今、物流倉庫にはDXが必要不可欠
近年、物流業界は急速に変化しています。加えて最新のIT技術の進化と共に、物流倉庫のあり方も大きく変化を遂げています。特に、EC市場の需要拡大や消費者ニーズの多様化により、物流倉庫の役割はますます重要になっています。2020年の新型コロナウイルスの影響で、非接触型のサービスや自動化のニーズが高まったことにより、DX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性も強調されてきています。こうした変化を受けて、従来の物流システムでは対応することが難しくなっており、物流業務の効率化が求められています。
日本政府もこの流れを受けて、2021年にデジタル庁を設立し、DX推進に向けた政策を打ち出しています。物流業界においても、ドライバーの人手不足や労働時間の見直しなどの課題を受けて、IT技術を活用した業務効率化が求められており、これに応じた取り組みが急務となっています。このような背景から、サプライチェーンの一部を担い、ビジネスの成功を支える重要な要素である物流倉庫のDXは必要不可欠であると言えます。
前述した通り、物流業界は人手不足や労働環境の改善が求められている中、DXはこれらの課題を解決するための鍵となります。物流業務における自動化やデジタル化を進めることで、従業員の作業負担を軽減し、効率的な業務オペレーションが可能となります。これにより、企業は競争力を高め、持続可能な成長を実現することができます。
物流業務には5大機能といわれる、物流の「輸送」「保管」「荷役」「包装」「流通加工」の5つの機能があります。これらは物資の流れを効率的に管理するための基本的な役割を担っています。上手く活用することで、業務効率化やコスト削減が可能となります。さらに、近年のEC市場の拡大や物流管理システムの浸透によって、新たに6つ目の機能として、物流の「情報」が加わりました。要約すると、物流は出荷から配送までの一連の流れを指しますが、その中でも核となる役割を担っているのが、物流倉庫です。以下では、物流倉庫に焦点を当てたDXとその事例について述べていきます。
物流倉庫におけるDXとは?
物流倉庫は、企業の物流業務を効率化し、競争力を高める上で重要な要素を担っています。これらを戦略的に運用することで、効率化だけでなくコスト削減やリードタイムの短縮、スケーラブルな運用など様々なメリットが得られます。そこにDXを組み込むとなると、主に以下3つの要素が挙げられます。
1.データの可視化
在庫管理や出荷状況をリアルタイムで把握できるようにすることで、それらに紐づく業務が可視化され、迅速な意思決定が可能となります。例えば、IoT(モノのインターネット)技術を活用することで、倉庫内の各種データを収集し、可視化することができます。IoTデバイスの一例として、RFIDタグなどが挙げられます。これにより、在庫の過不足をリアルタイムに把握し、適切な在庫数を維持することで、在庫コストの削減が可能となります。
2.自動化とロボティクス
倉庫内の作業をロボットやドローンを活用して自動化することで、人的ミスを減少させ、作業効率を向上させることができます。例えば、ピッキング作業においては、ロボットを導入することで、従業員の負担を軽減させ、作業時間を大幅に短縮することが可能です。また、ドローンを用いて倉庫内のロケーション管理や在庫確認を行うことで、大幅な工数削減など効率的な倉庫管理が可能となります。自動化は、特に繁忙期において効果を発揮し、安定した業務オペレーションを支える要素となります。
3.AIと機械学習の活用
過去のデータを分析し、需要予測や在庫管理の最適化を行うことができます。これにより、無駄な在庫を減らし、コスト削減につながります。また倉庫内の作業においてもAIを活用することで、ピッキング作業を最適化するなど、従業員の負荷を軽減させることにもつながります。
これらの要素を組み合わせることで、物流倉庫の業務効率を最大化することが可能となります。特にデータの可視化は、他のDX要素を効果的に活用するための基盤となります。
最新の物流倉庫DX事例
物流倉庫のDX事例として、倉庫の自動化をかつてない規模で推し進めているAmazonの事例を紹介します。
Amazonでは2012年と古くから倉庫内でのロボット導入を本格化させています。その後10年以上にわたって研究開発を重ねた結果、75万台を超える搬送ロボットやロボットアームが世界各地のAmazon倉庫で稼働するようになっています。Amazonの倉庫で稼働するロボットは多岐にわたります。最初に導入されたのは、棚ユニットを下から持ち上げて移動させるもので、後に1トン超の重量物を持ち上げられるロボットや、500キログラムを持ち上げ、東京ドーム2個分ほどの距離を走行するロボットへと進化しています。
