デジタル化による業務改善とは?
その手法と有効ツールをご紹介!

コラム 2023.07.18
DXビジョン&ビジネスモデルDX 生産性向上
デジタル化による業務改善とは?その手法と有効ツールをご紹介!
目次

近年ますます注目を集める「DX」について

近年の日本においてDXが重要視される理由

「DX(Digital Transformation)」という言葉はスウェーデンのウメオ大学教授のエリック・ストルターマン氏によって2004年に提唱され、その後日本では2018年に経済産業省より公開された『DXレポート』の中で警鐘されたいわゆる「2025年の壁」や、『デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン』を契機に広がり始めていますが、特に近年においてなぜDXが重要視されているのでしょうか。

一つ目の理由は前述の「2025年の崖」です。
これは「複雑化・ブラックボックス化した既存システムを解消できずDXが実現できない場合、デジタル競争の敗者になってしまうだけでなく、多額の経済損失が生じる」と警鐘を鳴らしたものであり、「この問題に対応するため、2025年までに集中的にシステム刷新を実施する必要があると指摘した」ものです。(経産省 平成30年DXレポート)

二つ目は働き方改革や少子化に伴う労働力不足です。
限られた人材で持続的な経営を運営を行うためは業務効率化による生産性向上が欠かせません。しかし日本生産性本部『労働生産性の国際比較2022』によると、2022年における日本の労働生産性はOECD 加盟 38 カ国中 27 位です。さらにこの順位は1990年には13位でしたが、徐々に順位を落とし、2018年以降さらに急激に順位が下落しています。働き方改革や少子化に伴う労働力不足が加速する中、デジタル化/DX推進による業務効率の向上が急務であるといえます。

三つ目は国内外での企業間競争の激化です。
「デジタルによる破壊」を意味する『デジタル・ディスラプション』の言葉に表されるように、近年では従来の同業間競争のみでなく、デジタル技術を武器に持った異業種が市場に参入することによる業種業態を越えた競争が発生しています。デジタル技術を武器とするディスラプター(破壊者)は、自身の持つ技術によって新たなコスト構造に適した形のビジネスモデルを構築し、従来型のビジネスモデルや商習慣に風穴を開けることで、既存企業の存続を困難にさせています。
実際に、米サンフランシスコ最大のタクシー会社であり、"イエロータクシー"で親しまれてたYellow Cab Chicago Inc.は、UberやLyftなどの新興アプリベースの相乗りサービス会社の台頭により2016年1月に破産申請に追い込まれました。Uberでは、アプリ上でのタクシー配車などによる顧客の利便性を向上以外にも、自動支払いなどによる効率化で新興ながらも競争力を高めています。

このように、近年の日本においてDXの推進は、業務効率化およびその先の顧客満足度向上や競争力強化のために重要であるといえます。

経済産業省『DXレポート2(中間とりまとめ)』p.45 財)日本生産性本部『労働生産性の国際比較2022』p.2、p.6 総務省『令和3年度版情報通信白書』p.80~81 図表1-2-2-2

業務効率化に繋がるデジタル化の方法

デジタル化の罠

ではどのようにしてDXによる業務効率化を推進すべきでしょうか。

「システムを導入したがあまり効果がなかった」「かえって業務が煩雑になり、せっかく導入したシステムをほとんど活用していない」といった声はよく聞きますが、そもそもデジタル化やシステム導入により半自動的に業務改善がなされるという考え方が誤りであり、改めるべきなのです。

