基幹システム導入・リプレイスによる効率的なリアルタイム経営

コラム
マネジメントDX 戦略・計画策定 デジタルマーケティングデータ活用プロセス・ロードマップ
基幹システム導入・リプレイスによる効率的なリアルタイム経営
目次

1.基幹システムが求められる背景

(1)変化の激しいVUCA時代に必要なのは、スピーディなリアルタイム経営

VUCA時代といわれて久しいですが、世界経済、政治情勢、エネルギー問題など歴史的にみても多くの課題が発生しています。こうした不確実性が高い時代となった今でも、経営者・経営幹部は、前に進まなければなりません。VUCA時代では、タイムリーに「環境適応」していくことが必要です。

経営とは「環境適応業」であり、環境への適応能力を高めるためには「無形資産に対する投資」が重要で、それが企業の競争力を高めるといわれます。無形資産とは基幹システムなど無形のものを指し、デジタル投資は必須といえます。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査報告書」によると、2022年度の売上高に占めるIT予算比率は、全体平均2.1%で前年度からも微増しています。
https://juas.or.jp/cms/media/2023/07/JUAS_IT2023.pdf 38ページ)

環境への適応能力を高めるために、投資をしている会社は多いということが分かります。

VUCA時代では、過去に開発した商品・サービスが陳腐化することでライフサイクルが短命化し、消費者ニーズも複雑で激しく変化していくため、優れたビジネスモデルを展開したとしても、その競争優位性を今後もずっと保ち続けることは大変に困難です。したがってリアルタイムに情報を管理して、スピード感のある経営判断・現場判断を行う、リアルタイム経営が必要となります。DXを推進することで、基幹システムを用いたリアルタイム経営の実現が可能になります。

(2)基幹システムの導入プロセスそのものがDX

DXの推進にあたり各企業において試行錯誤されていますが、基幹システム導入・リプレイスが、DXの取り組みとして期待されることの一つです。DXへの道は3段階あります。まず「デジタイゼーション」から始まり、「デジタライゼーション」を経て「デジタルトランスフォーメーション」と階段を上がっていくことになります。

基幹システムをゼロから導入する、あるいはレガシーシステムからのリプレイスとなると、必然的にデジタイゼーションからスタートすることになります。デジタイゼーション、つまりアナログ作業の業務を棚卸しして、業務フローの見直しや、不要な業務、過剰品質の業務を見直すことで、一部をシステムへと置き換えることになります。

次にデジタライゼーション、つまり業務・プロセスのデジタル化をしてRPAの活用やグループウェアの導入・活用など、業務をアナログからデジタルへと大幅に置き換えて生産性を高めていく、これは基幹システムでこそ実現できるものです。

そして最後に、デジタルトランスフォーメーション、つまり基幹システムを活用して企業としての付加価値、生産性を変革していくことが求められます。

基幹システムが求められる背景
※タナベコンサルティング作成

2.基幹システム導入のメリットを知る

(1)メリットは「経営の意思決定スピード向上」と「業務改革による生産性向上」

基幹システムの導入により、企業全体で情報が一元管理され、「効率的なリアルタイム経営」の実現が可能になります。

具体的には、統合データベースにより企業の情報を一元管理しやすくなる、リアルタイムな情報により的確な経営判断が可能となる、「未来志向」のデータ活用に変革でき業務効率が向上し間接コストを削減できる、などが期待できます。

基幹システムを活用せず、手作業で過去データを集計し、業績報告の資料を作るのに手いっぱいとなると、差額対策をはじめとした足元の取り組みに終始し未来志向での判断が困難となってしまいます。

基幹システムの導入により、「知りたい情報をパッと探せない・見られない」から「知りたい情報をパッと見ることができる」、「業務プロセスが非効率のまま」から「業務プロセスがシームレスで効率的」となるのです。

もちろんこれらが一足飛びに実現するわけではなく、基幹システム導入・リプレイスにおいては特に、要件定義に注力することとなります。要件定義では、経営ニーズと現場ニーズをしっかりと拾い上げ、経営・現場双方のニーズを満たす落としどころである着地点を見出してシステムで実現すべきことをしっかり定める必要があります。この要件定義が不十分だと、基幹システムから得られるメリットは享受できません。要件定義への時間配分を惜しまず注力することが大事です。

(2)基幹システムの活用①~経営ダッシュボードによるスピーディな意思決定~

「ダッシュボード」とは、本来自動車の「計器盤」を意味し、複数の情報をひとまとめにして表示するツールを指します。社内で生成・蓄積されるデータの中から、経営に必要な情報(データ)を抽出し、ひと目で状況が分かるよう可視化されていることが特徴です。ダッシュボードのポイントは以下のとおりです。

