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「M&A=ゴール」ではない…
譲渡企業が直面する“統合後の壁”

2025.04.09

本コラムは『THE GOLD ONLINE』の寄稿原稿です。

企業価値を向上させるPMI(Post Merger Integration)


中長期ビジョンを実現させる経営手段として、M&A(Mergers and Acquisitions:合併と買収)は今や無くてはならない経営手段となっている。

譲受企業のなかには複数回のM&Aを経験している企業も多いだろう。2024年1月~12月の集計期間で公開されているM&Aだけでも約4,700件あり、過去最高の件数を更新している(『マールオンライン』「2024年のM&A回顧(2024年1-12月の日本企業のM&A動向)」2025年1月6日公開参照)。

あくまでこれは公開されている件数のため、中堅・中小企業の非公開案件も含めると件数はさらに増加すると考えられる。しかし、M&Aの本質は、件数や交渉金額ではない。譲受企業(買い手)と譲渡企業(売り手)がともに成長していくモデル、すなわち「企業価値向上を目指したM&A」になっているかどうかが最も重要である。

M&Aで企業価値を向上させるプロセスはとくにPMI(Post Merger Integration:統合プロセス)のフェーズにかかっている。

PMIとは、M&A後に企業同士をうまく統合し、スムーズに運営するためのプロセスのことを指す。単に企業を買収しただけでは、経営方針の違いや業務の進め方のギャップが生じ、期待した成長が実現できないことがある。そのため、PMIを適切に行い、両社が相乗効果(シナジー)を発揮できるようにすることが不可欠である。

PMIのフェーズはM&A成約後に行われるため、従来から譲受企業の視点で語られることが多い。しかし、PMIが譲受企業と譲渡企業双方の企業価値向上を目指すものである以上、譲渡企業の視点からもPMIを考えることは重要である。そこで、譲渡企業の視点からPMIに焦点を当てていく。

M&AとPMIの比較

【図表1 M&AとPMIの比較】

譲渡企業のPMIへの関わり方


PMIは「統合プロセス」といわれるが、すでに譲受企業側はM&Aの交渉段階から動き始めている。

まず、M&Aを始める段階から譲受企業は譲受後を意識した戦略を検討しており、この部分が中途半端だと、M&A実行後に譲渡企業と意見がかみ合わない場合が多い。譲渡企業は、M&Aの初期段階から譲受企業のM&A戦略(譲受後の戦略も含む)について、面談を通じて聞き出すことが重要である。

譲渡企業の経営者(オーナー)は、自ら事業を継続し、成長させたいと考える人が多い。しかし、事業承継や経営リソースの問題でやむを得ずM&Aを選択することがある。自社のことを最もよく理解しているのは経営者本人であるため、経営者が譲受企業の今後の戦略を事前に確認し、納得できるかどうかというのは非常に大きなポイントだ。

次に、PMIの実行フェーズである。譲渡後の経営は譲受企業側が主導で行うが、PMIフェーズは譲受企業と譲渡企業双方が連携して実施しなければ成功は難しい。

とくに、譲受企業は、M&A成約段階ではデューデリジェンス(買収調査)で得た情報程度しか譲渡企業に関する情報を持ち合わせていない。譲渡企業の企業価値を向上させるためには、譲渡企業のオーナーや従業員の協力が不可欠なのである。

譲渡企業の役割とは


具体的に譲渡企業のPMIの動きにはどのようなものがあるだろうか。

まず、譲受企業の現状認識のサポートである。譲受企業は、デューデリジェンスで得た情報をもとに、強化ポイントや改善ポイントを絞り込んで譲渡企業に協力を依頼してくる。

しかし、譲受企業は譲渡企業内で実際の業務をずっと見てきたわけではないため、そこには少なからず認識のズレが発生している。

たとえば、経理処理方法や書類整備状況、営業プロセスにおいてとくに顕著にみられる。「説明では〇〇と聞いていたが、実際の営業方法は〇〇だった」という場合である。

確かに事前に聞いていた説明は間違っていないが、「思っていたものと異なる」というニュアンスとイメージのギャップが生じるのである。これは、PMIスタート時に譲受企業と譲渡企業がPMIの委員会を立ち上げて、双方で現状認識を改めて行い、一致させておく必要がある。

