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卸売業の未来を考える
M&Aで生き残るための戦略とは

2025.10.03

事業承継と卸売業界の現状


近年、事業承継の問題が深刻化しています。特に後継者不在の課題は、多くの企業にとって避けて通れない現実となっています。今回は「事業承継と卸売業界の現状」にフォーカスし、業界が抱える課題やその背景を整理していくとともに、M&A戦略の重要性についてお話いたします。

まず、事業承継のパターンをご紹介します。
事業承継には主に3つの方法があります。1つ目は「親族承継」、2つ目は「社員承継」、そして3つ目が「第三者承継」です。なお、事業の「廃業・清算」も選択肢として挙げられますが、これは誰も望まないケースであるためここでは除外します。

初めに、事業承継の3つの選択肢について簡単に特徴をご紹介しておきます。

・親族承継
親族への承継は伝統的な方法であり、経営理念や企業文化を継続しやすいというメリットがあります。しかし、後継者となる親族が経営能力を持っているかどうかが課題となることが多く、必ずしもスムーズに進むとは限りません。

・社員承継
社員への承継は、企業内の事情を熟知した人材が経営を引き継ぐため、比較的安定した移行が期待できます。しかし、社員が事業承継に必要な資金を調達するのは難しいこともあり、実現が困難な場合もあります。

・第三者承継(M&A)
近年、M&Aによる第三者承継が増加しています。この方法は、譲渡するオーナーにとって多くのメリットがあります。例えば、譲渡後の待遇改善や会社の成長が期待できる点、取引先との関係が継続される点、そして株式を現金化できる点などです。
また、譲受企業が連帯保証を解除することで、オーナーの負担が軽減されるケースもあります。ただし、経営の自由度が低下する可能性がある点はデメリットとして挙げられます。
M&Aは、資金力や人材、販路を活用して成長を促進でき、事業の永続性も期待できます。そのため、近年は多くのオーナーが第三者承継を選ぶ傾向があります。


事業承継と卸売業界の現状

卸売業界を取り巻く厳しい外部環境


卸売業界を取り巻く環境は厳しさを増しています。その要因は大きく4つに整理できます。

1つ目は、デジタル化の進展です。メーカーがECサイトやデジタルプラットフォームを活用し、消費者と直接取引するケースが増加しています。その結果、卸売業者の役割が縮小し、中間業者としての価値が低下しています。

2つ目は、プラットフォーム型ECの台頭です。Amazon Businessやアリババ、モノタロウなどのプラットフォーム型ECが普及したことで、価格競争が激化し、中間マージンが圧縮されています。これにより、卸売業者の収益構造が一段と厳しくなっています。

3つ目は、小売業のDX化による直接仕入れの増加です。小売業者がPOSデータやデータ分析を活用し、メーカーと直接取引を行うケースが増加しています。この流れは、卸売業者にとって大きな逆風となっています。

4つ目は、取引構造の変化です。サプライチェーンの短縮化や小売業のプライベートブランド(PB)の強化、大手小売業による垂直統合の進展などに加え、地域密着型の中小小売店の減少により、卸売業者の顧客基盤が縮小しています。

これらに加えて、情報の透明化やデータ分析技術の進展により、取引条件が可視化され、価格競争が激化しています。競争の激化は、利益率の低下を招き、業界の収益性に深刻な影響を与えています。さらに、物流コストの上昇や為替変動による仕入れ価格の不安定化も、業界の経営を圧迫する要因です。

また、人手不足や事業承継問題も深刻化しています。物流・倉庫作業における人材不足に加え、デジタル人材の育成が進まず、DX(デジタルトランスフォーメーション)が遅れていることが、業界全体の競争力を低下させる要因となり、厳しい状況を一段と深刻化させています。


卸売業界を取り巻く厳しい外部環境

卸売業界の未来を切り拓くM&A戦略:生き残りのための3つの選択肢


卸売業界が厳しい外部環境に直面する中、企業が生き残り、さらなる成長を遂げるためには、戦略的な選択が求められます。その中でも、M&A(企業の合併・譲受)は、業界の未来を切り拓く有力な手段として注目されています。
ここからは、卸売業界におけるM&Aの活用方法を3つの戦略に分類し、それぞれの特徴を解説していきます。

1. 同業譲受(買収)による横展開
最も分かりやすい戦略が、同業他社の譲受(買収)です。自社が扱っている商品と同じような商品を取り扱う企業を譲受することで、事業の横展開を図ります。この方法は、既存の市場でのシェア拡大や競争力強化を目的としたものとなります。
例えば、同じ業界内で競合する企業を取り込むことで、販売網を拡大し、規模の経済を実現することが可能です。また、同業譲受は比較的リスクが低く、既存のノウハウを活用しやすい点がメリットとなります。
この同業譲受による横展開は、卸売業界におけるM&Aの典型的な戦略であり、多くのメリットをもたらします。一方で、システム統合や取引先離脱、独占禁止法対応、差別化の難しさといった課題があります。M&Aの成功には、統合プロセスを慎重に進め、競争力を維持・向上させる施策が欠かせません。

