IT化構想・IT戦略策定に役立つ基本フレームワークと成果を出すための3つの着眼点

コラム 2023.11.24
フレームワーク組織
IT化構想・IT戦略策定に役立つ基本フレームワークと成果を出すための3つの着眼点
目次

IT化構想・IT戦略とは?

IT化構想やIT戦略は、単なるシステム導入計画や老朽化システムの入れ替えと捉えられがちですが、デジタル変革が進む現代において、これらは経営戦略を実現するための最重要テーマとして位置づけられています。

タナベコンサルティングでは、まずIT戦略を「デジタル技術を駆使し、新たな顧客価値の創造や、競争優位性の確立を目指す、経営に直結した基本方針」という上位概念として明確に定義します。これは、事業モデルの抜本的な変革や、組織文化の刷新までを見据えたDXを具現化するための指針そのものです。IT戦略の策定を通じて、ITをコストセンターからプロフィットセンターへと転換させることが、現代の経営において不可欠な視点となっています。

対して、IT化構想は、IT戦略で定めた変革の方向性に基づき、それを実現するための具体的なアクションを設計する「実現に向けた設計図」の役割を担います。単なるシステム仕様の決定に留まらず、KGI・KPIといった最終的な成果指標と紐づけながら、投資対効果の明確化、必要なリソースの配分、潜在的なリスクまでを網羅的に計画します。

最も重要な点は、IT戦略は決してシステム部門単独のテーマではなく、全社横断的な「経営マター」であるということです。経営層が明確なビジョンを持って主体となり、事業部門とIT部門が一体となって戦略を立案・実行することが不可欠です。このトップダウンの視点が欠けると、現場に定着せず、DXの実現は遠のいてしまいます。

IT戦略の策定は、単なる既存業務のIT化に留まらず、業務そのものの「変革」を推進し、企業全体をデジタル時代の新たな成長軌道に乗せるための重要なプロセスです。本コラムでは、この業務変革を実現するための基本フレームワークと、成果を導くための着眼点を深掘りして解説していきます。

IT化構想・IT戦略策定の基本フレームワークと4つのフェーズ

タナベコンサルティングでは「IT化構想・IT戦略」は単なるシステム化計画ではなく、「デジタルを活用した"あるべき業務"の設計図づくりであり、具体化に向けたロードマップと実行推進を行うこと」とクライアントにお伝えしています。

IT化構想・IT戦略の要諦は、
✓業務マターではなく経営マターでデザインすること
✓部門での実行を前提としつつ、全社最適で設計を行うこと
✓戦術を有効に機能させるために戦略発想で取り組むこと
であり、業務「改善」ではなく業務「変革」するためのIT化構想・IT戦略を具体化するための基本フレームワークは以下の図のように表されます。

基本フレームワーク
図1 基本フレームワーク
※タナベコンサルティング作成

基本となるフレームワークは大きく4つのフェーズに分かれています。

【フェーズⅠ】変革案出し

中長期ビジョンや経営戦略に基づき、デジタルを活用した変革案を検討するフェーズです。会社としての大きな変革テーマや、想定されるデジタルディスラプション(デジタルによる創造的破壊)への対応など、全社の目的・目標を実現するためにデジタル活用で何ができるのかを検討します。
現在の日本経済を30年ぶりのデフレからインフレへの転換点と捉えると、今後は金利上昇に備えたタイムリーな業績管理システムの必要性や、人件費コストの割合が低いデジタルチャネルの強化など、複合的な経営戦略と歩調を合わせたIT化構想が求められると考えます。

【フェーズⅡ】構想設計

デジタル活用した変革案をIT化構想として描くフェーズであり、どこまでの範囲で設計するか、成果をどこに定めるかがポイントです。
構想設計の範囲は、企業本体のみか、グループ間連携も含めるのか。定義を決めたうえでERPシステムの導入などデジタルソリューションの導入を検討します。
またIT化構想を通じて何を成果目標とするのか変革指標の設定もこの段階で行います。
KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)とKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を定めて成果ロジックを明確にすること、組織を一つのベクトルに向かせて動かすところまでをイメージしておくことが大切です。
IT化構想に繋がる中期ビジョンの利益目標をKGIとするならば、KGIにつながる指標(例えば在庫回転率50%アップ、月次決算を月初3営業日など)をKPIのプロセス指標として設定していきます。

