1.DXと経営戦略の関連性とは
(1)DXビジョンが求められる背景
急速に普及しつつあるデジタル・テクノロジーは、これまでの技術革新をはるかに上回り、デジタル・トランスフォーメーションの市場規模は、2023年の6,955億米ドルから、2030年には3兆1,449億米ドルの規模への成長が予測され、予測期間中のCAGR(年平均成長率)は24.1%が見込まれています。※1GAFAMが世界のデジタル市場でその名を轟かせるようになったのはここ10~20年です。テクノロジーの進化に伴い、デジタル・ディスラプション(破壊的イノベーションの意)の可能性が無いマーケットは、もはやどこにもないと言えるでしょう。
あらゆる業界でディスラプションが加速する中、DXは競争力強化に不可欠な戦略といえますが、一方で、 組織だけの"デジタル部門" の設立や、既存のレガシーシステムの壁に阻まれたり、バリューチェーンからかけ離れた"デジタル商品" の開発を行っていても変革は実現できません。DXを通じて何を実現したいのか。DXの推進には、経営者を中心として全社で変革に取り組む姿勢が大事であり、DXが各部門に偏ることのないよう、事前に組織 全体でDXにおける「DXビジョン」の策定および共有が必要になります。
DXは企業変革そのものであり、従来のビジネスの在り方はもちろんのこと、組織全体や企業文化の変革まで踏み込むことが必要な戦略です。そのため上述の通り、個別の部門のみで進めるプロジェクトでなく全社で取り組む必要があり、特に経営戦略との連動性が重要になります。暫時的な取り組みではなく、DXを軸とした企業の在り方を変革し、目指すべきゴールの設定、「DXビジョン」の策定が今、求められています。
※1...グローバルインフォメーション「デジタルトランスフォーメーションの世界市場 (~2030年))」(2023年07月)
(2)経営戦略と連動したDXビジョンの重要性
前述したように、目指すべきゴールの設定、「DXビジョン」の策定が求められています。政府が認定した「DX認定制度」でも、DX成功のために、「まずはデジタルを前提とした経営ビジョン・DX戦略とその推進体制作りが必要」とその必要性に言及しています。「何からやるか」の前に、「DXを通じて何を実現したいのか=DXビジョン」を描き、「ビジョンとオペレーションをしっかりとつなぐ」ことが重要です。自社がどのように変わるべきなのか、何を目指していくのか、戦略を明確に描いてその戦略のもとで全社を挙げてDXを推進していきましょう。
そのことを十分に理解せず、「手段が目的化」しDXで何を目指すのか曖昧なまま進めてしまった結果、思うような成果を得られなかったケースも多くみられます。それらの要因の多くは、デジタル技術などのテクノロジーの問題ではなく、不明瞭な戦略、もしくは戦略そのものの欠如から起因します。
以上から、経営戦略と連動したDXビジョンの策定が重要だという事になります。
2.経営戦略とDXの連携方法
(1)DX実現のためのプロセス
真の意味でDX化を推進していくためには、経営戦略と連動した「DXビジョン」の策定が必要です。DXとは企業変革でありますが、トップの"想い"を具現化したビジョン、戦略なくしてディスラプションはありません。「目的」を明確にしたデジタル「手段」の選択と活用が重要ということになります。
(2)DXビジョンの策定
ではここから経営戦略と連動したDXビジョンの策定について解説します。大枠の策定プロセスは下記のとおりです。
①現状分析
現状の「課題」と「将来的なチャンスとリスク」を把握します。
②方向性検討
戦略の方向性を検討(どの領域でどこまでDXを進めるか)
③ビジョン策定
DXビジョンを明文化
繰り返しになりますが、DXとは全社を挙げた企業変革であり、大きな策定の流れは通常の経営ビジョン策定と同様の流れとなります。DXビジョンは中期経営計画などと独立して策定せず、必ず連動して策定を行いましょう。DXを踏まえた中⾧期ビジョンがあればさらに良いです。このプロセスを通じて策定されたDXビジョンは、DXを実現するための最上流ステップとなります。
(3)DXビジョン策定の具体的なプロセス
タナベコンサルティングでは、DX領域をビジネスDX、マーケティングDX、マネジメントDX 、HRDXの4セグメントに分類をして整理しています。
①ビジネスDX
