デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が経営課題に挙がることが珍しくない昨今ですが、まだまだ営業現場ではDX推進による恩恵や変化を感じることができない企業も多くあります。そもそも営業現場やマーケティングにおけるデジタル化はされていない企業も多くあり、いまだ古くからの営業手法のまま、働き方改革だけが先行している企業も多々見受けられます。
営業DXとは
営業領域におけるDXであり、今までは営業パーソンやマーケティングチームが人の手を 使い行っていた業務をデジタル化することです。MAツールを使いメルマガを配信、開封状況やリンクのクリック率を分析し、購買意欲の高いクライアント情報を営業にトスすることなどがその一例といえます。
営業DXがもたらすメリット
DXがもたらすメリットは営業生産性の向上です。WEBやシステムは24時間365日休まず働いてくれます。今までは営業パーソン一人ひとりの労力と時間を使い成り立っていた業務をシステムやツールが代わりに行ってくれることにより、「オイシイ所だけ営業が持っていく」ことを実現できます。見込みが低い先への電話営業、担当変更毎に起きる一からの関係構築などのマイナス面が格段に減り、商談決定率の向上、業務時間削減、顧客情報の蓄積など波及されるメリットは多岐にわたり、多くの課題解決に繋がります。
営業DXが失敗する要因
様々な要因がありますが、経営者も気づいていない要因の一つに「部分的なデジタルの導入」があります。ある部分はデジタル、ある部分は古い体質のままになってしまうことで、効果が表れにくくなります。一つ一つが独立しバラバラで繋がりのないものはDXとは言えません。仮に部分的な導入となったとしても、その効果によって変わる部分は少なからずあるはずです。マーケティングファネルなどに沿って営業フロー全体を俯瞰し、各々のデジタル化した分やリアルでの営業活動と連動させることが必要となります。
営業DXの成功事例
とある製造業の企業では、新規顧客の獲得は電話営業や飛び込み営業、顧客情報は各営業パーソンの頭の中にあり、受注間際になってExcelに手入力といった一昔前の営業フローでした。そこで社長直轄のプロジェクトチームを組成し、管理職クラスはもちろん若手の優秀な営業パーソンも参画し営業DX化へと取り組みました。主な重点項目として
①自社の強みやサービスを発信できるマーケティングサイトを制作
②CRMツールの導入により顧客情報を一元管理
③SFAツールを用いて案件情報の共有化と先行での業績管理を実施
④MAツールを用いてメルマガ配信の結果をすべて見える化、分析
⑤WEBを用いた各種プロモーション
といったDX化が挙げられます。
上記①~⑤のDX化を実施し営業フローが整った後、半年での引き合いは50件を超える高い成果を出しています。
(1)自社の強みやサービスを発信できるマーケティングサイトを制作
今までは営業の武器というと共通のカタログ、もしくは手作りのパワーポイントの資料、営業のトークしかありませんでした。
個人の経験値や力量に左右され、新人や中途採用の社員が入ってきた際にはベテランメンバーに話を聞く、現場のOJTに頼る等しか方法はありませんでした。もちろん打ち合わせや相談などのコミュニケーションを取ることも大事ですが、それ以上に準備などに時間がかかりすぎているケースも多く見受けられました。
そこで自社の商品やサービスの強みを改めて見直し、ポイントをしっかりと伝えられるマーケティングサイトを立ち上げることで営業の均一化を図りました。営業パーソンが説明せずともマーケティングサイトが勝手に紹介してくれるイメージです。売れるトップ営業パーソンが考える商品やサービスの強みや特徴をマーケティングサイトにどれほど入れられるかポイントとなります。また検索キーワードのボリュームや他社情報なども分析しWEB上で優位に立つためのページ作りも行います。また販売重点商品や新サービスなど注力していきたい商品をタイムリーに反映することができる点も大きなポイントとなります。
(2)CRMツールの導入により顧客情報を一元管理
今回の企業では名刺管理ツールは導入しているものの、顧客との面談記録などは全社で共有されていませんでした。ベテランが抜けるとダメージも大きく引継ぎがうまくいっていないケースも多々見受けられていました。前述した部分的なDXによる失敗の好事例といえます。そこでCRMツールを導入し、今まではブラックボックス化されていた顧客情報を全社の財産として残していくことが可能となりました。またMAツールでの分析結果も自動で記録することで、顧客一人一人の動きも蓄積することができ、様々なマーケティング戦略が可能となっています。
