DX戦略とIT戦略の違いとは?
それぞれの戦略策定のメリットから成功のポイントを解説

コラム 2025.01.20
マーケティングDX
DX戦略とIT戦略の違いとは?それぞれの戦略策定のメリットから成功のポイントを解説
目次

1.はじめに

企業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)化が急速に進んでいます。大手企業だけでなく、中堅・中小企業もDX化に対して「取り組まない」という選択は考えにくい状況です。なぜなら、DXに取り組む企業は市場での競争力を高められるからです。ビジネス環境が厳しくなる中、DX推進の中で新たなビジネスモデルを模索し構築することで、市場での優位性を確保できます。顧客の消費行動やニーズに柔軟に対応し、デジタルの活用を通じて顧客体験を向上させることが重要です。

そのような状況において、皆様はDXとITの違いについて理解されていますでしょうか。どちらも企業のデジタル技術の活用に関するものですが、その目的やアプローチには明確な違いがあります。本コラムではDXとITの違いを明確にし、各戦略策定のメリットや成功へ導くポイントについて言及していきます。

2.DX戦略とは

まずはDX戦略について解説します。そもそも、DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して企業のビジネスモデル、マーケティングモデル、業務プロセス、組織文化などを抜本的に変革し、競争優位性を確立するための取り組みを指します。具体的には、デジタル技術を活用することで、顧客体験の向上、新しい収益源の創出、業務効率の大幅な改善などを実現するための取り組みを指します。
「GAFA」※1に代表されるような外資系企業によってDX化は加速的に進み、情報化が進んだ現在社会において欠かせない存在となっている事は、皆様も日ごろ体験されている中でお分かりになられると思います。

DX戦略とは、企業や個人において『DXを実現するためのロードマップや達成すべき具体的な目標を示した戦略』を指します。DX戦略はビジネスモデル自体を変革させることから、経営戦略とも密接に関係しており、企業の理念や目標に基づいて策定される必要があります。達成すべきビジョンや取り組む範囲を定め、DXを推進するための社内体制の構築やプロセスなども決めていきます。推進体制としては、経営層だけでなく、現場の従業員ひいてはクライアントなどの協力を得ながら実行していくものであるため、取り組みの早い段階からDX戦略を立案し、継続して実施・改善していけるかが重要です。

タナベコンサルティングが実施した『2024年度デジタル経営に関するアンケートレポート』(図1)によると売上10億円~500億円未満において、「部門別のデジタル方針・施策で運用」または「デジタル施策は場当たり的」と回答している企業がおよそ半数を占める結果となっています。企業規模に寄らず、DX戦略に基づく全社的な推進ができている企業はいまだ半数に満たない状況であるといえます。

※1 米国のIT企業であるグーグル(Google)、アップル(Apple)、フェイスブック(Facebook)、アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)の頭文字を取った造語
売上規模別 DX戦略の状況
タナベコンサルティング2024年度デジタルアンケートより抜粋

3.IT戦略とは

ITとはコンピュータを使った情報処理や、情報機器とインターネットなどの通信を組み合わせた通信技術を指し、IT化とは通常業務をPCやシステムなどの技術を活用して業務効率化させることです。具体的には、受注業務、決裁業務や名刺管理といったアナログな業務を対象に、パッケージツールの導入やソフトウェアを活用して、データの収集、分析、保管などの作業を効率的に行うことがこれにあたります。

IT戦略とは『ITをどのように効果的に活用し、業務効率向上を目的とした計画的な戦略』を指します。業務効率化が目的なので、基本的には従業員視点で既存のものを継承した扱いやすいものが志向される傾向にあります。このように聞くとIT戦略は業務ツールの選定や運用にフォーカスされがちですが、ITを単なる業務ツールと捉えるのではなく、経営目標を達成するためにITを活用するという考え方が重要です。

IT戦略とDX戦略は、どちらも企業のデジタル活用に関する計画ですが、目的や範囲において異なる事が分かっていただけたかと思います。DX戦略は、企業のビジネス全体を変革するための包括的なアプローチであり、IT戦略はその一部として、技術的な基盤を整備し、業務を支える役割を果たします。両者は相互に補完し合い、企業のデジタル化を推進するために重要です。

4.DX戦略、IT戦略の策定のメリット

①目指すべき方向性が決まる

戦略を策定することで、企業におけるビジョンやミッションに紐づいた明確な方向性を示すことができます。これにより、社員が共通の理解を持ち、『DXやITを通じて何を実現したいのか』といった同じ目標に向かって実行推進することが可能になります。DXやITなどのデジタル化は手段です。それらを活用して企業として何を達成したいか、ゴールを明確にすることが重要です。また、明確な方向性があることで、経営陣から社員までのコミュニケーションが活発になることも期待できます。全員が同じ目標に向かっていることを理解しているため、情報共有や意思疎通がスムーズに行われます。