【フェーズⅢ】構築・実行

組織体制を整え、構築と実行を進めるフェーズです。
IT化構想においては何をするかも重要ですが、誰がリーダーシップをとるか、どのような組織体制でプロジェクトを進めるのかが成否を握るといっても過言ではありません。
IT化構想が頓挫する理由の一つに「システム部門への丸投げ」があります。システム部門は社内システムにおける保守・管理のプロフェッショナルであることが多いですが、営業・製造・経理など専門職種のプロフェッショナルではなく、まして経営戦略のプロフェッショナルではありません。自社のシステム担当部門の業務分掌範囲を確認してみてください。
IT化構想を実現するために必要なのは、機器の保守・管理ではなく、経営資源の再配分です。

【フェーズⅣ】評価・定着

新たなシステム導入、業務変革を定着させるフェーズであり、定着においては社内への目的伝達と理解浸透を粘り強く行うことが必要です。
新たなシステムを導入したが現場で全く使われていない、担当業務を導入されたシステムに合わせることができず形骸化する、裏で新たなエクセルで作成した管理帳票が生まれている、などの現象が多くの企業で見られます。
IT化構想を神棚に置くのではなく、日常の業務に組み入れていき「やらざるをえない仕組み」にしていくこと。小さな成果を現場にこまめにフィードバックしていくことが評価・定着のきっかけとなります。

IT戦略のフェーズ別活用フレームワーク例

IT化構想・IT戦略を「業務変革」として実現するためには、貴社が図で示した4つのフェーズにおいて、それぞれの目的に合った具体的な分析・フレームワークを適用し、検討の質を高めることが不可欠です。

例えば、【フェーズⅠ:変革案出し】においては、外部環境と自社の強みを客観的に捉えることが重要です。そのため、SWOT分析やPESTEL分析といった戦略策定系のフレームワークを活用することで、中長期ビジョンと整合した「あるべき姿」の仮説を多角的に設定できるようになります。

続く【フェーズⅡ:構想設計】では、あるべき業務プロセスを描き、現状とのギャップを明確にするステップに入ります。ここでは、業務フロー図(BPMNなど)の作成や、バリューチェーン分析を用いて全社最適の視点から変革の範囲と優先順位を定めます。さらに、具体的なKGI/KPIの成果ロジックをロジックツリーで分解することが、変革指標の納得度を高める鍵となります。

そして【フェーズⅢ:構築・実行】、【フェーズⅣ:評価・定着】といった実行と運用フェーズでは、進捗管理と課題解決に特化したフレームワークが強力な助けとなります。施策実行の振り返りと継続的な改善を促進するKPT(Keep/Problem/Try)や、計画と実行を循環させるPDCAサイクルを組織的に運用してください。

これらのツールが、「システム部門への丸投げ」を防ぎ、新たな仕組みの定着化を力強くサポートします。このように、基本フレームワークという「道筋」に、具体的な分析ツールという「道具」を組み合わせることで、IT戦略の実現可能性と成果は飛躍的に向上します。

IT戦略を成果に導くための3つの着眼点

IT化構想・IT戦略に必要な戦略着眼① 「正しく現状を捉える(As-is)」

改善ではなく変革するためには、現状はあるがままに捉える「現状認識」が最初の一歩であり、正しい現状認識のポイントは「事実整理」「事実分析」「本質の追究」の3つのステップが基本になります。既存の事実をヌケ・モレがないように収集する、色メガネで物事を見ないようにする、全体観と客観的視点をもって進めることがポイントです。
現在のシステムは誰がどのように使っているのか事実を確認する。このシステムは現場ではこう使っているはずだ、という憶測や推測ではなく、未確認の情報を現地・現場・現物で丁寧に確認していくことが必要です。
また既存業務に精通している社員ほど、この担当業務はこのやり方でなくてはならない、という現場最適の現状認識に陥りがちです。現状認識を行うときは、常に全体を俯瞰して現場目線と経営目線を繰り返しながら正しい事実をつかみます。

IT化構想・IT戦略に必要な戦略着眼② 「あるべき姿(To-be)を目的の5乗で描く」

あるべき姿を描く際に必要なのは「目的の5乗」が必要です。そのIT戦略は何のために行うのか、IT化構想は何を目的・目標にして進めるのか、目的を5回以上繰り返して、あるべき姿の真の目的を問い詰めていくことが戦略思考のポイントになります。
IT化構想・IT戦略は、経営とシステムに精通する人がリーダーシップをとって推進することが必要ですが、システムに精通しすぎる人がリーダーシップを多くとる場面が増えてくると、システムの細部にこだわり部分最適のあるべき姿(To-be)を描きがちです。
プロジェクト形式でIT化構想・IT戦略を進めるのであれば、経営陣が最低でもオブザーバーとして入ること、可能であればメンバーにも入りながら自社のあるべき姿を描きます。

