M&A情報
M&Aにおける企業価値算定の3つの手法
時価純資産法・類似会社比較法・DCF法を徹底解説
2026.05.13
はじめに
M&A(第三者承継)を検討する際、最も重要かつ難しいのが「企業価値の算定」です。売り手は少しでも高く売りたい、一方、買い手は適正価格で買いたいという利害が対立する中で、客観的で合理的な評価方法に基づく価格交渉が不可欠です。
企業価値算定には様々な方法がありますが、今回は、時価純資産法(コストアプローチ)、類似会社比較法(マーケットアプローチ)、DCF法(インカムアプローチ)の3つについて解説します。
それぞれの算定方法の考え方、特徴、活用場面、限界を理解することが、適切な価格交渉と円滑なM&Aの実現につながります。
企業価値算定の3つの基本アプローチ
企業価値算定には、大きく分けて3つのアプローチがあります。それぞれ異なる視点から企業の価値を評価するため、実務では複数の方法を組み合わせて総合的に判断することが一般的です。
1. 時価純資産法(コストアプローチ)
時価純資産法は、企業が保有する資産と負債を時価で評価し直したうえで、その差額である純資産額を企業価値とみなす方法です。別名「コストアプローチ」とも呼ばれ、最も客観的で理解しやすい評価方法として、M&Aの基礎的な評価に広く用いられています。
算定の考え方
時価純資産法の基本的な考え方は、「もし今この会社を清算したら、いくら手元に残るか」という視点です。貸借対照表に記載されている資産と負債を、帳簿価額ではなく現在の市場価格(時価)で評価し直します。
具体的には、まず資産側を確認します。不動産は購入時の価格ではなく、現在の市場価格で評価します。都心の一等地にある土地であれば、購入時よりも大幅に値上がりしている可能性があります。逆に、地方の工場用地は値下がりしているかもしれません。建物も減価償却後の帳簿価額ではなく、現在の再調達価額から経年劣化を考慮した価値を算定します。
在庫については、実際に販売可能な価値を評価します。長期間滞留している在庫や型落ち商品は、帳簿価額より大幅に低い評価になることがあります。また、不良在庫は価値ゼロとして評価されます。
売掛金も回収可能性を精査します。取引先が倒産リスクを抱えている場合や、長期間回収できていない債権は、貸倒引当金を設定するか、評価額を減額します。
次に負債側を見ます。退職給付債務は、将来の退職金支払いに必要な金額を現在価値で評価し直します。
さらに、簿外債務や偶発債務がないかを確認します。訴訟リスク、環境汚染の浄化費用、未払い残業代など、貸借対照表に計上されていない負債が存在する場合、これらを負債に加算します。
こうして算定された時価資産から時価負債を差し引いた金額が、時価純資産額となります。これが、企業が持つ「正味の財産」の価値です。
特徴と活用場面
時価純資産法の最大の特徴は、客観性と検証可能性の高さです。貸借対照表という公式な財務諸表をベースにしているため、第三者が検証しやすく、恣意性が入りにくい評価手法です。また、不動産鑑定士や税理士などの専門家による評価を組み合わせることで、さらに精度を高めることができます。
この方法は、特に以下のような場面で有効です。
不動産や設備など有形資産が多い企業では、時価純資産法が企業の実態を最もよく表します。製造業で工場や機械設備を多く保有している企業、不動産賃貸業、ホテル業などが該当します。これらの企業では、保有資産の時価評価が企業価値の大部分を占めるため、時価純資産法が適している場合があります。
清算を前提とした評価においても、時価純資産法が適しています。事業を継続せず、資産を売却して債務を返済した後に残る金額を知りたい場合、この方法が最も直接的な手法です。
また、M&Aにおける最低価格の目安としても活用されます。売り手にとって、時価純資産額は「これ以下では売れない」という下限価格の基準となります。なぜなら、その価格以下で売却するよりも、会社を清算して資産を現金化した方が有利だからです。
限界と注意点
時価純資産法には限界があります。
最大の問題は、将来の収益力が反映されないことです。企業の価値は、過去に蓄積した資産だけでなく、将来どれだけの利益を生み出せるかによっても決まります。収益性の高い企業や成長性の高い企業では、時価純資産法は価値を大幅に過小評価するおそれがあります。
例えば、IT企業やコンサルティング会社など、人的資本が主要な資産である企業では、貸借対照表に計上される有形資産の計上額は小さくとも、高い収益を上げています。このような企業を時価純資産法だけで評価すると、実態とかけ離れた低い評価額になってしまいます。
