社員の活躍と成長を推進するためには重要指標の設定が有効
人材マネジメントとは
人材マネジメントは、会社で必要となる人材を戦略的に獲得・育成・活用する一連のプロセスを指す。
会社の目標やビジョンに合致した人材を確保し、能力や成果を最大限に引き出すことが人材マネジメントの目的となっており、会社の人事部門に必要な機能であると同時に最大のミッションとして位置付ける場合が多い。
現代のビジネス環境では、人材マネジメントがますます注目されており、その背景には以下のような理由がある。
まず第一に、競争の激化とグローバル化により、優れた人材を獲得することが重要になっている。人材の質や能力がビジネスの成功に直結するため、会社は優秀な人材を引き付け、確保する必要性が増している。
さらに、技術の進化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の浸透により、業務の変化が著しく、会社は迅速に変化に対応できる柔軟な人材を必要としている。人材マネジメントは、適切なスキルや知識を持った人材を育成し、組織の変革を推進するための重要な役割を果たす。
また、社員のモチベーションやエンゲージメントの向上も、人材マネジメントに注目が集まる理由の一つである。社員満足度や働きがいのある環境づくりは、生産性や創造性の向上につながる重要な要素となっている。会社は多様なニーズに合わせた働き方やキャリア開発の機会を提供することで、社員満足度と組織への愛着心を同時に高めることが求められている。
これらの要素から、人材マネジメントは組織の競争力や持続可能な成長に不可欠な要素として注目を浴びており、会社は人材マネジメントによって適切な人材の獲得・育成・活用を実現し、競争優位性を確保する必要性が再確認されている。
人材マネジメントに必要な要素
会社内の人材を最大限に活用し、成果を最大化するための総合的なアプローチである人材マネジメントを必要な要素に分解すると以下のように分けることができる。
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・人材戦略の策定
人材マネジメントの基礎となるのは、各社における人材戦略の明確な策定である。会社のビジョンや目標に合致する人材の特性や能力を定義し、将来的な人材ニーズを把握することが欠かせない
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・リクルーティングと採用
適切な人材を採用するためには、効果的なリクルーティング戦略が必要となる。採用プロセスの最適化を通じて、会社に適した人材を獲得しなければならない
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・社員の育成と継続的な学習
社員の成長を促進するためには、継続的な学習とスキルの向上を支援する必要がある。研修プログラムやメンタリング、コーチングなどの手法を活用して、社員の能力や専門知識を発展させる必要がある
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・パフォーマンス評価とフィードバック
パフォーマンスの評価とフィードバックは、社員の成果と成長を促進するために重要である。明確な目標設定や定期的な評価を通じて、社員のパフォーマンスを評価し、適切なフィードバックを提供することが求められる
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・キャリア開発と昇進の仕組み
社員のキャリアパスをサポートし、成長の機会を提供することは、モチベーションと会社への忠誠心を高める上で重要である。明確なキャリア開発計画や昇進の仕組みを整え、社員の成長とキャリアの進展を支援していく
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・モチベーションとエンゲージメントの向上
社員のモチベーションとエンゲージメントを高めることは、生産性と会社のパフォーマンスに直結する。報酬制度や福利厚生、コミュニケーションの改善など、様々な手法を活用して社員の満足度と結びつきを強化していかないとならない
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・組織文化の醸成
組織の変化に対応するためには、組織文化の醸成が必要である。変化を受け入れ、柔軟に対応することで、会社の成長とイノベーションを促進していくことができる
人材マネジメントの要素は多岐にわたるが、会社の成功においては欠かせないものとなっている。これらの要素を組み合わせ、戦略的な人材マネジメントの実践をしていくにあたり、人事KPIの設定・活用が有効な手段として挙げられる。
人材マネジメントに人事KPIを活用するメリット
人事KPI(Key Performance Indicators)とは、人事部門における達成すべき重要な指標のことを指す。
この人事KPIを設定する目的は、①目標を明示する、②それを定量化する、という二つに大別することができ、それぞれにメリットがある。
①「目標の明示」によるメリット
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・リソースの集中投下
先述の通り、人材マネジメントの要素は多岐に渡る。理想としては全部の要素で人事施策を実施し、改善していくことではあるが、「全部やる」という決定は、「何も決めていない」と同義となってしまう。人事KPIを設定することで、会社として取り組むべき人事の課題を明示して、解決に向けてリソースを集中させることができる
