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M&Aにおける譲渡時のトラブル事例と注意点/
M&Aを成功に導く対策を解説

2021.06.01

M&Aで売り手が抑えておきたいポイント~5つの注意点~

M&Aは、企業の成長戦略や経営再編の手段として広く利用されていますが、そのプロセスは非常に複雑であり、リスクが伴うことが多いです。特に売り手側にとっては、さまざまな課題や不確実性が存在するため、慎重な準備と計画が不可欠です。M&Aのプロセスにおいて、突発的に問題が発生することは珍しくありませんが、実際にはこれらの問題の多くは、準備段階での小さな綻びや不満が積み重なり、ある時点で一気に表面化することが原因です。したがって、売り手としては、初期の段階から潜在的な不安要素を洗い出し、適切に対処していくことが、トラブルを未然に防ぐための重要なポイントとなります。ここでは、M&Aを進めていく際の注意点を「売り手」側の目線で記載いたします。

M&Aで売り手が抑えておきたいポイント~5つの注意点~


1.事前の情報漏洩


M&Aの情報は細心の注意をもって、事前に漏れることが無いようにしましょう。万が一事前に漏れてしまったら、少なからず社内の混乱は避けられません。「この会社の経営は大丈夫なのか?!」と慌てた社員が大量離職、というのも実際に起こった話です。決して社内の人間に知られないよう、書類やスケジュールの管理に細心の注意を払いましょう。


2.簿外債務の発覚


トラブルとして表出するのはM&A交渉中ですが、これは事前に防げる項目です。特に交渉やデューデリジェンス(DD)中などに発覚した場合、信頼が一気に下がり、場合によっては破談となることもあります。主に論点になるのは、計上していない退職金引当額や、回収不能の売掛金、不良在庫等です。反対に、解約してプラスになる保険積立金や倒産防止共済掛金などの簿外資産も株価に影響します。M&Aを検討している段階で、社内の管理や簿外資産・債務を今一度見直しておきましょう。


3.デューデリジェンス(DD)の注意点


①株主が不明(既に故人になっている・経営者が知らない人物になっている場合)
②株券が不足している(株券発行会社に特有の問題)
③オーナーや個人と会社間での契約書が不十分(これまで口約束で進めてきた場合)
その他、DDで会計処理の仕方等、例を挙げるときりがありません。
重要な事はトラブルをどのように契約書で担保できるかです。M&Aは詰まるところ大半が株式の売買のため、「株の行方」はしっかり確認するべきでしょう。
また、DDは各専門家が細かく調査・分析を行います。売り手側には資料の準備や度重なるヒアリングでかなりの労力がかかりますが、後々トラブルにならないようネガティブな情報でも正確に開示することが重要です。


4.契約から引き渡し(クロージング)までの注意点


譲渡契約締結から引き渡しまでにもいくつか越えなければならないハードルがあります。
①株がまとまらない
②会社の資産を過度に使用した
③固定資産の処分等、クロージング要項に明記した実施事項を期限までに実行できなかった


契約締結日より譲渡契約書の効力が発効されるため、事前に契約書を確認し、実施してはいけない項目と期日までに実施すべき項目を明確にして実行する必要があります。譲渡契約書を締結して一安心ではなく、引き渡すまでは責任をもって会社を見る必要があります。期日までに実施すべき項目が不十分だと買い手側はM&Aを破棄できるため、注意する必要があります。


契約に起因する問題について、最終契約書には譲渡前だけではなく譲渡後に、売り手側、買い手側がそれぞれ負う義務やリスク負担等が規定されています。基本的には最終契約書に明文化されている事項に沿って誠実に対応すれば大きな問題になることは少ないように見受けられますが、競業避止規定やその他の誓約事項等いくつか注意するポイントがあります。


その中でも、特に注意しなければならないのは表明保証違反です。


表明保証とは、一方が相手方に対して、ある一時点(契約締結日や譲渡日)において会社または事業の実態(財務、法務、ビジネスの状況等)に関する事実や、譲渡対象資産・契約目的物に関する事実が正確かつ真実であることを保証する条項です。譲渡側および譲受側双方に付されるのが一般的ですが、特に譲渡側にとっては表明保証の対象そのものである会社や事業を譲渡するため、より慎重に対応しなければならないものです。この表明保証でうたっている事柄が、現実の実態と異なっているときがトラブルになりやすく、多くは双方誠実な協議に基づいて解決を図りますが、内容よっては金銭補償等を請求されるケースもありますので注意が必要です。


5.売り手側企業の従業員・取引先の離反


M&A締結後、取引先企業からの契約破棄や社員の大量離職が発生する場合があります。特に人付き合いでの取引が多かった企業、経営者のカリスマ性で成立していた企業、離反の旗振り役になりそうな社員がいる場合です。こうなるとシナジー効果どころか、これまでの事業継続も立ち行かなくなる場合もあります。


また、無理な統合施策を進めた結果、社員の大量離職が発生するケースもあります。これはM&A以前の問題ですが、企業文化の違いや理念の違いも汲んだうえで、統合すべきところと段階を見定めて徐々に進めていきましょう。


