自社の人事データにおける現状を見極め、課題とゴールを見据えてシステム導入を進めること
そもそもタレントマネジメントとは何か?
DXの進展やグローバル化など、外部環境が急速に変化していく中で、人事部門においては、企業の経営戦略と人財マネジメントを連動させた戦略人事への転換が重要となっています。そこで、人事部門は従来の経験や勘に基づく運営から、客観的なデータを基にした運営への変革を求められており、そうした中で、タレントマネジメントへの注目が高まっています。
タレントマネジメントとは、従業員一人ひとりの能力・スキル・経験といった情報を、採用や育成、人財配置などに活用し、従業員と組織のパフォーマンスの最大化を目指す人財マネジメントです。人財データを活用し、経営戦略に柔軟に対応可能な人財マネジメントサイクル(図1参照)を循環させることで、企業の持続的な成長につなげることが可能です。
タレントマネジメントを実現するために、近年、多くの企業で導入、もしくは導入の検討が進められているのが、タレントマネジメントシステムです。もちろんシステムを導入せずとも、タレントマネジメントの実現を目指すことは可能です。しかし、タレントマネジメント実現のために必要な膨大な人財データの収集・管理や分析を、システムを使用せずに継続して行うことは難しく、今後もタレントマネジメントシステムの必要性は高まっていくと考えられます。しかし、タレントマネジメントシステムの導入を進める中、実務的な課題に直面し導入に至らなかったケースや、導入後の運用が正しくできていないケースも多く発生しています。
本稿では、タレントマネジメントにおける実務的課題とその解決に向けた具体的なアクションについて、前後編に分けて解説します。
データ管理とデータマネジメント活用の違い
筆者がクライアントより、タレントマネマネジメントやタレントマネジメントシステムの導入に際して相談を受ける際に必ず質問をすることがあります。それは、「データ管理をしたいのか、データ活用をしたいのか」。
質問の背景は、データ管理とデータ活用の違いを理解していない場合、システム導入後にGAPが生じるからです。
戦略人事やタレントマネジメントで言われる「データ活用」とは、人材の基本情報や評価結果をシステム化・デジタル化し、業務効率を図るといういわゆる、「データ管理」のことではなく、データを活かして、企業の組織の課題解決に向けた仮説検証のPDCAサイクル実施する「データ活用」を指します。要は、まず「データ管理」ができていることが前提であり、その先に「データ活用」という考え方を理解する必要があります。
タレントマネジメントやスキル開発やスキルの可視化における「データ活用」と考えた場合、以下図でいう、どこを理想とするかを経営・人事・現場の三者間で統一した認識を持つことが重要です。レベル1が単年集計、レベル2が経年比較、レベル3がベンチマーク比較、レベル4が予測分析と4ステップに分けて記載しています。世にいうタレマネやデータ活用、アナリティクスなどのセミナーや本で説明される内容はこのレベル2以降のデータや情報を見ることを理想として語られます。ただし、ここでまず考えなくてはならないは、足元のレベル1の単年集計がそもそも実施できているかということです。レベル1の単年集計はあくまでもタレントマネジメントや「データ活用」ではなく「データ管理」の領域であり、この状態から人事戦略へ結びつけることは困難です。
タレントマネジメントシステム導入における実務的課題
人財データを活用したタレントマネジメントの実現にあたり、非常に有用なタレントマネジメントシステムですが、その導入にあたっては以下の3点のような実務的課題に直面し、導入を断念したというケースや、導入後うまく運用できなかったという声を聞くことがあります。
1つ目の実務的課題は「そもそもシステムに入力するデータが社内にない」というものです。導入前の時点で評価履歴や異動履歴といった人財情報を保管していない場合、たとえタレントマネジメントシステムを導入したとしても、システムに入力するデータがないため、データの分析や活用はできないということになります。
2つ目は「システムからほしいデータが出ない」というものです。「タレントマネジメントシステムは人事データの収集・分析・レポートをシームレスに実現するもの」というこれまでの説明と矛盾するように思えますが、システム導入後に実際に生じている課題です。これは、タレントマネジメントシステムによって実現したいことに関する検討が、導入前に十分にできていないことで発生します。
3つ目の課題は「正しい分析結果が出てこない」というものです。これも2つ目の課題と同様、システム導入後に生じている課題で、システムへの入力とシステムからの出力に関する導入前の検討が不足することで発生します。
ここまでに、タレントマネジメントシステムとは何かと、システム導入における実務的課題について説明しました。後編ではシステム導入における実務的課題の解決に向けた具体的アクションを解説します。
関連情報
この課題を解決したコンサルタント
グローウィン・パートナーズ
執行役員 /
HRコンサルティング部 担当山本 怜美
グループ会社30社の採用・研修・労務・制度構築(等級・報酬・評価制度、海外勤務者制度、限定社員制度等)ならびにM&Aの労務デュー・デリジェンス、人事領域のPMI検討から、等級・評価・報酬・年金・退職金・システムの統合、従業員の移管(承継・転籍)に係る諸手続き、従業員コミュニケーション(交渉・説明会)、リテンション施策など多数プロジェクトを担当。
2019年 当社入社、プライム市場企業から中堅・中小企業の人事PMI・人事制度構築・システム導入プロジェクトを多数PMとして主導する他、セミナー講師を多数登壇。2023年よりHRコンサルティング部の部長職。
- 主な実績
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- 【人事制度構築】
- 老舗建設業の人事制度再構築プロジェクト(PM)
- 老舗運送業の人事制度再構築プロジェクト(PM) 他多数
- 【組織戦略】
- 社員数約2,500名の海運業のタレントマネジメント・システム導入要件定義およびタレントデータを活用したサクセッションプラン策定プロジェクト(PM)
- 【労務DX】
- 社員数約5,000名の就労システム・人事給与システム・契約書管理システム選定および導入システム支援プロジェクト(PM)
- 【労務DD/人事PMI】
- 不動産業、観光業、IT業、出版業、サービス業など計30件以上のプロジェクト実績(PM)
- 【人事制度構築】