社内の意識を変えることから
冒頭で述べたように、DXによってビジネスモデルの変容を起こすには、それなりのデジタルサービスの開発と運用のためのプラットフォーム構築など、資金も人材も必要になります。初めからこのような規模でのDX推進は難しいでしょう。そのため、別の切り口として、今回示したようにご自身の業務に対する理解を活かし、業務改善から始めるということも一つの方法です。
業務改善を通して、ペーパーレス化が進んだ、PCやスマートフォンを使った申請に社員が慣れてきた、などの社内行動変容がみられたら成果は十分です。「今のやり方を変えてもいいんだ」「デジタルの方が便利だ」といった一人一人の意識の変化が、今後本格的なDXを推進するための原動力になっていくのです。