基本給の定義~そもそも基本給とは~
基本給とは
厚生労働省によれば、基本給とは毎月の賃金の中で最も根本的な部分を占め、年齢、学歴、勤続年数、経験、能力、資格、地位、職務、業績など労働者本人の属性又は労働者の従事する職務に伴う要素によって算定される賃金で、原則として同じ賃金体系が適用される労働者に全員支給されるものとされている。
なお、住宅手当、通勤手当など、労働者本人の属性又は職務に伴う要素によって算定されるとはいえない手当や、一部の労働者が一時的に従事する特殊な作業に対して支給される手当は基本給としない。
つまり、基本給は、従業員に支払われる最低給与の基準となる給与のことである。
基本給と月収、月給(固定給)との違い
基本給の定義を理解するためには、月収や月給(固定給)との違いを把握することが重要です。
月収とは「月給(固定給)+変動する手当」
変動する手当とは対象社員それぞれへ支給する金額に違いがある手当であり、代表的なものには時間外手当(残業手当、休日出勤手当)、通勤手当が挙げられる。これらの手当は、従業員それぞれの労働時間や勤務状況によって異なるため、月収は従業員によってその額が変動します。
また月給(固定給)とは「基本給+諸手当」
月給(固定給)は基本給に役職手当や毎月固定で支給される手当を足した月単位で支払われる賃金です。役職手当や家族手当など、固定的に支給される手当は月給に含まれますが、残業代などの変動する手当は含まれないことが一般的です。ただし、固定残業代を支給する企業では、あらかじめ定められた時間の残業代が月給に含まれることもあります。それぞれの手当の内訳は企業によって異なり、企業の規模や業界、地域などによっても変わってきます。
基本給の決め方
基本給の決め方には、仕事給型、属人給型、総合給型の3つのアプローチがあります。
まず、仕事給型は、その職務の内容や責任の大きさ、仕事の難易度などに基づいて基本給を決定する方法です。この給与体系では、個人の能力や年齢、勤続年数よりも、職務の性質が重視されます。例えば、専門的な技術を必要とする職種や管理職など、高い責任を伴う仕事は、一般的な事務作業よりも高い基本給が設定されることが一般的です。仕事給型は、職務の遂行に必要なスキルや経験を正当に評価することを目的としています。
次に、属人給型は、従業員個人の学歴、年齢、勤続年数などに基づいて基本給を決定する方法です。
この給与体系では、安定的な昇給が見込めるものの、スキルや成果が賃金に結びつかない場合、モチベーション低下を招く可能性があります。
最後に、総合給型は、仕事給型と属人給型の要素を組み合わせた給与体系です。この給与体系では、職務の内容と従業員の個人的な要素の両方を考慮して基本給を決定します。総合給型は、職務の要求と従業員の勤務貢献をバランスよく評価することで、公平性とモチベーションの向上を図ることができます。
基本給の決め方は、企業の給与政策や組織文化、業界の慣習などによって異なり、それぞれの方法にはメリットとデメリットが存在します。企業は、自社の戦略や目指す方向性に合わせて、最適な基本給の決め方を選択する必要があります。
基本給設計4つのステップ
基本給の仕組みを設計する際には以下の4つのステップを押さえることが重要である
① 人事戦略(人材ビジョンや賃金ポリシー)を策定する
② 基本給の要素および水準を決める
③ 等級による賃金レンジと等級間格差を設計
④ 昇給の仕組みを設計する
人事戦略を策定する
基本給を主とした賃金制度設計において一丁目一番地となるのが人事戦略である。
いつまでにどのような人材が必要なのか、何をもって評価し、どう賃金(基本給)に反映させるのか、といった企業としての価値観をまずは整理することが大切である。
基本給の要素および水準を決める
つぎに基本給額の決定に際しては何をもって基本給を決めるかの要素が必要であり、
代表的な基本給決定の要素は以下の5つとなる。
①年齢 ②勤続年数 ③能力 ④役割・職務 ⑤成果
従来の日本企業は「年齢・勤続年数」によって基本給を決定する年功的制度が主流であった。年功的と聞くと否定的な印象を持つが、従業員から見れば長期的な安心感につながるという利点はある。
等級制度(人事フレーム)が職能等級制度であれば「能力」「成果」、役割・職務等級制度であれば「役割・職務」「成果」によって基本給を決定することを推奨する。
いずれにしても各社の人事戦略(賃金ポリシー)に基づいて何を選択するかを決定することが重要である。
水準の決定
水準の決定は人件費と採用・定着(社員の納得性)とのバランスを見ながら決定していく。業界や地域での基本給(賃金)水準をターゲットにしながら現状の水準を引き上げるのか、維持するのか、場合によっては引き下げるのかを決定していく。また、自社の労働分配率(限界利益に占める人件費の割合)を加味し、適正なバランスを見てくことも重要である。