さらに、AIによる画像認識技術を用いて、倉庫内で従業員の動きを遮ることなく、縦横無尽に移動することが可能なロボットも開発されています。このほか、繊細な荷物を傷つけることなく持ち上げ、仕分けが可能なロボットや、商品パッケージの形や色などを瞬時に認識し、アーム先端で吸い上げて、異なる複数の箱に仕分けが可能なロボットを導入しています。Amazonの物流倉庫では計8種のロボットが稼働し、最先端のIT技術を用いた業務オペレーションが構築されています。
こうしたロボット導入による倉庫の自動化が進んでいることに伴い、従業員の役割も変化しているといいます。ロボットにより、ピッキングをはじめとした単純作業が代替されることにより、従業員たちをより高度な業務へ転換させ、キャリアアップを図る取り組みがなされています。これは、IT技術を用いた業務効率化により、コア業務への集中につながる人員配置や様々な付加価値サービスの提供が可能になることを示唆しています。重要なのは、業務を効率化することだけを目的やゴールにするのではなく、より企業の競争力を高めるための効率化を視野に入れた取り組みを進めていくことです。
物流DXを求める企業への提言
ここまで物流倉庫におけるDXに関して主に述べてきましたが、最後に少し視点を上げ、物流DXを求める企業に対して、以下3つの提言をします。
1.デジタル化の第一歩を踏み出す
まずは、現状の物流業務プロセスの可視化から始めることをおすすめします。現状調査は物流業務に限らず、企業における業務改革を進める上では欠かせないフェーズとなります。これにより、どの部分に改善の余地があるのかを課題点を洗い出し、どうなりたいかのビジョンを基にあるべき姿を設計していくことが重要です。
現状調査の方法としては、業務フローの可視化、業務棚卸分析、業務に紐づく帳票分析、工数分析、行動分析など多岐にわたります。どこまで調査するかの判断軸は、業務改革のスコープによりますが、定常業務と並行して実施するのはかなりの負荷がかかり、こうした調査は客観的な視点も求められます。自社で実施するのが困難な場合は、パートナー企業を選定して進めることも手段の一つとして挙げられます。
2.自動化の導入を検討する
前述の事例でも紹介したAmazonのように最新のIT技術を用いて、ピッキングや出荷作業の自動化を進めることで、企業競争力を高めるための業務効率が期待できます。ロボットやドローンの導入などをはじめ、初期投資はかかりますが、長期的にはコスト削減につながり、従業員の最適な人員配置にもつながります。
一方で、物流DXといっても、その内容や手段は多岐にわたるため、何から始めたらよいか分からないといった場合は、まずは全体像をつかむことをおすすめします。その一助として、国土交通省による「物流DX導入事例集」に掲載されているマッピングが参考となります。ロボットを導入すること以外に、クラウド型在庫管理システムの導入も課題解決の手段の一つとして挙げられます。
導入における投資判断の着眼点としては、導入にかかる投資額と、投資の結果得られるリターン(例えばコスト削減の金額等)を仮定し、ROI(投資収益率)が十分であるかを確認することです。導入前に初期投資額、運用コスト、保守費用、生産性向上効果を検討し、慎重に判断を行うことが求められます。
出典:国土交通省「物流・配送会社のための物流DX導入事例集」2022年3月
3.AIの活用を視野に入れる
需要予測や在庫管理にAIを活用することで、従業員への負荷を増やすことなく、より精度の高い業務オペレーション構築が可能となります。これにより、顧客ニーズに応じた柔軟な対応の実現にもつながります。AI技術は他の技術と比べても急速に進化しており、その目覚ましい進化を見据えて活用を視野に入れておくことで、今後多くのメリットが享受できると想定されます。
物流倉庫におけるDXは、物流業務のDX、効率を最大化するための重要な手段です。データの可視化や自動化、AIの活用を通じて、企業は競争力を高める効率化に取り組むことで、顧客満足度の向上にもつながります。最新の企業事例を参考にしながら自社の物流業務プロセスを見直し、今後の物流業界の変革に向けて、積極的なデジタル化の取り組みが求められています。

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