人事コラム
人事制度

人事制度の浸透を促進するための効果的な取り組み

人事制度は「設計2割・運用8割」の認識の下、運用を支える人づくり・仕組みづくりに取り組む

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人事制度の浸透を促進するための効果的な取り組み
人事制度浸透を阻害する要因

人事制度浸透を阻害する要因

「せっかく人事制度を作ったのに、現場に浸透しない」「評価が形骸化してしまっている」...そんな課題を感じたことのある方は多いのではないでしょうか。人事制度は、社員の力を引き出し、育み、企業の戦略を実現するための重要な仕組みですが、社内に浸透し、適切に運用されていなければ、せっかくの仕組みも意味のないものになってしまいます。うまく浸透しない理由として、制度内容の設計に失敗していることが考えられますが、それ以外にも、運用が至らなかったために制度定着が阻まれている場合もあります。

1.制度内容が現場業務と乖離している

そもそも、目標管理や評価制度が日々の業務や行動と結びついていない場合、社員からは「実態と関係ないもの」「会社が勝手に作ったもの」と認識され、形骸化が進む要因となります。

2.制度の目的・意図、内容が社員へ十分に共有されていない

制度の内容はもちろん、大元にある「なぜこの制度が導入されたのか」「何を目指しているのか」といった背景や戦略との関連性が伝わっていないと、社員にその重要性が正しく認識されないことが懸念されます。

3.評価者間で制度理解や運用スキルの差が大きい

制度は、使う人によってその質が変わります。特に人事評価については、評価者が制度の内容を正しく理解し、趣旨に沿って公正に評価できるかどうかが、制度への信頼性に直結します。そのため、評価者ごとにスキルの差が大きい場合、制度が適切に運用されず、それにより社員の不満が高まる場合もあります。

こうした課題に対処するには、「制度は設計2割・運用8割」という認識の下、運用の仕組みをいかに設計・実行していくかが、企業としての重要な戦略課題となります。

人事制度浸透のための基本的な施策

人事制度浸透のための基本的な施策

人事制度を通じた会社のメッセージが社員一人ひとりに届き、日常業務に根づいていくためには、それを支える人づくり・仕組みづくりが不可欠です。

1. ガイドライン整備と評価者研修実施

評価制度の効果的な運用のためには、評価者が制度の目的や基準を正しく理解し適正に評価を付けられる能力があること、また部下との対話を通じて育成に活用し、納得感を醸成することが重要なポイントとなります。
実際に、評価のポイントや記入例を記したガイドライン資料を作成・配布したり、評価者研修・被評価者研修を行う企業も多く、運用の質の平準化が図られています。研修では、単なる制度の説明にとどまらず、ロールプレイやケーススタディを交えるなど、評価とフィードバックの実践力を高める工夫が重要です。

2. 1on1の仕組み化によるフィードバック文化の定着

人事制度は、本質的には、ミッション・戦略・組織風土の実現と人材育成のための仕組みです。評価制度を社員の行動と結びつけるための代表的な施策としては、目標設定時や評価確定後の1on1(フィードバック面談)など、上司と部下の対話の場を制度に組み込むことが挙げられます。定期的な面談機会を通じて、課題の明確化、目標確認、日々の成長の実感など、人材育成につながってきます。

3. KPIの設定・モニタリングに基づく制度・運用改善の体制づくり

制度がきちんと運用されているかを可視化するために、KPIとして設定し、定期的にモニタリングすることも重要な視点です。制度運用の進捗を表す数値、例えば、評価実施率、フィードバック面談の実施率、目標設定の達成度、評価の納得感といった指標を設定し、人事部門でモニタリングします。この指標を定期的に振り返り、制度や運用体制の改善につなげることで、人事制度の効果的な形骸化を未然に防ぐことを目指します。

この他にも、相談窓口の明確化、Q&Aの整備・公開、面談支援ツールの作成といった施策に取り組む企業もあります。いずれにしろ、人事制度構築と並行し、完成した制度の現場浸透策(開始前・導入後)について検討・計画しておくことが重要です。

事例に見る人事制度浸透のポイント

事例に見る人事制度浸透のポイント

ここでは、弊社の人事制度構築・運用支援において直面した課題を通じて、浸透のポイントを確認していきます。

事例1.初めて評価者となる社員を対象に、評価者研修(ケース討議)を実施

新人事制度の策定/制度改定を行う際、これまで「評価される側」だった社員が「評価する側」になることがあります。弊社のご支援先でも、現場から「どう評価したら良いか、基準がよく分からない」「部下の人生に影響を与える立場になり、責任が重い」といった声が上がっていました。そこで、評価者研修では、共通のケース(人物像)について実際の評価シートで評価を付け、グループ討議、全体共有を行いました。不安を解消するためには、他の社員とのディスカッションを通じて、評価の基本的な考え方、着眼点、レベル感のすり合わせを行い、納得感と自信を醸成することが重要です。

事例2.部下面談を行う社員を対象に、フィードバックスキル研修を実施

「人事制度はあるが、フィードバック面談は行っていない」という企業も一定数あります。新たに上司・部下の面談機会を設ける場合、「フィードバックのやり方に自信がない」「課題を伝えるのが苦手だ」等の意識を持つ方もいらっしゃいます。弊社のあるご支援先でのフィードバックスキル研修では、制度の理解、基本スキルの学習に加え、実際の部下を想定したロールプレイングを行いました。自身の練習になることはもちろん、他の参加者から学ぶ点が大きく、部下コミュニケーションの基本と実践を併せて身に付ける機会となりました。フィードバックは、制度を人材育成につなげるための核であり、重点的に取り組みたい事項です。

事例3.評価実務の利便性向上に資する人事労務システムを導入

限られた期間に多拠点・多部門の人事評価を実施するためには、評価内容・進捗の管理を確実に行うことはもちろん、評価者(本人評価や目標設定を行う場合は、被評価者も)の利便性への配慮も重要です。評価プロセスを一元的に管理する人事労務関連のクラウドサービス(HRテックサービス)導入を検討するのも一案です。実際に、弊社のご支援先でも、近年システム導入の動きが目立ちます。実務的な利便性向上、進捗管理の効率性・確実性の観点に加え、先々を見据え、蓄積したデータを分析して人材採用・育成・配置などに活用できるという点でも、検討の余地があります。

さいごに

人事制度は単に評価や報酬を決めるためのツールではなく、会社の戦略を現場で体現するため、そのための人を育てる重要な手段です。そして、制度の価値を最大限に引き出すには、作ったあとの運用、つまり「制度を動かす人」と「仕組み」の整備が肝要です。自社の人材と仕組みの現状を振り返り、必要な制度浸透策に取り組むことで、自社の戦略実現のための人事制度へと育てていきましょう。

この課題を解決したコンサルタント

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