新卒採用を実施している企業であれば初任給をいくらに設定し、モデル昇格年数を設定したうえで社員がどのように昇給していくかで水準を決定するとより分かりやすい。
等級による賃金レンジと等級間格差の設計
賃金レンジとは、「基本給等の給与の幅のこと」を指す。つまり、「給与の上限額と下限額の金額差」である。
一般的には、等級(もしくは役職)ごとに基本給を設計するため、それぞれの等級毎にこの『賃金レンジ』を設計することになる。この際、水準の設定と合わせて検討が必要になるのが、「等級間での格差をどうするか」である。具体的に言うと、例えば、1等級と2等級の賃金レンジ同士が「重なるのか否か」ということである。
一般的に賃金レンジの重複が大きい場合には、年功的な賃金として性質を持つことになり、メリットとして従業員からすると安心感があり定着につながりやすいが成長意欲は高まりにくい。一方で、賃金レンジの重複がなく、等級間での格差が大きい場合には、実力主義的な賃金の性質を持つことになり、昇格への動機づけになりやすいが、実力主義が行き過ぎると疲弊や不満につながりやすい。
昇給の仕組みを設計する
最後にはどのように昇給させていくかを決定していく。これまでは定期昇給方式で昇給していく仕組みがほとんどであったが、人件費コントロールも含めて昇給方法についてご紹介する。
・定期昇給型
これは、いわゆる賃金改定時にある程度昇給していく昇給方法であり、具体的には、年齢や勤続年数に応じて自動的に固定額が昇給していくパターンと、評価結果に応じて昇給額が異なるパターンの2つがある。前者は年齢給や勤続給などの場合、後者は職能給の場合が多い。
毎月の給与を安定的に昇給させていくことは社員の安心感や帰属意識の向上につながるため、今後もこの「定期昇給型」の昇給システムが主流であろう。但し、適切な人件費配分やコントロールを実現させるためには、少なくとも評価結果に応じて昇給額に変化をつける仕組みにすべきである。すなわち、年齢給や勤続給のような自動昇給システムについては、廃止をするかもしくはその割合を低くすることを推奨する。
・ゾーン昇給型
これは、定期昇給方式の変形タイプである。同一等級/同一評価であっても、基本給レンジ内の金額位置によって昇給額が異なるという仕組みである。
この仕組みの特徴は、同じ等級に滞留し続けた場合には、同じ評価を取り続けても昇給額が下がっていく点である。標準滞留年数を超えても上位等級に昇格できない従業員の昇給額を抑えることができるため、人件費コントロールとある程度の社員の安心感の確保ができるため、現在では取り入れている企業が増加している。
・年俸型
毎年の評価結果に応じて年俸額を決定。場合によっては基本給の金額が大きく変動する仕組みである。一般的には、評価ランクごとに年俸(基本給の金額)が固定的に設定されている。"定期昇給"という概念とは全く異なる賃金改定システムである。営業職などの成果給や業績給として採用されるケースが多い。
営業職のように個人ごとのインセンティブが重視される職種や、組織業績の達成に向けて強いコミットメントが求められる管理職には、このような年俸型はフィットするかもしれないがそれ以外の職種や階層に導入するのはかなりハードルが高い。
まとめ
賃金(基本給)の設計において正解となるルールはなく、各社の人事や報酬に対してのポリシーを強く反映させることが大切である。
人材不足の環境下でいかに人材を集め、定着させ、活躍させていくかという、いわゆる人的資本経営の視点で基本給(賃金制度)の設計を見直してみてはいかがだろうか。
関連情報
この課題を解決したコンサルタント
タナベコンサルティング
エグゼクティブパートナー
北陸支社 副支社長酢谷 亮介
困難なことこそ分かりやすく解決に導くことを信条に、クライアント視点でコンサルティングを展開。 上場企業から中堅・中小企業まで、クライアントの強みを生かす戦略立案や組織デザインを得意とする。 また、人事処遇制度・人材開発体系の構築を数多く手掛け、独自の視点に基づく「現場に合った風土改革」や人材育成支援も高い評価を受けている。
- 主な実績
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- 業界トップシェアを誇る200億メーカーの人材開発体系構築
- 上場製薬メーカーの人事制度再構築(評価・賃金・定年延長など全般)
- 業界No1エンジニア企業の中長期ビジョン・中期経営計画策定
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