(3)SFAツールを用いて案件情報の共有化と先行での業績管理を実施
上記②のCRMと連動してSFAツールによる詳細な商談の情報も蓄積しています。また案件の受注確度を示すランク基準も新たに刷新し、それまでは手作業での集計だったものを自動化し、会議間際での資料作成の時間が無くなりました。また先行での業績管理も容易となり、様々な対策を先手で打つ体質へと変わりました。もちろんその対策、例えばメルマガで反応が良かったクライアントをピックアップなど、必要な情報もSFAツールを用いて分析を行いながら対策を立てています。
(4)MAツールを用いてメルマガ配信の結果をすべて見える化、分析
メルマガの送付後、誰がいつメールを開封してリンクをクリックしてくれたかがすべて見える化され蓄積されていきます。それまでは休眠顧客で誰もアタックしていなかった企業へこの情報をもとにアタックすることが出来るようになり、また反対に自社の商品やサービスにまったく興味がない顧客へのアプローチが減少されました。営業リストの一つとして活用されています。
(5)WEBを用いた各種プロモーション
WEB広告やプレスリリースなど、WEBでのプロモーションも併せて展開し、新規での問い合わせの獲得にも力を入れていきました。WEB広告やPRサイトなど比較的安価なものに出稿し、自社のサイトへ引き込むという流れがマーケティングサイトを作成したことで可能となりました。これまでは新規の活動はというと、古くからのリストを用いた電話営業、営業の感覚による飛び込み営業しか選択肢は有りませんでしたが、大きな営業生産性向上の一歩だったと言えます。
営業DXを推進する際のポイント
推進する際のポイントをまとめると以下の3つとなります。
①部分的なデジタル化ではなく、マーケティングや営業全体をみてデジタル化を実施
②マーケティング担当、営業だけではなくトップを含め全社で仕組みを理解、推進
③業界や会社の風習や仕組みにとらわれない
上記ポイント3点をいかにスムーズ、かつ強力に推進していくかが営業DX成功への重要なポイントとなります。
①部分的なデジタル化ではなく、マーケティングや営業全体をみてデジタル化を実施
CRMツールだけ、MAツールだけでは最大のパフォーマンスを発揮することはできず、時間が経つにつれて使用されなくなり失敗に終わります。導入前にマーケティング、営業全体を俯瞰したうえで、デジタルツールの導入を検討します。前後のフローはどう変わるのか、ほかに影響されるところはないかなど、細部まで検討しながらしっかりと仕組化していくことが重要です。
②マーケティング担当、営業だけではなくトップを含め全社で仕組みを理解、推進する
DXを推進していくうえで、新しくプロジェクトチームを作る、マーケティング担当者が兼務するなど組織の状況は様々ですが、成功している企業で共通して言えることはトップ自らが率先して積極的に活用していることです。例えば「MAツールはどうなっているか、使われているのか」の確認ではなく、「メール開封率はどうか。受注につながるリードはとれたか」などの具体的な確認をすることです。そうすることで全社に浸透し、早く効果が表れるようになります。
③業界や会社の風習や仕組みにとらわれない
DXに限らずですが、「うちの会社はこうだから」「この業界は昔から決まっているから」など狭い視野でみていると成長はストップしてしまいます。古い習慣や風習をひっくり返すほどのデジタル化が現代では進んでいます。他の企業や業界の成功事例や体験をいかにわが社に取り入れ、実行していくかが成長のポイントとなります。
上記ポイントが一つでも出来ていない企業は必ずどこかでプロジェクトが止まり、多くの時間と費用を使い導入したツールが使われなくなるなど、失敗をしてしまいます。ツール自体は良いものを入れているのに活用しきれていないなど、非常に残念なもったいない会社を多く見てきました。逆に止まっている会社においては上記ポイントが出来ているかをチェックしてみると良いでしょう。
DXは手段であり目的ではありません。今後もデジタル化の流れは続いていきます。わが社に合うデジタル化を見つけ推進していきましょう。