日本企業におけるDX化の遅れ
DX推進の現状
『DX白書2023』によると、日本でDXに取組んでいる企業の割合(「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取組んでいる」の合計」)は2022年度では前年比13.5ポイント増の69.3%であり、2021年度~2022年度の1年間でDXに取組む企業の割合は増加したといえます。ただし、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」企業の割合は米国が68.1%に対して日本が54.2%であり、全社横断での組織的な取組としては一層の推進が求められます。
DXの取組において、日本で「成果が出ている」の企業の割合は2021年度2022年度にかけ8.5ポイント増加し、58.0%であった一方、米国の89.0%と比べると、DXの成果の創出における日米差は依然として大きいといえます。
DX推進のために求められること
このように日本においてDX化が遅れる中で、経済産業省では『DXレポート2』にて「デジタル化が進む現代社会において企業が目指すべき姿」を示しています。
ここでは、DXの定義を「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する」こととしており、そのためには「中長期的な課題も見据えながら短期間の事業変革を達成し続ける必要がある」としています。さらにそれを実現するためにはまず「短期間で実現できる課題を明らかにし、ツール導入等によって解決できる足元の課題には即座に取り組み、DXのスタートラインに立つことが求められる」としています。
「DXフレームワーク」とは
DX戦略とDXフレームワーク
政府は個社のDXを確実に推進するためには「経営層、事業部門、IT部門が対話を通じて同じ視点を共有し、協働してビジネス変革に向けたコンセプトを描いていく必要がある」としており、そのための手段の一つに"DXに向けた戦略の立案"を掲げています。
DX戦略策定のためには経営とITが表裏一体であるとの認識を持った上で、「ビジョンや事業目的といった上位の目標の達成に向けて、デジタルを使いこなすことで経営の課題を解決するという視点」「デジタルだからこそ可能になる新たなビジネスモデルを模索するという視点」を持つ必要があるとしています。
その上でDXの成功事例の中から自らのビジョンや事業目的の実現に資するものを選択することで、DXについての具体的な取組を推進できるようになるために「DXの具体的な取組領域や、成功事例をパターン化し、企業において具体的なアクションを検討する際の手がかりとなる『DX成功パターン』を策定」すべきであるとしています。
このDX成功パターンには、戦略の立案や展開の前提となる「組織戦略」「事業戦略」「推進戦略」の3つの領域が含まれます。
・組織戦略
企業全体の方針を決めるにあたり、経営者・IT部門・業務部門が対話し、共通認識を持っておく。
・事業戦略
既存事業の見直しと、それにより生まれた投資余力を新事業の創出にあてる。予め社内で両事業の投資バランスを決めておく。
・推進戦略
アジャイル的なDX推進により、段階ごとにスピード感を持ってDXを実施する。
ここからも経営とITが表裏一体であることが読み取れます。
さらに、「企業がDXの具体的なアクションを組織の成熟度ごとに設計できるように、DXをデジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションという3つの異なる段階に分解する」ことが有効であるとしています。
さらに、自社が取り組むべきDXの取組領域を明らかにするために、DXの各アクションを取組領域とDXの段階に分けて整理したものが"DXフレームワーク"です。
「DXフレームワーク」について
この"DXフレームワーク"は、様々なDX事例をDX成功パターンとして形式化する際に用いるものであり、DX取り組み対象領域に焦点を当て、デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションの3段階ごとの具体的なアクションを整理したものです。
推進段階は「未着手」、システム化によりデジタルデータ化された段階としての「デジタイゼーション」、個別業務プロセスがデジタル化された段階としての「デジタライゼーション」、そして事業・組織全体がデジタル化された段階としての「DX」の4段階で、対象領域は「ビジネスモデル」「製品・サービス」「業務プロセス」「プラットフォーム」「体制の整備(企業文化・風土・組織体制)」の5つで整理されたDXの全体像となります。
このDXフレームワークは、領域ごとに自社のDXへの取り組みの状況を可視化し、不十分な点や強化すべき領域の整理のために有効です。さらにその整理結果を踏まえ、自社の各領域の取り組み状況を俯瞰し、DXをゴールに設定した上で、そのゴールから逆算することによって具体的なアクションプランを検討する際にも活用できます。
DX成功パターン
『DXレポート2』では、DX成功パターンとして製造プロセスのソフトウェア化を例示しています。
「装置を占有する作業時間を減らし、ファースト ロットの生産までにかかる時間を短縮」すること、「職人のノウハウをデータ化して再利用可能にし、職人をより高付加価値な業務にあてる」ことを目的にDXのゴールを「製造の遠隔化」と設定し、デジタイゼーションの段階では「製造装置の電子化」、デジタライゼーションの段階では「製造プロセスのソフトウェア化」を進めるというものです。
