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M&Aの退職金スキームとは?
節税ポイントや売主・買主のメリットを紹介

2022.11.17

退職金スキームとは


退職金スキームとは、M&Aや事業承継において株式譲渡の譲渡対価の一部を役員退職金で支払う方法であり、売り手には「譲渡時の手取り額の最大化」、買い手には「買収時に純資産を減らすことでの手出し資金の抑制」といったメリットがあるM&A節税スキームの1つです。

M&Aにおいて役員退職金の仕組みを活用して手取り額を最大化する方法


M&Aにおいて、手取り額をいかに多く残すかは譲渡側として非常に大きなポイントです。退職金スキームを使えば、手取り額を増やすことができると聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。M&Aの取引は高額になるため、わずかな受け取り方法の違いによって、最終的に手元に残る金額が大きく変わることがあります。これまで築き上げてきた会社を譲渡する際に、手取り額を少しでも多くしたいと考えるのは当然です。
具体的には、役員退職金の仕組みをうまく活用して税負担を軽減し、手元に残る金額を最大化する方法が有効でしょう。具体的には、「会社を譲渡するタイミングで退職金を支払い、純資産を圧縮して株式を譲渡する」というのが、株式譲渡+退職金スキームです。会社の譲渡対価をそのまま受け取るよりも、自身の代表退任に伴う退職金のルールを活用することで、手取りを増やせる可能性があります。中小企業では代表取締役が株主であることが多いため、株式譲渡で得られる対価と役員退職による報酬を組み合わせて受け取ることが可能です。


M&Aにおける役員退職金の活用|株式譲渡・事業譲渡での役員退職金とは?節税スキームを考える

役員退職金活用による譲渡・譲受のメリット


譲渡側にとってのメリットは、「手取り額の最大化」です。株式譲渡の場合、譲渡益に対する税率は一律20.315%です。一方、退職金にかかる税金は、退職所得金額の計算の際に退職所得控除(役員の勤続年数に応じて変動)と1/2計算が適用されるため、非常に優遇されています。その結果、実質的な税率は0%~27.5%(退職所得金額により累進課税)となります。退職金にかかる税率を計算し、最適なバランスを見極めることで、手取り額を最大化することが可能です。譲渡対価の金額によっては、すべてを役員退職金として受け取ったほうが、最終的に手取り額が増えるケースもあります。
譲受側にとってのメリットもあります。それは「譲受時の資金負担の軽減」です。役員退職金は譲渡企業が役員に支払うため、その支払い原資は譲渡企業の現金や預金(または現物資産の場合もある)から拠出されます。つまり、株式譲渡対価の一部を役員退職金として設定することで、譲受側は初期の資金負担を軽減することが可能です。
さらに、「退職金の損金算入」も譲受側の重要なメリットです。株式取得に要した資金は損金算入できませんが、一部を退職金として設定することで損金算入が可能となります。その結果、退職金を支払った年度、もしくは翌事業年度以降に発生する課税所得との相殺が可能となり、節税効果を得ることができます。


M&Aにおいて役員退職金の仕組みを活用して手取り額を最大化する方法

役員退職金活用による譲渡・譲受の注意点


役員退職金を活用することによって譲渡・譲受それぞれにメリットがあることはお話ししましたが、注意すべき点もあります。譲渡・譲受それぞれの立場で解説します。


・譲渡側の注意点
株式譲渡益からは株式譲渡のために外部アドバイザーへ支払った報酬の譲渡に要した費用を控除することができますが、株式の譲渡価額を低くしすぎると当該費用を控除できなくなるケースがでてくる可能性がありますので考えて譲渡価格を設定(交渉)することが必要です。また、退職金の額を増やせば増やしただけ、退任する役員の税務メリットを享受できるわけでもない点は注意が必要です。
株式の取得価額や上述の譲渡に要した費用等も含めて、手元にいくら現金が残るのかを検証する必要があります。


・譲受側の注意点
譲渡企業が退任する役員に対して、不相当高額な退職金を支払った場合は退職金のうち不相当に高額な部分の金額は損金不算入となります。そういった事態が起こらないよう、退職金額を定めることが、中小企業のM&Aでは多く見受けられます。このスキームを活用することで、退任する役員や譲受側にとって税務メリットを享受することができます。ただし、役員退職金は支給額、支給方法、支給のタイミング等により一部または全額が役員退職金として認められないケースがあるので注意が必要です。


事業譲渡の場合の考え方


事業譲渡の場合は買主にとって役員退職金の支給は関係ありませんが、売主にとっては役員退職金を活用することで税務メリットが発生することがあります。事業譲渡の対価は会社に支払われるため、売主(株主)が直接資金を受け取ることはできません。そのため、事業譲渡益は会社の利益になり法人税が課税されることになります。当該年度に何か同程度の損金(別事業への投資等)が発生すれば、課税額は少なくなりますが、事業譲渡による益金に対する損金が存在しない場合には、役員退職金を支給し損金計上することで利益を圧縮することができます。ただし役員を退任する場合には会社清算前提での退任ということであれば別ですが、事業を継続していくためには新役員の就任が必要になる可能性もあるため注意が必要です。


このコラムの執筆者
小林 隼人

小林 隼人

M&Aコンサルティング事業部
チーフマネジャー

新聞社にて新聞販売店の経営・営業支援業務に従事後、独立系M&A仲介会社に入社。主にエネルギー系企業のM&Aなどを経験後、当社に入社。企業の事業承継課題も目の当たりにしてきた経験を踏まえ、現在はM&Aを中心としたコンサルティングを数多く手掛け、企業のあらゆる経営課題解決に取り組んでいる。

主な実績
  • LPガス会社の譲渡側・譲受側M&Aアドバイザリー
  • 産業資材卸会社の譲渡側・譲受側M&Aアドバイザリー
  • 機械器具卸会社の譲渡側M&Aアドバイザリー
  • ビルメンテナンス会社の譲受側M&Aアドバイザリー
  • 建設会社の譲渡側・譲受側M&Aアドバイザリー
  • 人材派遣会社の譲受側M&Aアドバイザリー
  • 製造業(半導体関連)の譲渡側・譲受側M&Aアドバイザリー
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