本コラムは、ダイヤモンド社発行の「DX戦略の成功のメソッド~戦略なき改革に未来はない~」の第1章の抜粋記事です。
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ここまで、DXの潮流と企業の課題、戦略の必要性などについて述べてきた。では、これか ら企業はどのようなDX戦略を構想し、具体的に対策を立案し推進していくべきであろうか。
TCGでは、DX戦略は明確なDXビジョンに基づく5つの領域からアプローチすべきだと考えている。5つの領域とは、「ビジネスモデルDX」「マーケティングDX」「マネジメントDX」「オペレーションDX」「HR(ヒューマンリソース:人的資源)DX」である【図表1-13】。
①ビジネスモデルDX
デジタル技術を活用して業界構造が変わり得る商品(製品・サービス)を開発・提供する。また、そのような商品に対応する事業戦略を策定、推進する。
②マーケティングDX
デジタル技術を活用してマーケティングプロセス(売れる仕組み)を変革し、競争優位性を確立する。なお、これは〝デジタルマーケティング〟とは異なるということに注意したい。デジタルマーケティングは、SNSやウェブサイトなどITツールを用いたマーケティング手法である。これに対しマーケティングDXは、開発・価格・流通チャネル・プロモーションなど広義のマーケティングプロセスをデジタル技術で変革し、競争優位性を生み出すことである。
③マネジメントDX
ITツールやシステムを活用し、定型業務や非付加価値業務の効率化を図るとともに、自社の付加価値に転換が可能な情報資産の蓄積と、情報やデータに基づいたスピーディーな経営判断の実現を目指す。
④オペレーションDX
アナログ技術とデジタルテクノロジーとの融合によるハイブリッドな戦略を策定し、具体的なオペレーション改善策を開発。ハード面はもちろん業務や社風の見直しを行うことで、個人・組織の効率化と生産性向上を図る。
⑤HRDX
人事に関わるデータの解析を通じ、人材活躍に向けた仕組みの最適化を図る。ITツール(HRテック)を用いた採用管理や人事評価など、人事業務全般の効率化を図ることとは異なる。単なる人事業務の効率化のためではなく、社員に関する情報をもとにピープルアナリティクス(分析)を行い、適正人材の採用や適性に応じた人材配置、効果的な人材育成などを行う。
5つのDXで忘れてはいけないことは、「なぜデジタル化しなければならないのか」「DXを進めた先に自分たちはどうなるのか」という、未来に向けた問いに答えられる「DXビジョン」である。そのビジョンが中核にあることで、すべての取り組みや行動に共通する一貫した意図が関係者全員に伝わり、賛同や協力が得られるからである。
DXビジョンは、組織の将来像や目指す姿、未踏の目標といえる。自社は将来どうなりたいかという「ビジョン」を構想し、いつまでに何を達成するかという「ロードマップ」を設計して、これから何をすべきなのかという「アクションプラン」を策定する。それを絵空事にしないためにも、策定するビジョンはできるだけ自社の強みを土台にすることが望ましい(往々にして「やりたいこと」が先走り、未経験で実現困難な〝夢〟を掲げるケースも散見される)。
もちろん、5つすべてのDXを同時に展開することは困難なため、重点課題を明確化した上で取り組むことが求められる。その優先順位を付けるとともに、取り組み内容を社内外に発信すれば、それがブランディングにつながる。そしてこれらの取り組みにおいては、上流からの設計がきわめて重要であり、経営者が意思を持って決断することが不可欠となる。
「自社がDXを通じて何を目指すのか」というビジョンからDX戦略を描き、実践すべき改革テーマへ落とし込むメソッドを提言します。