特にERPシステムなど、会社運営の柱となるようなシステム導入の際にまず現在の業務プロセスを分解・可視化し、その中に隠れる課題を徹底的に洗い出すことが重要です。

ここからは、業務改善を実現するデジタル化推進方法についてご紹介します。

業務改善のステップ

STEP1:ビジネスモデルの明確化

業務改善に取り組むにあたり、はじめに行うべきことは経営理念や経営戦略、事業戦略から自社が目指すべきビジネスモデルを明確化することです。
2018年3月に経済産業省より公開された『価値協創ガイダンス 解説資料』において、ビジネスモデルは「競争優位性の確⽴・維持、企業の価値観を事業化し、"稼ぐ⼒"を⽰す設計図(⻘写真)」と定義されています。事業環境が大きく変化している場合には特に、この設計図が規定されなければオペレーション業務を規定することはできないため、業務改革の出発点としてビジネスモデルを定義することが必要です。

経済産業省『価値協創ガイダンス 解説資料』p.8

STEP2:業務可視化と改善検討

ビジネスモデルを定義し、目指すべき価値創造の仕組みを定義したのちに業務プロセスの効率化を検討します。

そのためにはまず、業務フロー図や業務棚卸表、帳票一覧や行動分析表などによる業務・情報の流れ、詳細な業務内容や使用されている帳票類を把握する必要があります。さらに業務や作成される帳票の目的や特性だけでなくボトルネックとなっている業務を明らかにすることで、業務のムリ・ムダ・ムラや属人的な業務を可視化します。

可視化された課題の中で、無駄なプロセスの排除を検討したうえで、"あるべき姿"として新たな業務や情報のフローを描きます。

その際、自社における習慣や業界の慣習に囚われることなく、第三者目線で業務の目的と照らし合わせ「本当に必要な業務か」「重複・不要な作業はないか」「標準化できないか」「電子化できないか」というように、課題に一つ一つに対して疑いの目を持つことが重要です。

業務可視化と改善検討

システム化の検討はこれらの業務改善検討を踏まえた上で初めて"デジタル化が望ましいであろう業務"を選定すべきです。つまり、必ずしもデジタル化することが業務改善に繋がるのではなく、アナログ業務と適切に両立させることが重要です。

STEP3:改善効果の検証

業務改善を検討する際のもう一つのポイントは、改善効果のシミュレーションを行い、定量的に検証を行うことです。この効果測定は"時間"と"コスト"の両面で検証します。

具体的には、まず業務可視化時に分解された各プロセスごとの業務工数を「人数」×「一人当たり業務時間」で計測します。このとき平準月と繁忙月・閑散月の業務時間差が大きい場合にはそれぞれの工数を計測することが望ましいといえます。
次に業務改善により廃止される業務や簡素化される業務について、削減できる想定人数や想定時間、引き下げられる単価(ランク)差額を算出します。
このようにして算出される改善前後の業務工数に、業務に関わる社員の平均時給を掛け合わせることで概算人件費を算出します。
さらにITシステムの新たな導入やリプレイス、その他アウトソーシングなど新たに費用が発生し得る場合には、TCO(Total Cost of Ownership:導入や維持管理にかかわる総費用)も加えた費用検証を行います。
最後に改善前後の業務工数や総費用を比較することで業務改善効果を検証します。

このように"時間"と"コスト"を両軸で検証することにより、「業務時間削減に繋がっているか」「費用対効果が得られているか」を具体的にシミュレーションすることができます。
それだけでなく、業務改善実行前にこのようなシミュレーションを行うことで、業務改善実行後の効果測定も行いやすくなるでしょう。

では、デジタル化が望ましい業務にはどのようなものがあるでしょうか。ここからはデジタル化実装による業務改善について具体的に記していきます。

デジタル化が望ましい業務とそのために有効なツール

1."意思決定に必要なデータが蓄積される業務"のデジタル化

一つ目は"意思決定に必要なデータが蓄積される業務"のデジタル化です。

前述の通り、業務改善の出発点はビジネスモデルを定義することであり、そのビジネスモデルは経営戦略や事業戦略に基づくべきものです。
経営戦略や事業戦略の推進状況を図る指標(KGI/KPI)をタイムリーに把握するためには、必要なデータが正しく蓄積され、データ連携される必要があります。

