これまでのDXの潮流
昨今、問題視されている2025年問題。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、超高齢化社会に突入すると言われており、労働者不足の加速が懸念されています。加えて、コロナ禍における行動制限が緩和された現在、慢性的な人手不足が日本各地で起っています。企業では、これまで以上に業務効率化のためのIT化・DX化に向けた取り組みが求められます。
ウィズコロナやアフターコロナは、デジタルとリアルの良い面を組み合わせたハイブリッドな働き方を確立するためのデジタル技術の発達をもたらしました。また、インボイス制度や電子取引データの保存義務化への対応が必要となる2023年は企業活動のDX化がさらに加速されると予測されます。
このように2022年以前のIT化・DX化は、人手不足の解消や社内の利便性向上のための基幹系システムの刷新やRPA、AIなどのデジタルツールの導入、データの収集と利活用など、現行業務プロセスでのデジタライゼーションが焦点となっていました。
独立行政法人情報処理推進機構が発行した『DX白書2023年』のサブタイトルが「進み始めた『デジタル』、進まない『トランスフォーメーション』」であったことがまさにその象徴といえます。
2023年のDXの潮流
⑴Web3.0とは
Web3.0とは、分散型インターネットと説明されます。
「Web1.0」はWeb2.0・Web3.0の登場により後付けで生まれた概念ですが、1990年代のWebサイトやブログなどからのテキスト情報の取得が主な用途であり、発信者がごく一部に限られていた黎明期のインターネットを指します。
次に生み出された概念である「Web2.0」は2000年代半ばから現在に至るまでの、多くの人がインターネットを活用でき、誰もが情報発信者になれる時代を指します。また、情報発信者に対してWebサイトやSNSを通じてコメントやリアクションをすることも可能となり、双方向的なコミュニケーションが可能になったことも特長です。
そして「Web3.0」とは、スマートフォンなど、インターネットサーバを介さずに不特定多数の端末同士でデータファイルを直接共有できる情報技術であるP2P(Peer to Peer)技術が採用され、データの分散型と改ざん防止に強いブロックチェーンが誕生した時代を指します。これにより、Web2.0 時代にGAFAを中心に生じていた情報の中央集権化現象から、誰もが価値を提供し、誰もが価値を消費するといった価値の交換を安全かつ自由に行うことが可能になりました。
この、インターネット上で誰もが価値を提供し、誰もがその価値を消費できるようになったことがこの先のDXの潮流に大きく影響を与えると考えられています。
⑵NFTとは
NFTとは、非代替性トークンを表し、ブロックチェーンを基盤にして作成された代替不可能なデジタルデータを指します。NFTは代替不可能、つまり記録の改ざんが困難であるという特徴から、従来のデジタルデータと違い、デジタルデータに資産的価値を付加することが可能となったため、NFTマーケットプレイスと呼ばれるインターネット上のプラットフォームで取引が可能となりました。
さらにNFTのもう一つの特徴として、プログラマビリティがあります。プログラマビリティとは、NFTに様々な情報や機能を追加できることを指し、これにより、NFTマーケットプレイスで二次販売、つまり転売が起きても「売上一部をクリエータに納める」というプログラムを付与することによって、クリエイターは二次販売が生じる度に収益を得ることが可能となります。
このNFTによって、ビットコインやNFTアートが生まれました。最近では、NFTアートが日本円にして75億円で落札されるなど、高額取引がなされていることも注目されています。
⑶メタバースとは
メタバースとは、仮想空間を表し、インターネット上に構成された3次元の世界をいいますが、現実世界に限りなく近い状態で自分自身の分身であるアバターを介し、活動することができます。
メタバースの先駆けは、2003年にリリースされた3次元仮想空間の「Second Life」であり、日本でも2006年ころにブームになっていますが、昨今のコロナ禍では、現実世界と仮想世界をシームレスに繋ぐことができるバーチャルオフィスが注目されました。
⑷AIとは
最近では聞き慣れたワードとなった「AI」とは、今だ確立した定義はされていませんが、「人間の思考プロセスと同じような形で動作するプログラム、あるいは人間が知的と感じる情報処理・技術」といった広い概念を表します。
最近では、AIで制作した作品がアートコンペで優勝したように、テキストから画像を自動生成することができたり、最近注目を浴びているオープンAI社のChatGPTに代表されるように、ただチャットやコミュニケーションをするのみでなく、自動検索や間違いや解決策をAIが提案してくれるなど、凄まじい進化を続けています。
これらの技術により、提供者、つまり企業側が一方的に提供するのではなく、ユーザが一体となって創作・共有、利用できるようになり、顧客体験価値を見出せるようになった点が、これまでの潮流とは大きく異なるポイントといえます。
CXを向上させるDX推進の事例
企業と顧客の距離を縮めCXを向上させる「NIKE」の事例
1.バーチャルとリアルを融合させたNFTファッションブランド「RTFKT」
世界的シューズブランドのNIKEでは、NFTファッションブランドであるRTFKTを買収し、デジタル上で購入、着用するためのシューズブランドの販売を開始しました。一般的なNFTファッションはこのようにバーチャル空間のみにて利用することが前提とされていますが、RFTKTでは、Bluetoothとのペアリング、歩行検知、触覚フィードバック、ワイヤレス充電機能などを搭載することで、仮想空間と現実世界の両方で利用可能なデジタル上のシューズ販売も開始する予定です。