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・ベクトルの統一
現代では、社内の組織間の境界線はより曖昧になってきており、会社における人材マネジメント上の問題は、人事部門だけが対応するモノではなく、現場の問題であり、経営の問題である。そのため、問題解決に向けた課題に取り組む際には、経営層や現場社員の理解と協力なくして成功はない。人事KPIという形で方針・目標を明示することで、各部門、各レイヤーとの意識を揃え、会社が一丸となって問題解決に取り組むことができる
②「目標の定量化」によるメリット
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・人事部門の成果責任の明確化
人事部門の成果(業績への貢献度)は、定性的なモノが多く、人事部門が有効に機能しているか否かが客観的に判断しづらい側面がある。そのため、会社として最低限必要の人事オペレーションが問題なく遂行されていれば、人事部門が機能しているとい判断されてしまい、先述した人材マネジメントの目的である「人材を最大限に活用し、成果を最大化する」ということに取り組めていない企業も少なくない。そのような状態に陥らないようにするために、人事KPIを設定し、人事部門としての目標を明示することで、目的を達成したか否かを明確に判断することができる
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・PDCAサイクルの推進
人事部門の取り組みは、すぐに効果が出るものが少なく、長期的な取り組みになることが多い。そのため、そもそも投資を伴う施策が実施されにくかったり、実施された施策が途中で頓挫する、当初の目的が忘れ去られて運用が形骸化する、など計画通り遂行することややりきることが難しい。そうならないように、計画の中で人事KPIをマイルストーンごとに設定することで、進捗確認や効果検証をして、PDCAサイクルを推進することができる
また、上記のメリットは会社内で人材マネジメントを効果的に実施するためのものを挙げているが、設定した人事KPIやその意図などを人的資本情報として社外に開示をすることで、企業価値の向上にもつなげられるメリットもある。
このように、人事KPIを適切に設定し、効果的に活用することにより、人材戦略や目標の達成に向けた取り組みを効果的に実施し、会社の成果を最大化させる人事部門の最大の役割を果たすことができる。
人材マネジメントに人事KPIを活用する際のポイント
上記のように人材マネジメントに人事KPIを活用するメリットは大きく、設定し活用することが推奨される。
では、どのような人事KPIをどのよう設定するべきであろうか。これは、どんな会社でも使える絶対的な指標はなく、会社の特徴や状況に応じた目標を設定することが求められる。実際に設定することが簡単ではないが、より良い人材マネジメントをするために人事KPIを設定のポイントを以下のようにまとめた。
①事業戦略との連動
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・業績向上に貢献することが最終目的
人事KPIを達成したとしても、業績や企業価値の向上に貢献していないと意味がない。人事のための人事による人事施策、では目的は達成されない。そのようにならないためには、事業戦略を達成するために人事領域ではどのような取り組みをすることで貢献することができるかという視点で人事KPIを設定する必要がある
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・現場の理解を得る
先述の通り、人事KPIを設定する目的の一つとして、ベクトル統一による現場との協同を挙げているが、これを達成するためには、現場からの理解を得られていることが前提となる。そのためには、人事KPIの達成が、業績や現場社員にどう好影響を与えるか、が納得できるレベルで落とし込まれてないといけないが、そのためには事業戦略との連動が不可欠である
②内容の具体化
前述の通り、リソースを集中するために設定するため、内容が曖昧すぎたり、目標の数が多いとやるべきことへ焦点が定まらなくなってしまう。できるだけ設定する指標の数は減らし、具体的な内容にすることで効果的、効率的に目標を達成することができる。ただし、企業規模や人事部門の規模、会社の文化や強み・弱みに応じて設定個数や内容は変わってくる
③定期的な見直し
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・取り組み施策の見直し
取り組んでいる人事施策が、人事KPIの達成に貢献できているか定期的に見直す必要がある。精力的に施策に取り組むも、人事KPIに改善が見られないのであれば、施策の進め方か施策そのものの内容を見直さなくてはならない
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・人事KPIの見直し
人事KPIは頻繁に見直すものではないが、人事KPIの達成が業績向上に貢献しているか効果検証をして、効果が出ていないのであれば、見直しが必要になる。また、設定した人事KPIが役目を果たし、より業績向上に効果的に貢献できる人事KPIが出てきた場合にも見直しが必要になる
人事KPIは他社事例などを真似て設定し、その指標をただ追えば良いというものではない。事業戦略を推進するために、会社に今一番必要な人事の取り組みは何かを考えて、仮説を立てて、人事KPIを設定、施策を考案、取り組んで改善していくための手段としてうまく活用していくことが求められる。
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