これを実現するためにはまず、必要なデータを効率的かつ正確に収集する必要があります。
そのためには販売管理システムや生産管理システム、顧客情報管理システムなどの基幹システムを適切に活用することが有効です。このとき業務改善の観点で重要なことは、可能な限り重複入力が発生しないようシステムを設計し、データ連携することです。そうすることでムダを排除するのみでなく、ミスを減らしムラの削減にも繋がります。
次に、蓄積されたデータを効率的に可視化するための仕組み構築が必要です。このためにはBIツールやミドルウェアのデータベースを活用したダッシュボードの作成が挙げられます。

このように効率的に整備された社内の蓄積データをアナログ業務も掛け合わせながら分析し、期中の業績管理や将来の戦略決定に活用してくことが望ましいと言えます。

2."定型業務"のデジタル化

二つ目は"定型業務"のデジタル化です。
定型業務をデジタル化することにより、省力化・省人化が期待されるのみでなく、低付加価値業務に割り振っていた人材を、創造性のある高付加価値業務に置き換えることができます。

このときに有効なツールはRPA(Robotic Process Automation)です。日本RPA協会によると、RPAは「これまで人間のみが対応可能と想定されていた作業、もしくはより高度な作業を、人間に代わって実施できるルールエンジンやAI、機械学習等を含む認知技術を活用して代行・代替する取り組み」と定義されています。つまり事務作業などの定型作業を代行・自動化してくれるシステムといえます。現在では三菱UFJ銀行での口座開設時の行内データ照会や記帳処理を代行するなど、金融機関でも活用されています。
定型業務をRPAに置き換えることにより、業務効率化が期待されるのみでなく、入力ミスなどの業務のムラも軽減されます。

RPAのみでなく、コミュニケーションをさらに効率化するためにチャットボットの活用も有効的です。
チャットボットには、あらかじめ決められたデータベースに基づいて会話を行う「人工無能型」と、機械学習を通して言葉の文脈や意図を汲み取り判断や予測をして回答する「人工知能型」に分かれます。どちらが適切であるかについては、蓄積する元データの性質やFAQの機械学習の必要性など判断が必要になりますが、いずれも問合せや情報提供、予約・受注・購入などの対応が24時間可能となり、オペレーター業務の効率化が期待されます。

富士通『FUJITSU,Vol.70,No.3,p.77-83(07,2019)特集|金融機関のデジタル革新を加速するデジタルバンキング』p.79

まとめ~業務改善に繋がるデジタル化について~

ここまで記したように、デジタル化による業務改善のためにはまず、現状業務の改善設計から始め、その上で"デジタル化が望ましいであろう業務"を選定・検討することが重要です。

2020年12月に経済産業省より公表された『DXレポート2』においても、DXの段階について、①紙文書の電子化などアナログ・物理データの単純なデジタルデータ化(デジタイゼーション)、②個別業務・プロセスのデジタル化(デジタライゼーション)、③全社的な業務・プロセスのデジタル化、および顧客起点の価値創造のための事業やビジネスモデルの変革(デジタルトランスフォーメーション)と説明しています。

まずは現状の業務を可視化し、目指すべきビジネスモデルを実現する上で必要な業務フローを検討することが重要です。

経済産業省『DXレポート2(中間取りまとめ)』P.35
経済産業省『DXレポート2(中間取りまとめ)』P.35

デジタル化=業務改善ではなく、現状業務の客観的な分析と改善検討、およびデジタルとアナログを適切に組み合わせることが重要です。
デジタル化に対する意識を改め、業務改善に留まらず自社の成長に繋がるようなDX推進に取り組んでみませんか。

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AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
マネジメントDX チーフコンサルタント
末次 由佳

金融機関で法人・個人営業を経験し、当社へ入社。中長期ビジョン策定コンサルティングなど経営に関わる上流の支援から、経理・総務業務を中心としたバックオフィスの業務改善など、企業の成長ステージに合わせた最適なDXコンサルティングを提供している。

末次 由佳
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