2.NIKE製品を体験できるバーチャル空間「NIKELAND」
ユーザがゲームを作成・共有したり、他のユーザが作成した様々なゲームをプレイしたりできるプラットフォームであるRobloxの中で、NIKEのファン同士が繋がり、自作のゲームを創作したり、ゲームで競い合ったり、NIKEブランドを体験することができる「NIKELAND」を開設しました。ここでは、デジタルショールームで自身のアバターに特別なNIKE製品を着用させることができたり、フットボールブーツを着用させてサッカーを体験させることもできたりします。
3.顧客一体でブランド制作をするためのプラットフォーム「.SWOOSH」
NIKEでは次なるバーチャルクリエーションプラットフォームとして、「.SWOOSH」を立ち上げました。.SWOOSHは、現在ブランドに関わっている、またはこれから関わりたいと考えているすべての人が「スポーツの未来をデザインし所有するため」に集える仮想空間と位置付けられています。そこでは顧客がブランドのアパレル、スニーカー、ゲームや没入型体験用を共同で作成するだけでなく、プラットフォーム内で物理的および仮想アイテムの購入、取引、および保持することも可能です。
AIにより蓄積されたデータを活用する「Amazon」の事例
Amazonで商品を購入した後に出てくる「この商品を買った人はこんな商品も買っています」の表示は、まさしくビッグデータが活用されている事例の一つです。
これは、ECサイトの購入履歴やKindleの行動履歴、アレクサの音声・画像データなど、Amazonがこれまでの企業活動のなかで収集され、AIによって分析されたデータと、個人の購入履歴やプライム会員、一般会員など個の分析によって生み出されたデータをかけ合わせたものです。
これによりAmazonはCXを高め、顧客価値の創造を続けています。
DXを推進する上で、企業が取り組むべきアクション
DX推進のためにはベースとなるDX推進体制を構築する必要があります。
ここでは、それを構築するための方法について触れていきます。
(1)経営トップ自身が「覚悟」をもって取り組む
まずは経営トップのDX推進に向けた意識改革が欠かせません。デジタルの俊敏性を高める上では経営の中枢にデジタルに強い人材が必要です。近年では、パナソニック コネクト株式会社が元日本マイクロソフトCTOを招請するなど、IT企業出身者を社長として据える例も出てきています。
当然ながら、これら以外にも経営トップ自身が10年・20年先を見据え、先端技術のトレンドを把握し、ノウハウを獲得するなど積極的に学ぶ姿勢が必要です。
(2)自社のDXにおけるポジションを知る
次に自社が今、DX推進においてどの段階にいるのかを知ることが必要です。下図は経済産業省より2020年に発信されたDXレポート2に「DXフレームワーク」として掲載された図です。DXの推進は必ずしもデジタイゼーション→デジタライゼーション→デジタルトランスフォーメーションの順に実施を検討するものではないとしていますが、自社の現在のポジションを知らないままではDXビジョンや戦略、つまり目指すべき方向性にズレが生じ、失敗に終わるリスクが高まります。
出典:経済産業省「DXレポート2」図 5-9 DX フレームワーク
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(3)事業ポートフォリオにおける競争領域の切り分け
次に、投資を集中させ自社の競争力を高めるために、自社独自の強みを発揮できる「競争領域」とそれ以外を切り分けることが必要です。そうすることで、DX戦略において、システムの独自開発など、多くの経営資源を投下すべきであるか否か、明確な根拠を持って判断することが可能となります。
(4)企業全体のDXをデザインし、強力にリードできるDX専門組織の設立
DX戦略の立案機関やDX推進部門が存在せず、社内の各部門ごとにデジタル施策を独自で検討・推進していたり、社内のITサポートが不十分であると、企業全体のDXを構想し、推進していくことは困難です。特に、先に記した「競争領域」への投資においてはシステムベンダーに自社にあった条件を提示できるまでになることが望ましいと言えます。
そのためにはITエンジニアをはじめとするデジタル人材の獲得など、DX推進のための体制を整備することが必要となります。その際、DX推進部門が孤立し、自社の事業や実態に合わないDX構想を描かないようにするためには、企業の強みや特性をよく知る社員のITスキル向上が必須であり、リスキリングなどの人的投資も重要となります。
このように、業務のデジタル化、製品・サービスのデジタル化、そして顧客体験価値向上のためのビジネスモデルのデジタル化を推進していくために、まずはベースとなる社内のDX推進体制と整備することが必要です。
これからのDXは、誰もが安心・安全に価値提供をし、消費することができるものになっていくと予想されます。これまでの「利便性の向上を求めるDX」から「企業と顧客が一体となりCX向上のためのDX」、「データの収集のためのDX」そして「本格的にデータを活用するためのDX」へと進化を遂げるでしょう。
そのためには、企業全体でDXをデザインし、推進するための社内体制の整備が不可欠です。
「自社がDXを通じて何を目指すのか」というビジョンからDX戦略を描き、実践すべき改革テーマへ落とし込むメソッドを提言します。