スキルファーストの導入により、
「人重視・人本位」の制度推進を実現する

スキルファーストとは
スキルファーストとは、学歴・職歴・資格を重視するのではなく、保有しているスキル(能力・技術)やコンピテンシー(行動特性)を踏まえ、「何に価値発揮できるか」を重視する考え方(思想)を指す。また会社経営に落とし込むと、次のように言い換えることができるだろう。これまでは職位や役割遂行に必要となる要素を明文化し、それらに適合する人材がいるか、育成できるかを考えてきた。
一方でスキルファーストの考え方では、会社が求めているスキルと個人が保有しているスキルを突き合わせて、スキルのマッチ度で様々な処遇を決定していこうとする、より「人重視・人本位」の考え方である。
ソフトウエア開発会社のサイボウズが提唱している「100人いたら100通りの働き方」というものに代表されるよう、現代ではよりパーソナルな部分を処遇に反映していこうとするトレンドにある。スキルファーストも同様で、これまで以上に個人へ着眼を置きながらマネジメントしようとする動きの一つと言える。

スキルファーストが求められている理由
ではなぜ今、スキルファーストに注目が集まっているのか。それはジョブ型人事制度の運用のしづらさが関係していると考える。
ジョブ型人事制度とは、ジョブディスクリプション(職務記述書)に基づいて会社が求める職務を定義し、それに適合した人材を採用・処遇しようとする欧米流の考え方である。日本でも何度かジョブ型人事制度の流行を迎えたが、未だ根付いているとは言い難い。
理由として、①経営環境が従来よりもスピーディーに変化する現代では求められる職務も日々変化している、②職務が変われば職務記述書の改定、処遇変更を行う必要があり、運用上のオペレーションコストが掛かる、という二点が挙げられる。つまりは、ジョブという視点で人材を捉えると職務の変化と運用の煩雑さによって活用しにくいということだ。
よくよく考えると、これまでの「労働力」の考え方は職務や役割など表現は異なれど「人の数」に着眼が置かれていた。ただし1つのスキルしか持っていない人材と複数のスキルを持っている人材では労働力の質が異なる。労働量ではなく労働生産性(質)が重視される今後においては、「スキル」を主眼とすることで、より実態に即した人材の採用・配置・活躍を促していきたいというニーズが高まっている。

スキルファーストの活用方法
スキルファーストの考え方は、「採用・人員配置・育成・活躍」の人材マネジメント全てに適用することができる。
①採用
採用面では、候補者をスキルに基づいて選考するという思想である。学歴等でフィルタリングすることなく、候補者のスキルを実直に拾い上げていく。そうすることでこれまで以上の大きな母集団の中から業務遂行能力の高い人材を見逃ずに、短期間で採用することを可能にする。
②人員配置
配置面では、人材が持つスキルの充足度、習得度に応じて配置を決定することにより、個人の能力が最大限活かせる適材適所を可能にする。スキルをベースにしているため、配置後のミスマッチが起きにくいというメリットを持つ。
③育成
育成面では、自己啓発意欲の促進を可能にする。会社が求めるスキルと自らのスキルが可視化されるため、そのギャップを本人が把握できる。可視化されることで次に習得すべきスキルが明らかになり、より自律的に能力開発をしようとするモチベーションを喚起していける。
④活躍
活躍面では、学歴・年齢が関係ないスキルをベースにした処遇実現により、納得感が高い働き方の訴求を可能にする。高度なスキル、複数のスキルを持った人材が集まり、切磋琢磨し合うことで人材価値を高めることができる。
以上のようにスキルファーストは人材マネジメントに深く組み込むことができる。

スキルファーストの評価制度の方向性
スキルファーストの活用方法は前述した通りであるが、推奨するのは人事制度(評価制度)への導入である。スキルをベースとした評価制度を構築し、より納得感の高い人事プラットフォームを整備するのが肝要だ。
スキルファーストの評価制度を構築するには以下二点の検討が必要となる。
一点目は、スキルの定義化と可視化だ。自社が長期・中期・短期で求められるスキルを定義し、期待する水準を定める。この定義が評価・処遇の基礎になる。加えて、個人が持つスキルの可視化も求められるだろう。会社が求めるスキルと個人が持つスキルの双方を見える化していくことが一丁目一番地であり、その際にはITツールの活用を推奨したい。
二点目は、スキルファーストにおける評価制度の思想は「習熟」と「習得」の二軸である。既存スキルの高度化を図れたか、新たなスキルをどの程度習得できたか、左記の双方を評価項目として設定していくことを推奨する。つまり、"深さ"と"広さ"を兼ね備えた人材を評価できる制度構築を目指していくということだ。
上記二点を制度構築の方向性に据えてもらいたい。

スキルファーストの効果と今後の展望
スキルファーストは思想の転換を突き付けている。職務や役割でなく、成長戦略に資するスキルを定義し、そのスキルを持つ人材を配置・処遇することで、変化の激しい経営環境にスピーディーに対応することができるのが最大の効果だ。また、スキルファーストの運用により、社員一人ひとりに求められるスキルが明確になるため、組織力(ケイパビリティ)の向上にも期待が持たれる。
タナベコンサルティングでは、人事関連制度(人事制度・教育制度)において、スキルファーストの観点を踏まえた設計を推奨する。
この課題を解決したコンサルタント

タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部
ゼネラルパートナー三瓶 怜
- 主な実績
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- 運送業向け人事制度構築コンサルティング
- 印刷業向け幹部研修
- 大手クリーニング業向け業務改善コンサルティング
- 自動車部品製造業向け人事制度構築コンサルティング