①必要な情報は何か
②必要な頻度はどうか
③直観的に理解できるデザインか

基幹システム導入のメリットを知る
※タナベコンサルティング作成
(TCB企画書、デシジョンマネジメントシステム(管理会計パッケージシステム導入)_230831.pptxより引用)

自社における最終的な目標指標(KGI)を達成するためにどういった行動が必要で、どの指標(KPI)までを追いかけるべきなのかが重要になります。最も大事なのは、経営判断の正確さとスピードの速さであることは周知のとおりであります。ダッシュボードによるリアルタイム経営のポイントは、以下のとおりとなります。

①マネジメントダッシュボードの概要
不確実性の高い環境において適切に経営の舵取りを行うためには、客観的かつ高度な判断が要求されるため、ファクト(事実)ベースのデータに基づいて意思決定を行うアプローチが重要となります。また、経営環境の変化に柔軟に対応するため、データをリアルタイムで収集できる仕組みが必要と言えます。BIツールなどによるダッシュボードの構築はこれらの経営課題の解決に寄与するものです。

②ダッシュボード構築のポイント
ダッシュボード構築プロセスは大きく7つのステップに分かれます。具体的には「ゴールイメージ設計」→「要件設計(重点指標・管理指標の設定)」→「インターフェースデザイン」→「データソース生成プロセス設計」→「BI ツール設定作業」→「レビュー」→「運用・改善」であります。ダッシュボードは、経営情報の直観的な理解、リアルタイムな経営情報の把握、KPIのリアルタイムトレースなど多くのメリットが存在します。ただし、リアルタイムで更新されるデータを活用し、高度な経営判断を行うためには管理すべき項目や指標の絞り込みが最も重要であります。膨大なデータは経営判断を迷わせ、間違った方向へ企業を導くこともあるためです。加えて、基幹システムにて情報が一元管理され情報活用するには「シームレス」なシステム構築が必要です。

下記のシステム鳥瞰図をご覧ください。×印が点在しています。この×印は情報の流れが「分断」あるいは「滞留」していることを示しています。販売管理の受注情報の場合、得意先からメールで注文がくるためシステムへの入力が手作業となり、入力担当の社員スキルに依存することとなります。場合によっては、社員による入力漏れや入力遅延が頻発し、正しい売上金額・売上数量をカウントできないことになります。購買管理も同様です。このような情報の流れにおいて「分断」や「滞留」がいまの基幹システムであるのかないのか、あるならばそれはどこなのか、これを特定することが求められます。

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基幹システムの活用①~経営ダッシュボードによるスピーディな意思決定~
※タナベコンサルティング作成

そのうえでこの×印を減らす取り組みにより「シームレス化」が進み、その度合いに応じてダッシュボートの精度が高まります。なお、×印を減らすには新たにシステムアドオンすることもありますが、多くのケースでは業務改革が必要となります。

(3)基幹システムの活用②~業務改革による生産性向上~

業務改革においては、Fit To Standardという考え方が主流となっています。今の業務の在り方を良しとせず、基幹システムで定義、標準化された業務の手順・手法に合わせていく、という意味合いとなります。個々人が思うがまま、やりたいように業務をこなすと属人化します。属人化した業務はいまこの瞬間はよくても、業務の引継ぎやノウハウ継承が求められる段階で必ずネックとなります。このネックが生産性を下げるのです。

例えば、製造業A社は、持続可能な企業であるための生産管理及び利益管理を求められる状況下、製造現場の情報が可視化されず経営ダッシュボードが構築できていませんでした。いくつかのポイントで情報の分断・滞留があったのです。そこでFit To Standardの考え方で業務改革を行い、製造業務の生産性向上及び利益管理の高度化を行いました。なお業務改革前の×印は以下のとおりです。

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基幹システムの活用②~業務改革による生産性向上~
※タナベコンサルティング作成

A社での業務改革ポイントは多岐に渡ります。一例を下表に示します。業務改革のポイントは、改善できることはなんだろうかと積み上げ式で業務を改めるよりも、「発注管理はこうあるべきだ」「発注に必要な情報はこれだ」とTo-Be像、つまりあるべき業務の在り方を定義しFit To Standardでシステムで定める業務スタイルに寄せていくというアプローチです。

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※タナベコンサルティング作成

Fit To Standardの考え方は、個々人のこだわりが強いほど社員にとっては受け入れにくいものですが、企業全体の生産性を高める手法として多くの企業に注目されています。また、この考え方は社員に押し付けるものでなく動機づけすることで受け入れられやすくなります。