DX戦略を成功させるために活用できるフレームワーク
DX戦略を成功させるために活用できるDXフレームワークの例として、具体的に以下のようなものがあります。
・SWOT分析
SWOT分析は、自社の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)を評価するためのフレームワークです。
・PEST分析
PEST分析は、外部環境の要因を分析するためのフレームワークです。
PESTはそれぞれ、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの要素を指します。
・3C分析
3C分析は、顧客(Customer)、競合他社(Competitor)、自社(Company)の3つの要素を重点的に分析します。
上記フレームワークを採用し、効果的に活用することで、DXを成功に導きましょう。
DX戦略実現のためのアクションを明確化した資生堂の事例
化粧品メーカー大手の株式会社資生堂では、中期経営計画である『SHIFT 2025 and Beyond』の中で「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」を目指し、2030年に目指す姿として、「Personal Beauty Wellness Company」を掲げています。
これを達成するために2027年のコア営業利益率目標を15%と定め、日本事業においてはスキンビューティー領域への積極投資、中国事業で量から質を重視するマーケティング改革を通じた持続的な成長基盤構築など、事業ごとにこれまで取り組んできた愛用者基盤確立やコスト構造改革を加速する戦略を立案しています。
この中期経営計画の中では、これらの戦略を実現するための取り組みとして「Global No.1 Data-Driven Personal Skin Beauty & Wellness Company」というデジタルビジョンの実現を目指しています。
ここでは2025年のEコマース売上比率は40%、媒体費に占めるデジタル比率は90%を目指し、同時に社員のデジタル能力向上を目標として掲げており、生活者データの拡大、CRMプログラムによるライフタイムバリューの最大化とパーソナライゼーションの推進を図っています。さらに AI を活用したサービス提供や統合基幹システムの構築・導入を通じた業務変革プロジェクト「FOCUS」については2024年までにすべての地域で導入を完了させ、自社開発力強化のためのグローバルOneIT組織の構築を目指しています。
このデジタルビジョンを実現するうえで同社では、レガシーシステムの部分最適な更新・運用や、各機能・バリューチェーン間の連動の不十分でリージョンごとにIT基盤整備になっていると課題を抱えていました。先行きが不透明な環境の中で正しく事業環境を見極め、戦略を実行するためにはこのIT事業基盤を再構築が喫緊の課題と捉え、業務プロセスの標準化と統合基幹システムの構築・導入を通じた、あらゆる事業活動の迅速化・生産性向上に取り組んでいます。
また、お客さまを基点に、研究開発から、調達・生産・物流マーケティング・営業までが一気通貫したデータでつながるバリューチェーンへの変革のため、2021年7月に資生堂インタラクティブビューティー株式会社(以下、SIB)を設立しました。SIB立ち上げ以前より、お客さまとのあらゆるタッチポイントでビューティー体験を提供できるよう、さまざまなプラットフォームの連動とそのプラットフォームを最大限に活用した取り組みや、各ブランドサイトや総合美容サービスサイトである「ワタシプラス(watashi+)」でのビューティーコンサルタントによるライブストリーミングを実施に取り組んでいます。
さらにこうした活動から得られる多くのデータを最大限に活用するために、それぞれのデータの持つ価値や活用目的などを分析・整理し、各ブランドホルダーとデータの見方、考え方を共通化するほか、ブランドごとのマーケティングROIを可視化するなど、データドリブンな意思決定を業務プロセスに組み込んでいます。
DXフレームワーク活用のポイント
資生堂の事例に現れるように、DX戦略策定は経営戦略を実現する手段の位置づけとなっている必要があります。そしてDX実現のためには、DX戦略で設定した「目指すべき姿」に対して、領域ごとに現在の自社のDXへの取り組みの状況を可視化し、不十分な点や強化すべき領域の整理することが重要です。その上で目指すべき姿を実現するために、「成功パターン」を形式化することが大切です。
このように、DXフレームワークは目指すべき姿から逆算した具体的なアクションプランを検討や取り組み事項の振り返りのために非常に有効です。
DX戦略で描いた目指すべき姿を実現するためには、経営層から現場で活躍する社員まで、階層ごとの現状把握をすることで自社のDXの取り組み状況を明確化する必要があります。さらに可視化された現状と目指すべき姿とのギャップを埋めるために「成功パターン」を設計することが重要です。
目指すべき姿とそれを実現するためのアクションについて、DXの推進段階と階層別に整理しプランニングができる「DXフレームワーク」を有効活用してみてはいかがでしょうか。
「自社がDXを通じて何を目指すのか」というビジョンからDX戦略を描き、実践すべき改革テーマへ落とし込むメソッドを提言します。