2. サプライチェーンの強化
2つ目の戦略は、サプライチェーンの強化を目的としたM&Aです。具体的には、自社の川上(原材料や製造を担う企業)や川下(流通や販売を担う企業)に位置する企業を譲受することで、サプライチェーン全体を強化します。
この戦略により、原材料の安定供給や流通コストの削減が可能となり、競争力を高めることができます。また、川上企業を取り込むことで製品の品質管理を強化したり、川下企業を譲受することで顧客との接点を増やすことができます。サプライチェーン全体を統合することで、効率性と収益性を向上させることが期待されます。
このM&A戦略は、卸売業界における競争力の向上に寄与する重要な戦略の1つです。仕入れの安定化、販売チャネルの拡大、物流の効率化、商品・サービスの付加価値向上という4つの側面を通じて、企業は効率性を高め、付加価値を創出することができます。

3. 周辺新規サービスへの進出
3つ目の戦略は、周辺領域や新規サービスへの進出を目的としたM&Aです。これは、現在の事業領域とは異なる商品やサービスを扱う企業を買収することで、新たな付加価値を生み出す方法です。
例えば、卸売業界の収益基盤である商品流通とは異なる分野に進出することで、収益源を多様化し、リスクを分散することができます。また、異業種の企業を取り込むことで、これまでにない顧客層を開拓し、新たな市場を創出することも可能です。この戦略は、革新性や成長性を追求する企業にとって魅力的な選択肢となります。
このM&A戦略は卸売業界の新たな可能性を切り拓く戦略と言えます。顧客基盤の拡大、デジタル化の強化、付加価値サービスの提供、そして海外市場への展開など、企業は新たな収益源を確保し、競争力を高めることができます。


卸売業界の未来を切り拓くM&A戦略:生き残りのための3つの選択肢

最後に:M&Aを検討する際の視点


ここまで、卸売業界における事業承継、いわゆるM&A(企業の合併・買収)を中心にご紹介してきました。M&Aは事業の存続や成長を実現する有力な選択肢です。ただし、成功には譲渡側・譲受側の双方が明確な目的を持つことが不可欠です。
譲受企業は、自社がどの領域を強化したいのかを明確にし、戦略的にM&Aを進める必要があります。一方、譲渡を検討する企業は、自社がどのような企業に引き継がれるべきかを考え、適切な相手を選ぶことが求められます。
例えば前述したように、同業譲受を通じて市場シェアを拡大したいのか、サプライチェーンを強化して効率性を向上させたいのか、それとも新規サービスへの進出を目指して革新を図りたいのか。これらの選択肢を整理し、自社の状況や目標に応じた戦略を選ぶことが、M&A成功の鍵となります。

今回の内容が、皆様の今後の経営判断や戦略立案の一助となれば幸いです。卸売業界が直面する課題を乗り越え、持続可能な未来を築くためにM&Aも1つの選択肢としてご検討ください。タナベコンサルティングでは、検討前のご相談も無料で承っていますのでお気軽にお問い合わせください。

※下記のオンデマンド動画では、今回ご紹介したコラム内容(「M&A戦略の3つの分類」のメリット・デメリットなど)をさらに詳しくお話しております。事例も絡めてわかりやすくご紹介していますので、併せてご覧いただければと思います。

このコラムの執筆者
小林 隼人

小林 隼人

M&Aコンサルティング事業部
チーフマネジャー

新聞社にて新聞販売店の経営・営業支援業務に従事後、独立系M&A仲介会社に入社。主にエネルギー系企業のM&Aなどを経験後、当社に入社。企業の事業承継課題も目の当たりにしてきた経験を踏まえ、現在はM&Aを中心としたコンサルティングを数多く手掛け、企業のあらゆる経営課題解決に取り組んでいる。

主な実績
  • LPガス会社の譲渡側・譲受側M&Aアドバイザリー
  • 産業資材卸会社の譲渡側・譲受側M&Aアドバイザリー
  • 機械器具卸会社の譲渡側M&Aアドバイザリー
  • ビルメンテナンス会社の譲受側M&Aアドバイザリー
  • 建設会社の譲渡側・譲受側M&Aアドバイザリー
  • 人材派遣会社の譲受側M&Aアドバイザリー
  • 製造業(半導体関連)の譲渡側・譲受側M&Aアドバイザリー
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