業務の引継ぎは、その成否がM&A取引の成否を決めるといっても過言ではないほど譲渡側、譲受側双方にとって重要なフェーズです。
引継ぎは、M&A取引の当事者以外である取引先の引継ぎや、従業員などが関与する事柄でもありますので、一定の期間を設け、情報の共有やコミュニケーションを図ることが非常に大切になってきます。なかでも最も注意すべきポイントは従業員の処遇に関する問題かと思います。従業員の処遇に関しては、最終契約にも規定される事項ではありますが、最終契約上で細かく規定されることは多くありません。なぜならば、雇用契約や雇用に関する条件は原則、従業員と雇用契約を締結する法人間の問題だからです。したがって株式譲渡であれば、一般的には「一定期間、現状の処遇を維持する」といった経過措置的な表現や「不利益変更は行わない」といった最低限の誓約的な表現に留められることが多いようです。それを受けて、実際の譲渡後に譲渡側社長から従業員へ処遇に関する説明をする際に「処遇は今までと変わらない」とだけ説明し、のちに譲受企業の賃金・就業体系に統合され、「社長から聞いていた話と違う」となることがあります。従業員の処遇は離職に直結する問題でもあります。また不信感が募ることで新オーナーへのロイヤリティ低下を招きかねません。譲渡側としてはミスリードを生みかねない表現は避けること、譲受側からは勤務体制や社内規定等の運用に関して決定している方針は前もって正確に伝えるなど双方からのコミュニケーションが従業員の定着においては重要となります。


M&Aを成功へ導くための対策

M&Aは企業の成長や戦略的な展開において重要な手段ですが、前述の通りリスクを伴います。M&Aで起こりえるトラブルを回避し、成功へ導くために、以下の対策を取ることが重要です。

1.情報開示の重要性


M&Aを成功させるためには、初期段階での情報開示が非常に重要です。買い手側と売り手側の双方が透明性を保ち、正確な情報を共有することで、誤解や誤情報によるトラブルを未然に防ぐことができ、信頼関係が構築され、スムーズな交渉が可能になります。一方で、売り手側は初期段階から多くの情報を開示する必要があるため、リスクが伴います。特に重要な取引先の情報、製品や技術の情報を漏洩すると事業継続に影響が出る可能性があります。交渉の段階毎にどの程度の情報を開示すべきか、アドバイザーに相談しながら進めるとよいでしょう。


2.デューデリジェンスの徹底


M&Aプロセスにおいて、デューデリジェンスの徹底は欠かせません。法務、財務、税務、そして人事面での詳細な調査を行い、潜在的なリスクを早期に特定することが重要です。予期せぬ問題を事前に発見し、適切な対策を講じることができます。買い手側は形式的なDDや、専門家任せでなく自社でも主体的に調査・確認する意識を持って取り組むことが重要です。売り手側は前述の通り負担はかかりますが、必要な工程と理解していただき協力的に取り組むよう努めていただきたいです。


3.文化的な相性の考慮


買い手と売り手の「文化的な相性」もM&Aの成功において重要な要素です。企業文化の違いが統合後の摩擦を生むことがあるため、事前にそのギャップを認識し、対応策を講じることが求められます。文化的な適合性を考慮することで、統合後のスムーズな運営が期待できます。


4.契約書の詳細確認


契約書は後々、万が一トラブルになった際に拠り所になります。必ずM&Aに精通した弁護士にチェックしてもらうようにしましょう。記載内容でも損害賠償規定や表明保証の範囲など、双方で交渉するポイントは多数ありますが、今までの交渉状況や自社の状況も鑑みながら歩み寄りの姿勢も持ちつつ確認を進めることが重要です。


5.信頼できるアドバイザーの選定


M&Aアドバイザーは、専門的知見や客観的な視点から当事者の間に立ち、支援や具体的なアドバイスを提供します。そのため、信頼できるアドバイザー選びも重要な対策と言えるでしょう。適切なアドバイザーの選定により、M&Aプロセス全体が円滑に進行します。
タナベコンサルティングでは、長年の経営コンサルティング実績で培ってきた経験をもとにお客様に寄り添った「M&Aアドバイザリー業務」をご提供しております。
コンサルティングファームとして永続的な事業運営を目指した事業承継支援、M&A戦略策定、組織体系の構築まで一気通貫したご支援も行っております。M&Aはまだ検討中という方もお気軽にご相談ください。


M&Aを成功へ導くための対策
このコラムの執筆者
文岩 繁紀

文岩 繁紀

M&Aコンサルティング事業部
ゼネラルパートナー

金融機関を対象とした経営セミナー運営や、従業員教育支援を経験。M&A部門立ち上げに伴って、M&A部門へ異動。 M&Aアドバイザーとして活躍し、数十件の成約実績を積み、現在に至る。 譲受企業、譲渡企業それぞれの心情を理解し、クライアントに寄り添ったアドバイスを得意としている。

主な実績
  • 上場企業のカーブアウト
  • 債務超過、再生案件のご支援
  • 50件以上のディールを実施
  • 成長戦略や承継問題による、譲受側、譲渡側のアドバイザリー業務の実施
    売り手向け
  • 承継問題や成長戦略による、譲渡側、譲受側、のアドバイザリー業務の実施
    例)建設業の売り手アドバイザー
    サービス業の売り手アドバイザー
    人材派遣業の売り手アドバイザー
    小売り卸の売り手アドバイザー
    ITの売り手アドバイザー
    医薬関連の売り手アドバイザー
    運送業の売り手アドバイザー
    旅行業の売り手アドバイザー
    製造業の売り手アドバイザー 等
    ※成約件数約50件程で多種多様な業種の支援を実施。
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