3.基幹システム導入・リプレイス事例

システム導入・リプレイスによる事例をご紹介します。

(1)B社の事例:ビジネスモデルチェンジに伴う基幹システムのリプレイス

①背景
B社では、10年以上前からスクラッチで開発した基幹システムを運用してきました。このシステムはB社の旧ビジネスモデルに最適化されており、現状のビジネスモデル、つまり商売の在り方に合わないものとなっていましたがシステム変更が困難であり、どうにか使っていました。しかし、基幹システムの保守を特定ベンダーの特定の担当者に依存していることにもリスクがあることから、基幹システムのリプレイスを決断したのです。
②基幹システムのリプレイス方針
a.収益構造変化に対応した収益管理ができる仕組み化
案件ごとに収益分析・改善ができる管理システムの構築
提供付加価値の向上・高収益体制を実現
b.人事情報の可視化、ナレッジのデータベース化
全社的な人事情報・ナレッジ蓄積の仕組み化
タレントマネジメント等による人材有効活用と提案力の強化を実現
c.IT技術を活用した業務効率化・標準化の促進
経営基盤強化の為、業務効率化・標準化の促進
生産性向上のシステムを構築し、高効率な現行業務遂行

基幹システムリプレイスの効果として、B社の現状のビジネスモデル、また未来のビジネスモデルに対応し得るシステムとして、収益力把握の可視化により6年間で改善される粗利益を効果として試算、可視化することで複数パターンでのシミュレーションをダッシュボードで可能とし、先行業績マネジメントがタイムリーにできるようになりました。

今後の新ビジネスの売上高(6年間)推移予測
※タナベコンサルティング作成(イメージ図)

(2)C社の事例:業務スリム化・間接コスト削減のための基幹システム刷新

①背景
7年前に導入した現行の基幹システム運用において導入当時、業務改革が行われずエクセルや紙で使用していた帳票やデータ加工等の作業がそのまま残っており、間接コストが高水準となっていました。そこで以下の方針を立てました。
②基幹システムのリプレイス方針
a. 全社の効率的な業務プロセス構築
業務プロセスの最適化を阻害する制約条件を抽出し、業務の効率化に向けた施策の策定と現在の業容に適した業務プロセスの再構築の実現
b. 経営管理レポートのタイムリーな把握
業績管理のための指標や外部報告用のレポート作成に人手やエクセルでの加工が多いため、効率的かつタイムリーにマネジメント提供
c. システム投資規模の最適化
全社的なシステムの利活用状況を可視化することによって、各種業務システムの必要性について、自社に必要なシステム資産を明確化、使わない機能(システム)の排除
③基幹システムリプレイスの効果
ここでは業務改革としての効率的な業務プロセス構築による効果をイメージとしてお示しします。現状の作業工数を定量的に可視化、どのタスクにいくらの工数負担があるのかを共有し業務改革のポイントを社内で検討、一定の成果を上げています。

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基幹システムの活用①~経営ダッシュボードによるスピーディな意思決定~
※タナベコンサルティング作成(イメージ図)

4.基幹システムは目的を達成するための手段

基幹システム導入・リプレイスの目的は決して「システムを導入・更新すること」ではなく、「経営の意思決定スピード向上」と「業務改革による生産性向上」、さらには企業の付加価値を高めることです。そのためのポイントを3つご紹介します。

①目的の明確化
基幹システムを使って何を実現したいのか。当コラムもご参考に自社内で明確にしましょう。

②意識改革
明確に定めた目的を全社に共有し、社員の意識を変えていく必要があります。つまり基幹システム導入・リプレイスのメリットを分かりやすく社員に共有し、動機づけを図るとよいでしょう。動機づけを推進するには、DXやシステムに一定の理解がありリーダーシップを発揮する人材が求められます。

③体制構築
目的に合った組織体制を構築することが推進を成功に導く大きな要因となります。組織横断型のプロジェクトを発足するのもひとつの手です。全社の協力を得てこそ成功し得るのです。

これらのポイントをしっかりと認識した上で実践すれば、変化の激しい今の時代で生き残り、成長発展するための効率的なリアルタイム経営に大きく近づくことが可能になります。

AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
マネジメントDX ゼネラルマネジャー
山内 優和

医療機器メーカー、食品メーカーで品質保証・企画業務に従事しながら、開発設計、製造、調達、物流に至るまで、サプライチェーンの課題発見・改善を多数経験。現場で培った知見とデジタル技術を融合し、生産性向上・DX推進コンサルティングを展開。 近年は特に製造・factoryDXを推進し、クライアントのビジョン実現に尽力している。

山内 優和
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