本コラムは、ダイヤモンド社発行の「DX戦略の成功のメソッド~戦略なき改革に未来はない~」の第3章の抜粋記事です。
試し読み
第2章では、DX戦略を推進する上で押さえるべきポイントと、取り除くべき障壁について解説した。実は後者の障壁には共通するテーマがあったことにお気付きいただけたであろうか。それは、どれも「人」に起因するという点である。
DX戦略がどれだけ秀逸なロジックで練られていても、経営トップ、キーパーソン、そしてデジタル改革の受益者たる社員の理解と組織の変容なくしてDXは成功しない。そこで第3章では、DX推進体制について考察していく。この推進体制は、「DXカルチャー」「DX推進組織」「DX人材」という3つの要素で構成される【図表3‐1】。
順を追って解説しよう。
企業における"カルチャー(文化)"とは、経営理念、パーパス、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)など組織で共有されている価値観のことである。そこには自社の経営姿勢や社会貢献の在り方、目指すべき姿といった「意志」が反映されている。DXを「当たり前」とするカルチャーが根づいた組織であれば、手段としてのデジタル技術を投入しても、その目的を理解している社員の自律的な行動変容が期待できるし、組織内におけるハレーション(悪影響)は起きない。
そのカルチャーを醸成する「意志」はどこから発信されるものかと問われれば、答えは当然、経営トップである。DXカルチャーは、トップの意志そのものである。しかし、カルチャーは一朝一夕に浸透しないし、そもそもDXを許容しないカルチャーの下だと、いくら体制を構築して優秀な人材を採用したところで、期待される成果は達成できない。したがって経営トップは、信念に基づきDXを自社のカルチャーに落とし込む構想力と、覚悟を持って粘り強く社員への浸透に心血を注ぐ構築力が必要である。
DXカルチャーに具備すべきテーマは、第2章で紹介した「5つの壁」を乗り越えることである。トップはカルチャーを創る意思を、自らのDXリテラシーの向上という姿で見せ、デジタル投資に関する理解やアジャイル開発を許容する風土づくりを先導する。運用段階においては、導入したシステムへの入力やデータの活用をトップ自らが呼び掛けるとともに、キーパーソンであるDXリーダーには責任と権限(形式的ではない)を与え、全社にリーダーシップが図れる環境を整えていく。そして、最も根深い問題といえる「バイアス」については、ベテラン社員や既存の業務を推進してきたメンバーに、変革の困難さに対する理解を示しながらも、DXビジョンを語り続け、変化をマネジメントすることが求められる。
トップの覚悟を体感した社員は、徐々にその必要性を自覚し、行動変容を通じてDXカルチャーが浸透していくことであろう。
「自社がDXを通じて何を目指すのか」というビジョンからDX戦略を描き、実践すべき改革テーマへ落とし込むメソッドを提言します。