また、のれんやブランド価値などの無形資産が評価されにくいという問題もあります。長年かけて築き上げた顧客基盤、ブランドイメージ、独自技術、優秀な人材などは、貸借対照表には計上されていませんが、企業にとって重要な価値を構成します。時価純資産法では、これらの無形資産を適切に評価することが困難です。
さらに、資産の時価評価には専門的な知識と時間が必要です。不動産の鑑定評価、機械設備の査定、在庫の実地棚卸など、正確な時価評価には相応のコストがかかります。小規模なM&Aでは、評価コストが取引金額に対して割高になることもあります。
成長企業の価値を過小評価する傾向も問題です。スタートアップ企業や設立間もない企業は、まだ資産を十分に蓄積していませんが、将来の成長性は高い場合があります。このような企業を時価純資産法で評価すると、将来性が全く反映されず、適切な評価ができません。
2. 類似会社比較法(マーケットアプローチ)
類似会社比較法は、評価対象企業に類似する上場企業や過去のM&A取引事例と比較することで、企業価値を算定する方法です。別名「マーケットアプローチ」や「マルチプル法」とも呼ばれ、市場の実勢価格を反映できる点が特徴です。
算定の考え方
類似会社比較法の基本的な考え方は、「似たような会社がいくらで評価されているか」を参考にするというものです。株式市場では、日々多くの企業の株式が取引され、市場参加者の評価によって株価が形成されています。この市場の評価を、自社の評価に応用しようというアプローチです。
具体的な手順は、まず評価対象企業に類似する上場企業を選定します。類似性の判断基準は、業種、事業内容、規模、成長性、収益性などです。例えば、地方の食品製造業を評価する場合、同じく食品製造業で規模や収益性が近い上場企業を複数選びます。
次に、選定した類似企業の財務データを収集し、「マルチプル(倍率)」を算出します。マルチプルとは、企業価値や株式時価総額が利益や売上高の何倍になっているかを示す指標です。
代表的なマルチプルには以下のようなものがあります。
EV/EBITDA倍率は、最も広く用いられるマルチプルです。EV(Enterprise Value:企業価値)は、株式時価総額に純有利子負債を加えた金額で、企業全体の価値を表します。EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)は、利払い前・税引き前・減価償却前の利益で、企業の本業の稼ぐ力を示します。
EV/EBITDA倍率は、業種や資本構成の違いに影響されにくく、国際的な比較もしやすいため、M&Aの実務で最も重視される指標です。一般的に、安定した成熟産業では3~5倍、成長産業では10倍以上になることもありますが、市場環境や金利水準、評価時点によって水準は大きく変動する点に留意が必要です。
PER(株価収益率)は、株価が1株当たり純利益の何倍かを示す指標です。投資家にとって馴染み深い指標で、株式市場での評価を直接反映します。ただし、純利益は税金や特別損益の影響を受けるため、企業間の比較には注意が必要です。
PBR(株価純資産倍率)は、株価が1株当たり純資産の何倍かを示す指標です。PBRが1倍未満の場合、市場は企業を解散価値以下で評価していると解釈されます。逆に、高いPBRは、市場が将来の成長性を高く評価していることを示します。
売上高倍率は、企業価値が年間売上高の何倍かを示す指標です。利益が赤字や変動が大きい企業、スタートアップ企業など、利益ベースの評価が難しい場合に用いられます。
これらのマルチプルを類似企業について算出し、その平均値や中央値を求めます。そして、評価対象企業の財務指標(EBITDA、純利益、純資産、売上高など)に、類似企業のマルチプルを乗じることで、企業価値を算定します。
例えば、類似企業のEV/EBITDA倍率の平均が6倍で、評価対象企業のEBITDAが1億円であれば、企業価値は6億円と算定されます。
特徴と活用場面
類似会社比較法の最大の特徴は、市場の実勢を反映できることです。株式市場は、多数の投資家が様々な情報を分析して形成する価格であり、ある意味で「集合知」による評価です。この市場の評価を参考にすることで、客観性の高い評価が可能になります。
また、比較的簡便に算定できる点も利点です。上場企業の財務データは公開されており、マルチプルの計算も単純です。複雑な将来予測や割引率の設定が不要なため、短期間で評価を行えます。
さらに、第三者への説明がしやすいという実務上の利点もあります。「同業の上場企業と比較すると、このような評価になります」という説明は、経営者や株主にとって理解しやすく、納得感が得られやすいものです。
この方法は特に以下のような場面で有効です。
