中小・中堅企業DXとは?

コラム 2025.04.14
マネジメントDX 戦略・計画策定 企業成長
中小・中堅企業DXとは?
目次

1. 2024年以降の中小・中堅企業DX

(1) 企業を取り巻く状況

日本経済全体、とりわけ中小企業においても激変する環境変化に対応するためのDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が高まっています。国内の労働人口減や慢性的な人手不足の中、DXは生産性向上や新規事業創出を通じて企業価値や競争力を高める可能性が大いにありますが、いまもってDXは進んでいるとはいえない状況にあります。
本コラムでは各種アンケートレポートからみた中小・中堅企業DXの状況や、DXのポイントについてご覧いただきます。

(2) 中小・中堅企業のDX取組み状況

経済産業省下にある中小企業庁が毎年公表する中小企業白書によると、2019年から2023年にかけてDXに着手する企業は増加傾向にあります。
取組み状況を段階1~4に区分したとき(★)、段階3(デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態)の企業は9.5%から26.9%へと約3倍に増加しています。一方、2023年時点で段階1~2(デジタル化が図られていない、アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態)の企業が66.2%を占めており、わが国企業におけるDXの進捗はまだ途上段階にあることが伺えます。
DXに向けた具体的な取組内容をみると、どの段階の企業でも「紙書類の電子化・ペーパレス化」や「自社HP作成」に取り組む企業が多いことが分かります。一方で、「顧客データの一元管理・データ利活用」や「営業活動のオンライン化」などの取組は、段階2以下の企業と段階3以上の企業で取組比率に大きな差が見られます。これらの取組は、DXの推進やビジネスモデルの変革において特に効果が高いことが示唆されます。

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★取組み状況の段階

取組み状況の段階
出典:2024年度版 中小企業白書 第1-4-45図より引用
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/chusho/b1_4_7.html

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取組み状況の段階
出典:(株)帝国データバンク「中小企業が直面する外部環境の変化に関する調査」
(2024年度版 中小企業白書 第1-4-45図を通じて)

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/chusho/b1_4_7.html

段階1~4をご覧になって自社がどのポジションに居るかセルフチェックしてはいかがでしょうか。第1~2段階にある企業は、小さなことでもデジタル化していくことで自社内で「デジタルっていいよね」という機運をつくることをおすすめします。年商200億円の建設業A社では、あらゆる書類・あらゆる申請が紙ベースとなっており、極めて非効率であることを社員は長年不満に感じていました。紙ベースとなっている根本要因はISO9001品質マニュアルで紙媒体管理が基本となっていることが分かったため、ISO認証機関と相談のうえ品質マニュアルを改訂し、紙媒体ありきの社内規定を改めました。そのうえでCloudストレージ(データの倉庫)を導入し、紙媒体ではなくデータとして誰もが閲覧できる環境をつくり、有休取得など勤怠管理もワークフロー申請化することでペーパレス化を一気に推し進めました。その結果、あらゆる業務が劇的に効率化され、大ベテランの社員から新人までデジタル化の効果を体感するに至りました。つぎはウェアラブルカメラ導入による遠隔安全パトロールをやろう!といったDXを推進したい声が自然と生まれるようになった次第です。
そして第3段階にある企業はデータ利活用といった分野に着手するのも良いかと思います。製造業・建設業・卸売業・小売業・サービス業問わず、長年のビジネスを通じて様々なノウハウ情報を持っていますが、それらの多くは点在化しており、データとノウハウが繋がっていないためマーケティング活動や新規顧客開拓、既存商品の拡販が営業社員のスキルに依存・属人化していました。そこでMAツール導入やデータサイエンティスト採用による潜在顧客の掘り起こしを行い、CRM(Customer Relation Management)機能を組織内に新設することで売上利益拡大・顧客創造を推進する体制を構築しました。
自社内にデータが点在化していることで、せっかくの情報を利活用できないことに社員の多くは不満を持っています。こうしたデータ利活用の取組みに企業として着手するとなれば、推進プロジェクトに自発的に参画したいと思う社員は少なからず居ると思います。

組織内のCRM新設による売上利益拡大・顧客創造の推進体制

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データ利活用の取組み
出典:タナベコンサルティングにて作成

