本コラムは、ダイヤモンド社発行の「DX戦略の成功のメソッド~戦略なき改革に未来はない~」の第4章の抜粋記事です。
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DXは、「自社は何のためにデジタル化を進めるのか」「DXによって自社は何を目指すのか」という問いを立て、そのゴールを示す「DXビジョン」を策定し、そこに至るまでのストーリー(ロードマップ)を具体的に描くことが重要である。
ただ、DXビジョンを策定するといっても、何をどうすればよいか見当もつかないという経営者が意外に多い。今のデジタル社会の進展すら予測できていないのに、デジタル化した自社の未来像を描くことなど無理というわけだ。DXビジョンをSF小説のような現実味のない絵空事として捉えている。しかし、勘違いをしてはいけない。DXビジョンは目的であって、〝予測〟や〝空想〟ではないということである。「こんなことができたらいいな」「いつかはそうなればいいな」ではなく、「こんなことをやりたい」「いつまでにこうなりたい」と決め、それを具現化するにはどのようなデジタル技術が必要かを考えることである。
したがって、DXビジョンは自社のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)と連動させる必要がある【図表4‐1】。言い換えれば、MVVとつながらないDXビジョンは、ビジョンではなく〝ディルージョン〟(妄想)に過ぎない。
成長企業の原理原則は「経営理念から社員の行動レベルまで首尾一貫している」ことだ。その手段となるものがMVVである。ミッション(使命)とは、自社が社会に対して果たすべきこと、達成すべきことを示し、「どのように」社会を変え、「何で」貢献し続けるのかを表明するものである。またビジョン(ありたい姿)とは、達成したいと願う自社の未来像や社員の夢を示し、人々を巻き込む「力」となるとともに「私たちらしさ」を表現するものとなる。ミッションの具現化に向け、中期的(3~5年)に自社はどのような姿でありたいか。計画値や組織図、事業規模などのイメージを社員全員と共有して達成を目指す。ミッションが理想的なゴールであるのに対し、ビジョンはそこに近づくための現実的なゴールとなる。そしてバリュー(価値観)とは、ミッションとビジョンを実現するため優先すべき価値基準や行動規範を表現したものである。
あくまでDXはミッションとビジョンを実現するための手段であり、バリューに沿って正しく運用されなければならない。なぜデジタル化が必要なのか(ミッション)、どのようなデジタル化を実現したいのか(ビジョン)、いかにデジタル化を実行するのか(バリュー)。このDXビジョンを言語化・明文化したものが「DXビジョンステートメント」である。
DXビジョンステートメントは、全社員にとって将来に実現を目指す共通目標であると同時に、経営者にとっては戦略的な意思決定の指針となる。
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「自社がDXを通じて何を目指すのか」というビジョンからDX戦略を描き、実践すべき改革テーマへ落とし込むメソッドを提言します。