M&Aにおける市場価格の参考として、買い手と売り手の価格交渉の出発点となります。「市場ではこのくらいの評価が一般的です」という客観的な基準を示すことで、交渉をスムーズに進めることができます。
上場を目指す企業の価値評価でも重要な役割を果たします。IPOを検討している企業が上場後の想定株価を予測する際、類似上場企業のマルチプルを参考にします。これにより、上場時の資金調達額や、創業者の保有株式の価値を見積もることができます。
業界標準との比較分析にも活用されます。自社のマルチプルが業界平均より高いか低いかを分析することで、市場からの評価を客観的に把握できます。マルチプルが低い場合、収益性の改善や成長戦略の見直しが必要かもしれません。
限界と注意点
類似会社比較法にも限界があります。
最大の問題は、適切な類似企業・取引事例が見つからない場合があることです。特に、ニッチな業種や地域密着型の企業、独自のビジネスモデルを持つ企業の場合、真に類似する上場企業を見つけることが困難です。無理に類似性の低い企業を選定すると、評価の精度が大きく低下します。
また、中小企業では比較対象が限定的であるという問題もあります。上場企業は一般的に規模が大きく、中小企業とは経営環境が大きく異なります。規模の経済、資金調達力、知名度など、上場企業が持つアドバンテージを考慮せずに単純にマルチプルを適用すると、中小企業の価値を過大評価してしまいます。
このため、実務では「規模格差ディスカウント」や「非流動性ディスカウント」として、一定の減額調整を行うことが一般的です。通常、20~40%程度のディスカウントが適用されますが、これは目安であり、業種や流動性、支配権の有無などの前提により大きく変動します。
個別企業の特性が反映されにくいことも課題です。類似企業比較法は、あくまで「平均的な企業」の評価を示すものです。評価対象企業が持つ独自の強み(優秀な経営陣、独自技術、強固な顧客基盤など)や弱み(特定顧客への依存、老朽化した設備など)は、マルチプルには十分に反映されません。
さらに、市場環境の影響を受けやすいという問題もあります。株式市場が全体的に過熱している時期は、マルチプルも高くなり、企業価値が過大評価される傾向があります。逆に、市場が低迷している時期は、過小評価になります。M&Aの評価では、一時的な市場変動の影響を除外するため、複数時点のマルチプルを平均値や中央値で平準化するなどの工夫が必要です。
3. DCF法(インカムアプローチ)
DCF法(Discounted Cash Flow法)は、企業が将来生み出すキャッシュフローを予測し、それを現在価値に割り引いて企業価値を算定する方法です。別名「インカムアプローチ」とも呼ばれ、理論的に最も合理的な評価手法として、M&Aの実務で広く用いられています。
算定の考え方
DCF法の基本的な考え方は、「企業の価値は、将来生み出すキャッシュフローの現在価値の合計である」というものです。これはファイナンス理論の基本原則に基づいています。
具体的な手順を見ていきましょう。
まず、将来のフリーキャッシュフローを予測します。フリーキャッシュフローとは、企業が事業活動から生み出すキャッシュフローのうち、債権者と株主に分配可能な金額です。具体的には、営業利益から税金を差し引き、減価償却費を足し戻し、設備投資と運転資本の増加額を差し引いて計算します。
この予測は、通常5~10年間の事業計画に基づいて行います。売上高の成長率、営業利益率、設備投資計画、運転資本の変動などを詳細に予測します。この予測の精度が、DCF法の評価精度を大きく左右するため、過去の実績、業界動向、競合状況、経営戦略などを総合的に分析する必要があります。
次に、割引率を設定します。割引率とは、将来のキャッシュフローを現在価値に換算する際に用いる利率で、企業のリスクを反映します。リスクが高い企業ほど、高い割引率が適用されます。
割引率の算定には、通常WACC(Weighted Average Cost of Capital:加重平均資本コスト)が用いられます。WACCは、株主資本コストと税引後の負債コストを、それぞれの市場価値ベースの構成比で加重平均したものです。
株主資本コストは、CAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産価格モデル)などを用いて算定します。これは、無リスク利子率(国債利回りなど)に、ベータ値を乗じた市場リスクプレミアムを加えて求めます。必要に応じて、サイズや流動性などの追加プレミアムを加える場合があります。
中小企業の場合、上場企業に比べてリスクが高いため、通常10~15%程度の割引率が適用されることが多くなります。
