人事コラム
人的資本経営

人的資本の実装ポイント

人的資本の可視化で課題に対する適切なアクションを実装する

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人的資本の実装ポイント

動的な人材ポートフォリオの策定で、
持続的な企業成長を後押しする

人材ポートフォリオの基本概念

人材ポートフォリオの基本概念

2020年9月に経済産業省によって発表された「持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会」の報告書、いわゆる人材版伊藤レポートでは、人材戦略に求められる3つの視点、5つの共通要素が提唱され、その共通要素の一つとして「動的な人材ポートフォリオ」が挙げられている。

人材ポートフォリオとは、経営戦略に基づいた区分で人的資本の質や量の構成を可視化したものである。行動や思考パターン、経験や知識、さらには雇用形態や職種などから、自社のビジョン達成に向けた必要人材の分類分けを行い、既存の人的資本を振り分け、その情報に基づいたアクションプランの策定や人材育成プランの策定に活用されるものである。
「動的な」人材ポートフォリオとは、企業を取り巻く環境の変化や自社の事業戦略の変化に応じて、適宜その必要人材を再定義し、既存の人的資本を再配置する適材適所の人材管理のことを指す。これにより、新たな戦略に対する人的資本の不足部分に対して、迅速に人材育成計画や調達戦略を確立させ、成長スピードを加速させていくことにもつながるのである。

人材ポートフォリオ構築のステップ

自社の人材ポートフォリオ構築にあたっては、次の4つのステップで整理するとよい。

1.自社のビジョン・未来のあるべき姿・必要人材要件の明確化

(1)自社の中長期ビジョンを明確に示し、事業戦略(事業ポートフォリオ)や数値計画を明確にする。
(2)事業戦略を経営戦略(コーポレート戦略)に落とし込み、組織体制や求める人材像を階層別に再定義する。

2.求める人材像の要件分析と要件定義

(1)上記で示した求める人材像に対する必要な素養や行動・思考タイプを洗い出し、2軸4象限の区分分けを設定する。
(例:個人的↔組織的、専門的↔汎用的、直観的↔事実的、革新的↔保守的、知識・経験豊富↔乏しい など)
(2)事業戦略を実践するために必要な人員数を、上記の4象限(ポートフォリオ)ごとに算出する。

3.各ポートフォリオへの人材振り分け

(1)各社員の能力・姿勢・業務経歴・特性・行動タイプを整理する。
(2)上記の整理データを基に、人材ポートフォリオに人材を振り分け、現状のタイプ別人員数を算出する。

4.人材の過不足の確認・対策の検討

(1)人材ポートフォリオのタイプ別人員数ギャップ(必要人員数と既存人員数の差)を把握する。
(2)不足人員数に対する育成・調達対策と、過剰人員に対する異動・活用対策を検討する。

人材ポートフォリオの成功要因

人材ポートフォリオの成功要因

人材ポートフォリオの活用を成功させるためには、大きく分けて3つの要因があると考えられる。

1.人的資本データの蓄積

人材ポートフォリオを活用し、組織価値の最大化を目指すためには、人的資本データの蓄積が必要となる。
各社員ごとの経験業務や保有スキルに加え、会社からの期待やキャリアの指向性についてもヒアリング結果をデータとして蓄積するなど、細かな情報を獲得しておくことが望ましい。
また、適性検査やエンゲージメントサーベイなど、客観的に計測されたデータも蓄積し、総合的に個々を把握した結果をもとに人材ポートフォリオへ分類することで、正確な人的資本の現状把握につながり、より効果的なアクションプランの策定につながるのである。

2.必要人材を確保・定着させられる環境の構築

人材ポートフォリオの活用により、必要な人材を明確にして対策を検討するだけではなく、その人材を確保・定着させられなければ事業戦略の実現にはつながらない。つまり、社員が満足して働ける環境の整備も同時に継続して取り組んでいく必要がある。 社員のエンゲージメントを定期的に観察し、その数値を高められるように「働きがい」と「働きやすさ」を向上させる施策も、人事戦略の一つとして取り組んでいくことが不可欠となる。

3.事業戦略と経営戦略の連動性

VUCA時代において、事業戦略が毎年のようにアップデートされる中、それに応じて経営戦略をアップデートする組織機能の構築も必要である。
企業の規模に関わらず、経営企画機能や戦略人事部署を設けるなど、事業戦略と経営戦略が連動する仕組みを構築し、運用することが有効である。

人材ポートフォリオ構築に成功した企業の事例紹介

1.旭化成株式会社

同社は経営戦略の実現に向けて必要となる人財ポートフォリオの実現のために、採用すべき人財の質と量を、"事業軸"と"機能軸"から洗い出し、新卒採用、社内人財育成に取り組んでいる。また、特別な市場価値を持つ人財や、希少価値の高い人財など、採用や育成で確保できない人財領域においては、M&Aを通じた人財獲得にも取り組んでいる。 自社における明確な必要人物像定義と、既存社員の特性が把握されているため、戦略的にどこへ人財投資すべきかが判断され、実践されている好事例である。

2.KDDI株式会社

同社は人財ポートフォリオの活用により、事業戦略の観点から目指す姿と現状の人財ギャップを把握し、不足分に対する採用・育成・配置を行うことで、事業戦略に沿った適材適所を実現している。
特に特徴的な取り組みとしては、人財価値を最大活用するために、営業部門の業務経験を20年以上有する人財を人事部門のトップに置き、経営層、事業部門、人事部門の連動性を高めたことや、HRデータを分析・活用するピープルアナリティクス部門を設置し、データを活用した組織活性化、生産性向上の取り組みで、まさに人的資本経営に取り組んでいる好事例である。

さいごに

未だに、人材を「コスト」と捉える考えを拭いきれない経営者にお会いすることがある。しかし、改めて人材は投資すれば成長する「資本」であるという考えのもと、戦略的な投資を実践していただきたい。
そのためにも、まずは自社が保有している人的資本の整理に目を向け、正しく現状を把握することから取り組んでいただきたい。

この課題を解決したコンサルタント

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