(3)DX領域における重点投資対象

タナベコンサルティングが実施した「2024年度デジタル経営に関するアンケートREPORT」によると、DX投資の重点領域は2023、2024年度いずれも同様の傾向が見られ、業務システムの導入(効率化・省人化目的)が24.8%で最も多く、次いで基幹システムのリプレイスやクラウド化が15.7%、DX人材の育成が15.4%となっています。
一方で、人材データを活用した人的資本管理や情報セキュリティ強化、営業活動のDX化は10%前後にとどまっています。これは、業務システムや人材育成が投資対象として分かりやすい一方で、当該領域の認知度や優先度が低いことが要因と考えられます。
情報セキュリティにおいては被害を受けた企業がニュースに出ることもありますが、対岸の火事とみる企業も少なからずあるのが現状であります。

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2024年度デジタル経営に関するアンケートREPORT
出典:タナベコンサルティング2024年度デジタル経営に関するアンケートREPORT

(4)中小・中堅企業DXのポイント

さて以上を踏まえてDX推進のポイントをいくつかお伝えしたいと思います。

スモールスタートによるDXビジョン策定~DXリテラシー醸成

前述のA社ではないですが、中小・中堅企業においては社内のDXリテラシーを高めていくことが大きなポイントとなります。私たち人間は、他者から言われて動くより自律的に動くほうが物事は進みます。経営トップが大号令を出しても動かない組織であっても、社員から「こうしたい」という意見・アイデアが出るような機運、風土をつくることが重要となります。飲料メーカーD社では、DXビジョン策定プロジェクトを立ち上げて、他社事例を参考に、自社ではどういうDXをすれば売上・利益を増やせるか、どういうDXであれば社内の情報連携がうまくいくか、どうすれば人材育成が早期化できるかをポジティブな意見交換・アイデアフラッシュを行いました。プロジェクトメンバーは次代を担う20代~40代の若手・中堅社員から選抜して編成、社内の過去ルールや現状の業務の在り方に捕らわれず、制約条件なしにてDXビジョンを策定、ロードマップに落とし込み年度別施策として現在推進されています。

情報セキュリティ対策の強化

DXを推進するうえで、経営トップが重視すべきテーマとして「情報セキュリティ」があります。
デジタル化の進展に伴って中小企業もサイバー攻撃の脅威に直面しており、十分なセキュリティ対策が求められます。近年ではランサムウェア(Ransomware)による被害が増えています。実際、ニュース等で被害状況を目にされたこともあろうかと思います。このランサムウェアとは「身代金(Ransom)」がその名の由来であり、企業のネットワークや社員が使うPCに侵入し、データを暗号化して使用不能にするマルウェア(悪意のあるソフトウェア)となります。攻撃者は、暗号化されたデータを元に戻すための「復号鍵」を提供する代わりに、被害者である企業に金銭を要求するものです。大手企業が被害を受けた場合はニュースになりますが、中小・中堅企業においても被害を受けた企業は少なくありません。被害を受けると身代金(Ransom)の支払いに留まらず、自社内の情報資産凍結・漏洩・消去といった無形資産の損害や、取引先や顧客との取引が停止し業績悪化というリスクもあります。
こうした情報セキュリティにおけるリスクへの対応不足は自社だけでなくサプライチェーン全体、また顧客や社会にも被害を及ぼす可能性があるため、経営トップのリーダーシップの下で対策を進めることが重要です。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)は、ガイド「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」を発信していますので、ぜひ確認ください。
なお情報セキュリティ対応強化の大きな方針は以下となります。

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情報セキュリティ対応強化の大きな方針
出典:タナベコンサルティングにて作成


情報セキュリティとは、セキュリティソフトを導入すればよいものではなく、上記のような社内体制の構築と継続的なマネジメントレビューが必要です。

さて、いかがでしょうか。中小・中堅企業のDX。今回の事例を通じて3S(スモール、スピード、シンプル)スタートでDXに取り組みませんか。社内には3Sに賛同する社員はきっといるはずです。
また経済産業省が認定する「DX認定」を取得し、社内外にDX推進を訴求することも中小企業でも増えています。このDX認定取得をひとつのマイルストーンとして、社内のDX機運を高める方法もあるのです。

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AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
ゼネラルマネジャー
山内 優和

医療機器メーカー、食品メーカーで品質保証・企画業務に従事しながら、開発設計、製造、調達、物流に至るまで、サプライチェーンの課題発見・改善を多数経験。現場で培った知見とデジタル技術を融合し、生産性向上・DX推進コンサルティングを展開。近年は特にIT化構想、ERP導入および製造・factoryDXを推進し、クライアントのビジョン実現に尽力している。

山内 優和
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