M&A情報
M&A戦略の必要性と立案方法
2024.07.23
M&A戦略とは
M&Aは、今や企業にとって戦略を実現するために必要不可欠な「手段」です。中小企業、中堅企業、大企業のどの規模の企業も、M&Aにおける買い手(譲受側)にも売り手(譲渡側)にも成りうる可能性があります。しかし一方で、M&Aの実行にはリスクが伴います。譲受企業としてM&Aを実行した場合、実行後に想定した効果(シナジー)がでない場合や高値掴みをしてしまう場合、もともと譲渡企業に内在していたリスクが顕在化する場合など、さまざまなリスクに対応することが求められます。したがって、譲受企業には、リスクを回避し、自社の成長戦略と合致するM&Aを実行するための「指針」が必要となります。
この指針こそが「M&A戦略」です。M&A戦略とは「事業戦略を実現するためにどのようにM&Aを活用するかを決めたもの」といえます。事業戦略との整合性や狙うターゲットの選定基準、M&Aの定量基準等をまとめて、ひとつのM&A戦略を組み立てます。例えば、M&A仲介会社や金融機関から案件が持ち込まれた場合は、M&A戦略が持込案件を進めるかどうかの基準となります。また、自社が自ら企業に譲渡意思を確認する場合には、声をかける企業を選定するための基準となります。M&A戦略はブレない「一貫したM&A」を実行するための指針なのです。
M&A戦略の立案
M&A戦略は、「M&Aをどうするか?」といったような漠然とした問題意識から生まれるものではありません。M&Aは戦略を実現するための手段であるため、根本となる「実現したい姿」が必要となります。
①中長期ビジョンの策定
M&A戦略の根本は中長期ビジョンの存在です。10年後や20年後の目指す姿を描いた長期ビジョンから、直近の3年~5年の姿を描いた中期ビジョン、また、それらを具体的に数値計画に落し込んだ中期経営計画と徐々に形作られる具体的な将来像を実際に実現するために活用されるのがM&Aです。中期といっても3年程度でできることには限界があります。現実と目標(ビジョン)とのギャップが明確になった時、成長曲線を描いていくためには、ときには非連続な成長も取り入れた施策が必要になるかもしれません。その際には、自力成長(オーガニック成長)だけではなく、M&A・アライアンス(インオーガニック成長)が有力な手段となります。
②M&A戦略構築ステップ
中長期ビジョンの存在を前提に、事業の成長の仕方(方法)を検討します。もともと既存事業一本で勝負している企業はその主力事業をM&Aで更に伸ばすかどうかを検討します。また、複数の事業の柱を持つ企業は、どの事業を自力で伸ばし、どの事業をM&Aを活用して伸ばしていくかを検討します。これが「参入戦略」です。変化の早い時代に全ての事業を自力で伸ばしていく決断は現実的ではありません。一方で、全ての事業をM&Aで伸ばすことも難しいでしょう。それぞれの事業にあった伸ばし方を選択することで変化に合わせた成長が可能になると考えられます。参入方法の選択基準としては、各事業の特性であったり、その事業にかけられる人員や資金等の経営資源(リソース)によって決定します。
コーポレートの設計
前段では、中長期ビジョンと参入戦略について説明しましたが、M&A戦略を形作るもう一つの要素として、コーポレート部門の整備が挙げられます。
冒頭でも述べた通り、M&A戦略の中には事業戦略に関連する部分以外に、定量基準の設定なども存在します。定量基準とは、すなわち「投資判断基準」です。投資の意思決定をするためには、定量的なルールの設定が不可欠です。経済合理性を軸に投資の規模と回収の2つの面から判定を行う必要があります。
また、定量基準の他に、コーポレート部門の要点として、M&Aの意思決定構造もポイントの一つです。M&Aを進める際によく課題に挙がる点として、案件の検討スピードがあります。M&Aは大きな投資です。意思決定をする際には時間をかけて検討をしたいというのが経営者の本音でしょう。しかし、M&Aは通常の設備投資と異なり多数の登場人物がいます。譲渡企業の株主や従業員、また、その企業の買収を狙う競合他社などです。更には譲渡企業と譲受企業の間に立つ仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)の思惑も絡んできます。そのような場合には、比較的短い時間の中で意思決定を迫られます。そのスピード感についてこれないと、競合他社に独占交渉権を持っていかれてしまいます。
そのため、M&Aにおいては、案件検討時の検討ステップを事前に決めておくことが有用です。案件が持ち込まれた際に誰が最初に検討(スクリーニング)して、次にどの階層のメンバーに回すのか、そして、最終の取締役会や社長決定に至るまでにどのくらいの時間を想定しておくのかによって、「欲しい案件」を逃さないことに繋がるのです。この部分を整備することもM&A戦略の立派な一部です。
自社の状況を振り返っていただき、ぜひM&A戦略の整備を進めていきましょう。
丹尾 渉
執行役員
M&Aコンサルティング事業部長
2017年からM&Aコンサルティング本部の立上げに参画。M&A戦略構築からアドバイザリー、PMIまでオリジナルメソッドを開発。その後5年間で延べ80件以上のM&Aコンサルティングに携わる。「戦略無くしてM&Aなし」をモットーに、大手から中堅・中小企業のM&Aを通じた成長支援を数多く手掛けている。
- 主な実績
-
- 上場企業の新規事業開発を目的とした譲受側M&Aアドバイザリー
- 上場企業子会社の事業戦略からM&Aまで一貫性を持たせた戦略構築
- 上場企業子会社の買収調査のためのビジネスDD、財務DD、労務DD
- 中堅企業の事業ポートフォリオの転換によるビジネスモデル変革支援
- M&Aを初めて実施した中堅企業のPMI支援
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