譲渡企業・譲受企業の動き

【図表2 譲渡企業・譲受企業の動き】

現状認識ができた後は、実際のPMIの動きである。

譲受企業は、戦略検討や管理部門の引継ぎ、経営者の派遣等、経営全般に関する支援を中心に進めることが多い。しかし、実際の日々の業務は譲渡企業自身が行わなければならない。

大手企業のグループに入った途端に業績が落ちる企業があるが、譲渡後は手取り足取り譲受企業が指示をくれるわけではない。譲渡企業側でも主体性をもって事業を継続していく必要がある。

オーナー依存から「脱却」した例


譲渡企業において、営業の根幹を支えているのは、実はオーナーとキーマンと呼ばれるような人材であったりする。オーナーはM&A実施後、継続して残ってくれる場合もあれば、引継ぎ期間を経て完全に経営から退く場合もある。そうなると、これまで取れていた受注や売上が途端に上がらなくなる。

そうならないように、オーナー以外のキーマンや残った従業員で営業プロセスを組み直す必要がある。この点は譲受企業と相談しながら、譲渡企業の内部で進めていくことになる。譲受企業から新たな営業部長が派遣されてくれば良いが、そうでない場合は、譲渡企業の従業員が担う必要がある。ある企業を例に見てみよう。

実際にM&Aを実行した企業では、オーナーの引退が一定期間後に決まっていたため、ナンバー2のキーマンを中心に営業体制を見直した。オーナーに付いていたクライアントの引継ぎをPMI当初から行い、オーナー引退によるインパクトの軽減に努めた。また、営業プロセスのなかで属人的な業務になっていた箇所を洗い出し、言語化して、オーナー以外のメンバーでも携われるように整備を行った。

これにより、残った人員でこれまでの動きが継続できるようになった。もちろん、オーナーのように多くの受注や売上をすぐに上げられるわけではないが、「事業の継続(=経営をつなぐ)」という意味で、譲渡企業内部による重要な動きであった。

PMIを成功に導くために


日本電産の永守重信社長が「M&Aは契約の時点で2合目、残りの8合分は企業文化を擦り合わせるPMI」と言うように※、M&Aは交渉して終わりではなく、その後の時間のほうが長い。
※2012年8月10日付日本経済新聞より

M&Aによって譲受企業の企業価値が向上するということは、すなわち、引き受けた譲渡企業の企業価値も同時に上がっていることを意味する。譲渡企業の業績は落ちているが譲受企業の業績が上がっている状況というのは、当初予定していたシナジーが上手く出ていないということである。

シナジーを生み出すためには、譲受企業のみの努力でどうにかなるものではなく、譲渡企業側も積極的に関わることが求められる。譲渡企業は譲受企業の戦略を見極め、PMIフェーズで実際にアクションを起こすことで、自社の企業価値を向上させる。

大手企業のグループに入ることや自社をサポートしてくれる譲受企業が現れたからといって、決して安泰ではない。PMIを成功に導くためには、自社を最もよく知る譲渡企業の幹部や従業員が、譲受企業と連携していくことが求められる。

受け身ではなく、「譲受企業のリソースを活用して、自社をさらに成長させていこう」という、前向きかつ野心的なマインドをもってPMIに臨むことが重要だといえるだろう。

出典:「M&A=ゴール」ではない...譲渡企業が直面する"統合後の壁"【経営コンサルタントが解説】 | ゴールドオンライン

このコラムの執筆者
丹尾 渉

丹尾 渉

執行役員
M&Aコンサルティング事業部長

2017年からM&Aコンサルティング本部の立上げに参画。M&A戦略構築からアドバイザリー、PMIまでオリジナルメソッドを開発。その後5年間で延べ80件以上のM&Aコンサルティングに携わる。「戦略無くしてM&Aなし」をモットーに、大手から中堅・中小企業のM&Aを通じた成長支援を数多く手掛けている。

主な実績
  • 上場企業の新規事業開発を目的とした譲受側M&Aアドバイザリー
  • 上場企業子会社の事業戦略からM&Aまで一貫性を持たせた戦略構築
  • 上場企業子会社の買収調査のためのビジネスDD、財務DD、労務DD
  • 中堅企業の事業ポートフォリオの転換によるビジネスモデル変革支援
  • M&Aを初めて実施した中堅企業のPMI支援
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