②リソースを最適化できる

企業活動において投下できるリソース(人材、資金、時間など)は限られています。システムやツールを導入するにはコストもかかりますし、専門的な人材も必要になるでしょう。全社として戦略を定めた上で、リソースをどのように配分するかを指針に落とし込むことが可能になります。それにより、限られたリソースを最も効果的に活用できます。

③業績評価の基準が定まる

戦略に基づいた具体的な目標を設定することで、組織全体や個々の部門、さらには個人の業績を評価するための具体的な基準を明確にすることが可能になります。例えば、デジタル化やプロセスにおける効率の評価であれば、業務プロセスやサービスのどの程度がデジタル化されたのか、処理時間の短縮、エラー率の低下、生産性の向上などが測定基準となり評価が可能になります。顧客との関係性の基準でいえば、デジタル施策が直接的に売上や利益にどのくらい貢献しているか、顧客満足度、リピート率などを測定する事で評価が可能になります。

5.推進のポイント

①デジタルリテラシーの向上

戦略を策定しても現場社員のデジタルリテラシーが低いままでは推進をする事は困難になります。ITツールを使いこなせるかどうかではなく、デジタル技術に対して興味関心を主体的に持ちアンテナを張り巡らしながら、自ら調べて学び、そしてその知識やスキルを仕事で積極的に活用していくマインドセットを持つ事が重要になります。デジタルリテラシー向上のためには、ワークショップやセミナー、eラーニングなど学ぶ場の提供だけでなく、学習の進捗を評価し、フィードバックを提供する仕組みを整え、継続的なスキル向上を支援する事も必要です。また、必要に応じて外部の専門家を招き、特定の技術やトピックに関する新しい知識のインプットなどもリテラシー向上に役立ちます。

② 変革を受け入れる企業文化

DXやITの進化は目覚ましいものがあります。従って、今まで当たり前とされてきた商習慣や企業文化が通用しなくなる可能性があります。例えば、コロナ禍において対面での商談や展示会が制限されるようになりました。デジタル技術を活用して企業のシステムや商品、各施策を大きく変革した企業は、スムーズにリモートワークに移行し、市場での競争力を保ち高めることができました。一方、うまく変革できなかった企業は市場から取り残される結果となっています。戦略を策定し、目指すべき方向性を理解することで、一過性にならず、長期的な視点で社会や顧客に新しい価値を提供し続ける企業マインドを醸成できるか、変化をし続ける企業になれるかが重要です。

③ 継続的な投資と予算取り

戦略を策定した上で、デジタル施策には継続的な投資が必要です。初期の段階では導入コストがかかるでしょうし、目標達成に向けて中間地点に昇華指標を設けることが重要です。DXやITのスコープを決め、各KPIを設定して取り組む必要があります。予算の調達が困難であれば、既存事業の利益を充てたり、外部からの資金を調達する方法も視野に入れると良いでしょう。すべての企業に当てはまるわけではありませんが、行政などのDX関連の補助金を使った推進も検討できます。

6.まとめ

DX戦略もIT戦略も企業経営において重要な要素ではありますが、実践するのは難しく、DX化やIT化自体が目的になってしまう事が多く見受けられます。DXやITを通じて企業が何を目指すのかという明晰なビジョン、戦略の到達度を測る定量的な基準をしっかりと持ち、トライアンドエラーを繰り返しながら進めていくことが大切です。

AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
コンサルタント
八木 孝憲

理美容器具や化粧品メーカーの営業を経て、当社に入社。前職での経験を活かし、デジタルを活用したBtoB営業の売り上げ拡大や企業のブランディング戦略に業種・業界問わず携わっている。クライアントに最適なソリューションを提供すべく伴走型のコンサルティングスタイルを信条としている。

八木 孝憲
関連サービス
データ利活用ナレッジ

関連記事

ABOUT
TANABE CONSULTING

タナベコンサルティンググループは「日本には企業を救う仕事が必要だ」という
志を掲げた1957年の創業以来、68年間で大企業から中堅企業まで約200業種、
17,000社以上に経営コンサルティングを実施してまいりました。

企業を救い、元気にする。私たちが皆さまに提供する価値と貫き通す流儀をお伝えします。

コンサルティング実績

  • 創業 68
  • 200 業種
  • 17,000 社以上