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建設業界における「経営をつなぐ」M&Aモデルとは

2024.01.19

「成長戦略M&A」と「MIRAI承継」の両輪が企業同士を"つなぐ"


昨今、建設業界ではM&Aが活発である。M&A統計を算出している㈱レコフデータによると、2022年1年間で公開されている建設業界のM&Aは182件あり、件数は過去最多を維持している。2023年も勢いそのままに、上場・非上場、エリア、工種に関わらず、建設業界におけるM&Aが行われている。同業界でM&Aが活発である理由の一つは、建設業界に迫りくる外部環境の変化が影響している。


ご存じの通り建設業界では、建設資材の高騰や人材不足、金利上昇等による建設コストおよび住宅ローンの上昇に対する懸念があり、また、「2024年問題」や後継者不足が指摘されている。目前に迫りくるこれらの「変化」に対して短期間で解決策を見出す手段としてM&Aは活用されている。
重要なポイントは、M&Aの目的は、譲受側・譲渡側のいずれかの利益を重視しているわけではなく、双方を繋ぐことにより企業が存続し、ひいてはそれが建設業界の成長に繋がっていくという視点である。この視点を「譲受側:成長戦略M&A」と「譲渡側:MIRAI承継」からそれぞれ見ていこう。


「成長戦略M&A」と「MIRAI承継」の両輪が企業同士を

譲受側の目指す「成長戦略M&A」


2023年にタナベコンサルティングが実施した「M&A・事業承継に関するアンケート」の中で、M&Aの譲受(買収)を検討している企業のうち、約24%は住宅・建設業の企業が占めていた。(図表1)


案件を検討するにあたっての対象業種(複数回答)


建設業界における買い手は、採用難から技術者の確保を目的としたM&Aや工種の拡大(建築業者が電気工事業者を買収する等)といった目的でM&Aを積極的に実施していることが伺える。このようなM&Aは、「今後、業界内で生き残っていくため」というよりも、「企業価値を高めるため」の積極的な投資の意味合いで行われているものも多い。まさに成長戦略を描くためのM&A、すなわち「成長戦略M&A」である。


「成長戦略M&A」で最も重要なことは、中長期ビジョンに基づくM&Aの実行である。構築したビジョンの実現のためにM&Aを活用するという"一貫性"が成長へのエンジンとなる。今や中期経営計画にM&Aを盛り込んでいる企業は多い。単なる同業の買収では、売上高の増加は見込めても、グループ全体の成長の力強さに欠ける場合が多い。(図表2)


中期経営計画におけるM&A※中期経営計画が最終年の方のみ


ビジョンとM&Aの一貫性がプラスに作用するのは、工種を広げてM&Aを実行する場合や異業種をM&Aする場合である。昨今では、建設業の企業が異業種を譲り受けることも珍しくない。ある建設業の企業はメーカーのM&Aを実行した。異業種の譲り受けに際して指針となったのはグループビジョンである。
本業である建設業を軸に周辺領域に拡大していく際の相乗効果(シナジー)を事前に想定し、自社の建設した建物に関連のある製品を生産するメーカーもM&Aの対象としていたことが、譲り受けの判断に大きな影響を及ぼした。異業種同士がM&Aを実行する際には、譲渡企業からすると「なぜ当社を引き受けようと思ったのか?」という点が質問として挙がってくるが、譲受企業が明確なビジョンを説明することにより、このハードルも越えることができる。


譲受を検討される企業は、自社の中長期ビジョンとM&A戦略がリンクしているかをチェックして、対象企業を具体化することでM&Aの成功の確率を上げていくことをお勧めする。


譲受側の目指す「成長戦略M&A」

譲渡側が描く「MIRAI承継」


経営を未来へとつなぐ MIRAI承継


譲受企業が「成長戦略M&A」とすれば、譲渡企業の目的は、資本が変わっても経営が引き継がれていく事業承継型M&Aである。建設業界では後継者不足が叫ばれて久しいが、M&Aの目的も事業承継を意識した譲渡が多い。当社が2023年1年間で手掛けた事業承継型M&Aの約3分の1は建設業またはその周辺分野である。譲渡企業の想いとしては、自社の廃業により顧客や協力企業に迷惑をかけたくないという点が一番であり、譲受企業を選ぶ際にもこの点を重視している。


事業承継型M&Aを成功させるためのポイントは、「事前準備」である。建設業では、M&Aが成約するまでに、経営業務管理責任者の調整や従業員における有資格者の確認、これまでの受注実績(入札実績)、経営事項審査の点数、今後の受注見込案件等、確認事項が多い。これらを直前になって良く見せようと考えても、短期間では難しい。良く見せようとするあまり、譲受候補先との面談時に実態とかけ離れた回答をしてしまう企業も目立つ。
譲渡企業にとっては、譲受候補先が気にするであろう点を事前に想定し、アドバイザーや仲介会社とその解決策を検討しておくことが有効である。事前に調べれば分かる項目(有資格者一覧や過去の受注実績、工事別の粗利益一覧、今後の受注見込一覧等)は予め整理しておき、不足する項目は譲渡企業側からの要望として、譲受候補先に説明できるようにしておくことが必要である。(親会社から経営業務管理責任者の選出等)



後継者不在であっても、現在は「第三者承継」、すなわちM&Aによる経営の引継ぎが可能であり、一般的にも認知されてきている。将来に渡って経営を引き継いでもらえるように事前準備を進めることが譲渡企業にとってM&Aが成功する秘訣であり、将来(未来)に渡って企業を存続させる=「MIRAI承継」を意識した準備をぜひ実行していきましょう。


このコラムの執筆者
丹尾 渉

丹尾 渉

執行役員
M&Aコンサルティング事業部

2017年からM&Aコンサルティング本部の立上げに参画。M&A戦略構築からアドバイザリー、PMIまでオリジナルメソッドを開発。その後4年間で延べ60件以上のM&Aコンサルティングに携わる。「戦略無くしてM&Aなし」をモットーに、大手から中堅・中小企業のM&Aを通じた成長支援を数多く手掛けている。

主な実績
  • 上場企業の新規事業開発を目的とした譲受側M&Aアドバイザリー
  • 上場企業子会社の事業戦略からM&Aまで一貫性を持たせた戦略構築
  • 上場企業子会社の買収調査のためのビジネスDD、財務DD、労務DD
  • 中堅企業の事業ポートフォリオの転換によるビジネスモデル変革支援
  • M&Aを初めて実施した中堅企業のPMI支援

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