ビジネスモデルDXとは"デジタルディスラプション"の考え方を軸に、「業界構造が変わり得る商品・サービス」を開発・提供すること、またはそのような商品・サービスに応対する事業戦略を策定・推進することを指します。
②マーケティングDX
マーケティングDXとはデジタル技術を活用しマーケティングプロセス(売れる仕組み)を変革することで競争優位性を確立することを指します。
※手法としてのデジタルマーケティングとは異なる定義をしています。
③マネジメントDX
マネジメントDXとはデジタルツールを活用し、定型務業・非付加価値業務の効率化を図ると共に、付加価値へ転換可能な情報資産の蓄積と情報に基づくスピーディーな経営判断の実現を図ることを指します。
④HRDX
HRDXとは人事に関わるデータの解析を通して、人材活躍に向けた仕組みの最適化を図ることを指します。
※デジタルツール(HRテック)を用いた採用管理や人事評価など人事業務全般の効率化を図ることとは異なる定義をしています。
この4つのセグメントで、システムありきでなく大局的に現状分析を行っていきます。それぞれのセグメントごとの現状分析のポイントは下記の通りです。
【マネジメントDX】
①デジタルディスラプションの可能性がどれほどあるか
デジタルディスラプションに対する備えが必要かディスラプションを起こす側になるかの観点で分析をします。
②デジタル市場拡大の影響はどれほどあるか
自社の市場及び関連市場は縮小しないか、デジタルサービスへの参入は必要かの観点で分析します。
【マーケティングDX】
①デジタルマーケティングが効果的か
ターゲット規模・市場成熟度・商品数などの観点から分析します。
②マーケティングプロセスに変革が必要か
活用できる情報・ノウハウはあるか、今後集積すべき情報はあるかを確認します。
③バリューチェーンに変革が必要か
バリューチェーンごとの技術革新情報を押さえましょう
【マネジメントDX】
①システム全体が最適な形になっているか
管理機能として不足がないか、システム間連携が手作業になっていないか等を確認します。
②判断に必要な情報が可視化されているか
データに基づいたスピーディーな経営判断が行えているか否かの観点で分析をします。
③情報資産の管理が適切になされているか
各情報の保管方法と活用度を確認します。
【HRDX】
①人材戦略はあるか
組織・人事の課題を可視化し、人事戦略実現にあたって活用できるHRテックを検討する。
②人材戦略実現に向け可視化すべき情報はなにか
ノウハウや保有スキル、評価履歴、エンゲージメントなど、戦略実現に向け可視化すべき情報を整理します。
上記はビジネスにおけるセグメントごとの経営課題を、デジタルでの課題解決を前提とした現状分析の観点の一例になります。このような着眼で現状分析を通じて自社の立ち位置を把握し、あるべき理想像からバックキャスティングで方向性を検討することが、DXビジョン策定のポイントとなります。また、ビジョンと共に、DXの推進にはロードマップの作成も必要です。組織を組成し、具体的なアクションに落とし込むことで、タスクを明確化し、効率的にプロジェクトを進めましょう。
3.経営と連動したDXビジョン策定の期待効果
DXビジョンが策定されると、経営戦略実現のための様々な効果が期待できます。下記は期待効果の一例です。
(1)ビジョン、戦略はあるが、「DX軸」で整理できていない
DXビジョンが明文化されるため、社員・関係者の"理解度"が高まり、改革が"加速"する
(2)ツールは活用しているが、将来のデジタルのロードマップが描けていない
全体最適目線でシステム構想を描くため、"つながり"のある実用的なDXロードマップが描ける
(3)DX領域のプライオリティがつかず、場当たりな投資に終始している
採算性を加味した投資計画と人材育成計画で、円滑なDX"投資判断"と、"DXカルチャー"醸成が期待される
4.まとめ
DXは企業変革そのものであり、組織全体や企業文化の変革まで踏み込むことが必要な戦略です。既存のレガシー文化から脱却しなければ変革を成し遂げることは不可能と言えます。
DXと経営戦略の関連性について解説してきましたが、デジタル技術はあくまで手段であり目的ではありません。事業・経営戦略と連動したDXビジョンを策定し、全社で共有・推進を図ることで、企業成長・変革を実現していきましょう。
以上