そして、ターミナルバリュー(継続価値)を算定します。事業計画期間(5~10年)を超えた後も、企業は事業を継続します。この継続期間の価値をターミナルバリューと呼びます。
ターミナルバリューの算定には、永久成長率モデルやマルチプル法が用いられます。永久成長率モデルでは、最終年度のフリーキャッシュフローが、一定の長期安定成長率(通常0~2%程度)で永久に成長すると仮定して計算します。長期安定成長率は、長期的な経済成長率やインフレ率と整合する水準で設定するのが一般的です。
最後に、各年のフリーキャッシュフローとターミナルバリューを割引率で現在価値に割り引き、合計します。これが、事業価値(Enterprise Value)です。ここから純有利子負債を控除することで、株式価値(Equity Value)が算定されます。
特徴と活用場面
DCF法の最大の特徴は、将来の収益力を反映できることです。企業の価値は、過去の実績ではなく、将来どれだけのキャッシュフローを生み出せるかによって決まります。DCF法は、この本質的な価値を直接評価する手法です。
また、理論的に最も合理的とされています。ファイナンス理論の教科書では、DCF法が企業価値評価の標準的な手法として紹介されており、学術的な裏付けがあります。
さらに、個別企業の特性を反映できる点も重要です。事業計画を詳細に作成することで、企業固有の成長戦略、競争優位性、リスク要因などを評価に反映させることができます。
この方法は特に以下のような場面で有効です。
M&Aにおける買収価格の算定では、DCF法が中心的な役割を果たします。買い手は、買収後に得られる将来のキャッシュフローを予測し、それに基づいて支払可能な最大価格を算定します。また、買収によるシナジー効果(コスト削減、売上高増加など)も、将来キャッシュフローに織り込むことができます。
事業計画が明確な成長企業の評価にも適しています。スタートアップ企業やベンチャー企業は、現時点では赤字でも、将来の高成長が期待される場合があります。このような企業を時価純資産法で評価すると、価値がほとんどゼロになってしまいますが、DCF法では将来の成長性を適切に評価できます。
投資ファンドによる評価でも、DCF法が標準的に用いられます。プライベートエクイティファンドは、投資先企業の価値向上を図り、数年後に売却することで利益を得ます。このため、将来のエグジット時の企業価値を予測することが重要であり、DCF法が最適な評価手法といえます。
限界と注意点
DCF法にも限界があります。
最大の問題は、将来予測の不確実性です。5~10年先の事業環境を正確に予測することは、非常に困難です。市場の変化、競合の動向、技術革新、規制の変更など、予測できない要因が数多く存在します。予測が外れれば、評価額も大きく変動してしまいます。
このため、DCF法では、複数のシナリオ(楽観シナリオ、基本シナリオ、悲観シナリオ)を作成し、それぞれについて評価を行う「シナリオ分析」や、主要な変数を変化させ、その影響を検証する「感応度分析」を併用することが重要です。
また、割引率の設定が恣意的になりやすいという問題もあります。割引率を1~2%変えるだけで、評価額が数十%変動することもあります。売り手は低い割引率を、買い手は高い割引率を主張する傾向があり、この点が価格交渉の焦点になることが少なくありません。
中小企業では事業計画の精度が低い場合があることも課題です。大企業では、専門部署が詳細な中期経営計画を策定していますが、中小企業では、そもそも事業計画を作成していないケースも少なくありません。精度の低い事業計画に基づくDCF法の評価は、信頼性が低くなります。
さらに、計算が複雑で専門知識が必要です。フリーキャッシュフローの計算、WACCの算定、ターミナルバリューの計算など、財務の専門知識がないと正確な評価ができません。このため、M&Aアドバイザーや公認会計士などの専門家のサポートが不可欠です。
M&Aにおける企業価値算定の実務
実際のM&Aでは、これら3つの方法を単独で用いるのではなく、複数の方法を組み合わせ、総合的に判断します。
評価手法の使い分け
時価純資産法は、評価の下限値(フロア)として位置づけられます。売り手にとって、「最低でもこの金額以下では売らない」という基準となります。また、資産の実態を把握するために、デューデリジェンス(買収監査)の一環として必ず実施されます。
類似会社比較法は、市場相場の確認として用いられます。「業界の標準的な評価水準はこの程度」という客観的な基準を示すことで、価格交渉の出発点となります。ただし、中小企業の場合は規模格差ディスカウントを適用し、上場企業のマルチプルをそのまま適用しないよう注意が必要です。
