本コラムは、ダイヤモンド社発行の「DX戦略の成功のメソッド~戦略なき改革に未来はない~」の第3章の抜粋記事です。
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DXカルチャーを培う意思を持っている企業は、次に、DXを推進するための組織構造のデザインを考える。組織は戦略に従うため、当然、後述するDX戦略に基づいたデザインが求められる。ここでは、まずDXを暫時的な取り組みではなく、今後の企業経営になくてはならない「要素」として捉え、その推進を円滑にするための組織という観点からポイントを紹介していく。
IPAの調べによると(2020年、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」)、DX推進組織のパターンは大きく3つに分かれるという【図表3‐2】。DXに取り組む新会社を設立するケース、DX組織を社内で設立するケース、DX会議体を設置するケースである。このうち2番目の社内組織を設立するパターンには、IT部門が起点になるものと事業部門が起点になるものがあり、事業部門が起点になるものには主導型と伴走型がある。
企業規模、既存の事業領域、DX人材への投資規模によって組み立ては変わるが、重要なことは「三位一体」「組織の成長デザイン」「最適人員配置」という3つの目線である。
三位一体とは、経営トップ、情報システム部門、現場とのバランスである。DXがこれからの企業経営の前提である以上、経営トップのDX組織への参画は欠かせない。また、ここでいう情報システム部門とは、全社のITシステム戦略を構築し、基幹システム、業務システムの構築・運用・保守責任を担い、全社のデータ保全やセキュリティー対策を講じる責任を負う部門を指す。情報システム部門の存在なくしてDX推進は成立し得ないことは想像に難くない。
そして、見落としやすいのが現場だ。DX戦略推進チームが現場の意見を聞いた上でシステムの実装に取り組む企業は多いが、推進チームに現場のメンバーを参画させている企業は意外に少ない。経営の専門家、ITの専門家、業務の専門家が共同参画してこそ、地に足の着いたDXが可能となる。
次に、組織の成長デザインとは、DXビジョンから逆算した組織モデルを段階的にデザインすることである。着手段階ではプロジェクトチームを組成して、定例ミーティングでデジタル実装の進捗を確認する程度であっても、そのままの活動を続けていては局所的な取り組みに終わってしまうため、全社活動とはいえない。三位一体の構造は崩さないまま、プロジェクトレベルから、DX戦略推進機能としての独立機能レベルへの進化を想定し、取り組みの波及効果を広げるロードマップを引くことが必要となる【図表3‐3】。 そして3つ目の最適人員配置とは、リーダー人材の配置、専門人材の採用、外部のパートナー人材の構成である。経済産業省の「人材版伊藤レポート2・0」でも、目指すべき将来の姿(To Be)に関する定量的なKPIの設定の必要性を説いているように、DX人材の確保について定量目標を公開する企業も増えてきた。
新規事業の開発や既存事業の高度化といったビジネス変革を担う重要ポストには、社内横断的に影響力を行使できるリーダー人材の登用が望まれる。社内エンジニアが枯渇している企業は、経験者採用も優先事項として考えておきたい。また、DXはデータ解析を通じて経営を改革するミッションも担うため、当初は外部パートナーの力を借りたとしても、将来的には自社のKGI(重要目標達成指標)とデータを突合し、付加価値を生み出せる機能を自社に保有したい。
その意味では、全社員のデジタルリテラシースキルマップの作成、資格取得支援制度、外部セミナーの受講支援、20歳代の若手社員も含めたデータサイエンティスト育成計画の策定も必要であろう。さらに、システム環境が複雑化するなかにおいては、外部パートナーの管理も重要だ。外注先に丸投げ、あるいは外注に慣れていない会社の場合、外注パートナーのディレクション経験者採用も視野に入れる必要がある。このように、自社のDX推進に必要な人材配置を検討することからも、「DXを通じて何を実現したいのか=DXビジョン」の可視化が必要になることはおわかりいただけると思う。
一方、DX推進組織のマネジメントにおいては、開発、運用・保守、推進、ガバナンス、外部パートナーの責任者は、役割・管掌の範囲を最低限明示しておくべきだ。また、デジタル戦略推進機能を牽引するDXリーダー人材に、形だけではない権限委譲を約束することも経営トップの役割である。形だけのDX推進機能をつくっても、いつまでもトップダウンのままでは組織は成長しない。
デジタル戦略推進機能の活動については定期的に取締役会、もしくは経営陣が集うミーティングで情報を共有し、意思決定層におけるDXの理解を深めることも重要である。
「自社がDXを通じて何を目指すのか」というビジョンからDX戦略を描き、実践すべき改革テーマへ落とし込むメソッドを提言します。