IT化構想・IT戦略に必要な戦略着眼③ 「ギャップ思考による実行ロードマップづくり」

正しい現状認識とあるべき姿が明確になれば、自社が目指すべき正しいギャップが見えてくるはずです。ギャップがまだこの段階で見えない、もしくは曖昧な点がある場合は、現状認識が不足しているか、あるべき姿に対する社内の議論が不足している可能性があります。
ギャップ思考で重要な点は2つあります。
1つ目は「できない理由ではなく、できる理由を考えること」です。理想が高ければ高いほど、できない理由が生まれがちですが、制約条件を外してみて、どうやったら実現できるかを考えてみることが大切です。
2つ目は「優先順位のつけ方」です。やるべきことはたくさん出てきますが、まず第一歩を踏み出さない限りIT化構想・IT戦略は実現しません。実現に向けて、誰がどの工程をどこから着手するのか、細心の注意を払って取り組むことが必要となります。

ギャップ思考イメージ図
図2 ギャップ思考イメージ図

貴社のIT化構想・IT戦略も、将来の企業価値向上につなげるために、正しいステップと工程を踏んで構築・実装し、「実行・推進」という実装段階で成果を確実に刈り取るための留意点を理解しておくことが不可欠です。

IT戦略の実行・推進の際の留意点

IT戦略の成否は、策定の緻密さだけでなく、それを「誰が、どのように動かし、定着させるか」という実行フェーズの工夫によって決まります。策定した戦略を推進し、確実に成果へと結びつけるために、以下の3点を特に留意し、推進体制を構築することが重要です。

1. 責任者(オーナーシップ)とガバナンスの明確化

IT戦略のオーナーシップは、曖昧にせず明確に定義することが極めて重要です。「システム部門への丸投げ」を防ぐため、必ず経営層または事業部門の責任者をオーナーに据え、全社的なガバナンス体制を確立する必要があります。この責任者が、戦略と事業目標との整合性を定期的に確認し、部門間の利害対立を調整する役割を担います。戦略実行を監督する専門の委員会や会議体を設置し、意思決定のプロセスと権限を明確にすることで、プロジェクトの停滞を防ぎ、迅速な意思決定を可能にします。

2. チェンジマネジメントによる組織的抵抗の克服

新たなIT戦略は、既存の業務フローや組織文化に必ず変革を求め、現場からは「抵抗」が生まれます。これが「システムは導入されたが、誰も使わない」という最大の失敗要因に繋がります。この組織的な抵抗を乗り越えるためには、システム導入と並行してチェンジマネジメントを計画的に実施しなければなりません。戦略の目的を全従業員に対し粘り強く伝え続け、新しい仕組みのメリットを「自分ごと」として理解させるためのトレーニングやフィードバックを継続的に提供することが定着の鍵となります。

3. KGI・KPIに基づく継続的なモニタリングと改善サイクル

策定した戦略は、一度実行したら終わりではありません。市場や技術の変化に対応するため、戦略の実行状況をKGI(重要目標達成指標)とKPI(重要業績評価指標)に基づいて定期的にモニタリングし、計画と実績の差異を分析する必要があります。この評価結果を基に、計画や施策を柔軟に見直し、改善策を立案・実行するPDCAサイクルを組織に組み込むことで、戦略の陳腐化を防ぎ、継続的な成果の創出を可能にします。

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AUTHOR著者
エグゼクティブパートナー
北海道支社 副支社長
水本 伸明

金融業界で統括業務、新規事業・業務開発担当を経て、当社に入社。一貫して生まれ故郷である北海道エリアの上場企業から中小企業までの経営課題解決パートナーとしてコンサルティングを実施。経営者の想いや企業特性に根差したコンサルティング展開を信条とし、中期ビジョン策定、グループ経営システム構築、経営者リーダーの育成を強みとしている。北海道の経営環境・エリア特性を熟知した経営課題解決手法に多くのクライアントから高い信頼を得ている。

水本 伸明
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