DCF法は、評価の中心的な手法として位置づけられます。特に、買い手が買収後のシナジー効果を見込んでいる場合、そのシナジーを織り込んだDCF法の評価額が、買い手の支払意思額の上限となります。
価格交渉のプロセス
M&Aの価格交渉は、通常以下のようなプロセスで進みます。
まず、売り手が希望売却価格を提示します。この価格は、DCF法や類似会社比較法に基づいて算定されることが多く、売り手の期待値が反映されています。
次に、買い手が初期的な評価(バリュエーション)を実施します。公開情報や、売り手から提供された基本的な財務情報に基づいて、概算の企業価値を算定します。この段階では、時価純資産法と類似会社比較法が中心となります。
そして、買い手が意向表明書(LOI)を提出します。これには、買収価格のレンジ(例:5~7億円)、買収条件、今後のスケジュールなどが記載されます。
その後、デューデリジェンス(DD)が実施されます。買い手は、財務、法務、ビジネス、税務など、多角的な調査を行います。この過程で、簿外債務、訴訟リスク、顧客の離反リスクなど、様々な問題が発見されることがあります。
DDの結果を踏まえて、買い手は最終的な買収価格を提示します。DDで発見された問題点については、価格の減額要因として交渉されます。また、買収後の経営体制、従業員の処遇、取引条件などもこの段階で詰めていきます。
最終的に、双方が合意に達すれば、最終契約書(SPA:Stock Purchase Agreement)を締結し、クロージング(決済)へと進みます。
企業価値を高めるための準備
M&Aで高い評価を得るためには、日頃から企業価値を高める取り組みが重要です。
財務体質の強化は基本です。不良資産を整理し、借入金を削減し、収益性を改善することで、どの評価手法でも高い評価を得られます。特に、営業利益率やEBITDAマージンの改善は、DCF法や類似会社比較法の評価に直結します。
事業の見える化も重要です。明確な事業計画を策定し、月次決算を実施し、業務プロセスを文書化することで、買い手の信頼を得られます。また、DCF法の評価精度も向上します。
経営リスクの低減も評価を高めます。特定顧客への依存度を下げ、経営者個人への依存を減らし、コンプライアンス体制を整備することで、買い手が感じるリスクを低減でき、高い評価につながります。
無形資産の強化も忘れてはいけません。ブランド力の向上、顧客基盤の拡大、独自技術・ノウハウの蓄積は、DCF法での将来キャッシュフローの見通しを改善し、類似会社比較法でのマルチプルも向上させます。
まとめ
M&Aにおける企業価値算定は、事業承継を成功させるための重要なステップです。本コラムで解説した3つの方法は、それぞれ異なる視点から企業価値を評価します。
・時価純資産法:企業の「正味の財産」を評価し、評価の下限値を示す
・類似会社比較法:市場の評価を参考にし、業界標準との比較を可能にする
・DCF法:将来の稼ぐ力を評価し、理論的に最も合理的な価値を算定する
実務では、これら3つの手法を組み合わせて総合的に判断することが重要です。それぞれの方法の特徴と限界を理解し、自社の状況に応じて適切に活用することで、公正で納得感のある価格交渉が可能になります。
M&Aは、単なる企業の売買ではなく、事業の継続と発展、従業員の雇用維持、取引先との関係継続など、多くのステークホルダーの利益に関わる重要な経営判断です。適切な企業価値算定に基づいた価格交渉により、売り手・買い手双方にとって満足度の高いM&Aを実現し、企業の持続的成長につなげることができます。
事業承継を検討されている経営者の方は、早期に専門家に相談し、自社の企業価値を客観的に把握することから始めることをお勧めします。

丹尾 渉
執行役員
M&Aコンサルティング事業部長
2017年からM&Aコンサルティング本部の立上げに参画。M&A戦略構築からアドバイザリー、PMIまでオリジナルメソッドを開発。その後5年間で延べ80件以上のM&Aコンサルティングに携わる。「戦略無くしてM&Aなし」をモットーに、大手から中堅・中小企業のM&Aを通じた成長支援を数多く手掛けている。
- 主な実績
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- 上場企業の新規事業開発を目的とした譲受側M&Aアドバイザリー
- 上場企業子会社の事業戦略からM&Aまで一貫性を持たせた戦略構築
- 上場企業子会社の買収調査のためのビジネスDD、財務DD、労務DD
- 中堅企業の事業ポートフォリオの転換によるビジネスモデル変革支援
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