テクニカルスキルの妥当性担保と評価フローで納得度を高める
エンジニア評価制度の現状分析
近年、IT・システム系の企業から人事制度再構築におけるご依頼が増加傾向にある。背景は人材獲得競争の熾烈化である。給与など、処遇を上げることもこの競争下において勝ち抜く要因となるだろう。また、社内において育成し、定着力を上げることもソリューションの1つである。この納得度を上げ、育成に寄与し、定着力を結果として上げることは評価制度で実現可能だ。
しかし、コンサルティングの現場では下記のような問題をよく耳にする。
①ライン職やスペシャリスト職、複数ある職種などが整理されておらず、結果として同じような項目で評価している
(職種が多岐に渡るため、テクニカルスキルを設計しきれない、全職種に当てはまるような基本的なスキルを設定せざるを得ない)
②常駐型の社員の評価がしにくい
③プロジェクトにアサインされるため、ライン職だけでは評価しきれない内容がある
上記の課題を抱えたままの評価制度であると、評価軸が曖昧になり、適正に評価されていないという不満になり、転職リスクを顕在化させることに繋がるのである。この曖昧さが発生する要因は、"整理しきれていない"ためである。
エンジニアの評価制度構築において、まずすべきは「人材ポートフォリオ」の整理
では、いかに整理していくか、それを考えるヒントは「人材ポートフォリオ」である。
端的に言えば、どんな人材がわが社に必要であるかの着眼だ。役割という軸で考えると、IT・システム業界においては下記ではないかと考える。
①経営職(役員などのエグゼクティブレベル)
②管理職(事業部長などの組織マネジメント)
③プロジェクトマネジャー(案件ごとのマネジメント)
④エンジニア(エンジニアの中にも複数職種あり)
⑤セールス
⑥コーポレート
やや重複している箇所もあるが、概ね上記の6つに分けることができるだろう。
ここで、評価軸で分けてみよう。
①経営職、②管理職は大きくマネジメント職と分類できる。マネジメント職の評価は、戦略立案、業績達成、組織運営などの役割軸だ。一方で④⑤⑥はどんな仕事ができるか、どのレベルであるか、テクニカル評価軸である。また、プロジェクトやチームなどへの貢献度でも評価することができる。③のプロジェクトマネジャーはマネジメント職であっても担うことがあるため、QCD管理の役割軸で、全職種に対してのアドオン型になるだろう。(④の中においての最上位レベルがプロジェクトマネージャーができるという考え方もある)
上記はあくまで例であるが、人材ポートフォリオからそれぞれの役割を整理することで、「何で評価するか」が明確になるのである。評価軸を階層・職種により分けることが重要である。
エンジニアの評価制度設計ステップ
では、本題となるエンジニアの評価制度をいかに展開すべきか?
ステップとしては下記である。
1. 評価すべき項目を設計する
上記に記載したように、項目としてはテクニカルスキル、チーム貢献度(姿勢/情意など)、理念実践度であるだろう。
チーム貢献度は積極性やコミュニケーション力などが一般的だ。理念実践度は、わが社が掲げる戦略や方針を進めるための貢献的活動ができたかを確認する。これらの項目については経営戦略を軸として設計することが望ましい。
2. テクニカルスキルの設計
独立行政法人情報処理推進機構が公開するITスキル標準(以下ITTSS)を軸に、自社に合うようアレンジするITSSは複数職種においての基準を明示しており、検討する上での一助となる。汎用性も高く、客観的な評価軸として活用可能である。
検討する上での着眼は、自社において当てはまるもの、そうでないものがあるため、整理することだ。また、職種間のレベル差をいかに調整するかである。
これは、戦略推進における社内価値で差をつけることが妥当である。
また、社内において職種別テクニカルスキルの保証責任者を設置することも方策の1つである。いわゆるCTO(最高技術責任者)的な立場であるが、技術の流行り廃り等を判断し、テクニカルスキル項目を柔軟に調整できる仕組みも必要である。
3. 評価フロー上で納得度をあげる工夫をする
テクニカルスキルはプロジェクト内で発揮される。そのため、ライン職でなく、テクニカル項目はプロジェクトマネージャーの意見も交えるなどの評価システム設計が必要である。また、常駐型の場合は常駐先のマネージャーに一部評価を委任することも納得度、妥当性を担保する上で重要である。
1、2が具体的に設計できれば、ブレは最小限に抑えることが可能だろう。
マルチスキルを持つ人材の処遇
エンジニアの中でもマルチスキルを持つ人材もいるだろう。またエンジニアをしながらセールスを行う人材もある。その場合の評価軸はいかにするかも重要である。考え方としては、下記である。
1. マルチスキルを発揮する人材モデルを想定し、そこにあった評価を設計する
これは、人材ポートフォリオを検討する際に、マルチスキル人材をあらかじめ設定し、評価制度を構築することである。
(セールス×エンジニア=セールスエンジニア等)
2. あくまで評価制度自体はメイン業務にフォーカスし、それ以外は手当として処遇面で変化を加える
兼務手当として、シングルスキルとマルチスキルを持つ方に処遇差を設けることも手段の1つである。
処遇面に触れたため、1つ検討いただきたい。我々は持っているスキルに対して処遇するのか、発揮した役割に対して処遇するのかである。この思想の違いは、マルチタスク人材をいかに処遇するかに繋がるであろう。
さいごに
重要なのは、どんな人材が社内にいて、何で評価するかの評価軸を決めることである。ここが曖昧であると、評価項目が曖昧で差別化できない内容になり、結果に納得度が担保できなくなる。ぜひ、本コラムの内容を踏まえて社内において議論いただきたい。
この課題を解決したコンサルタント
タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部
ゼネラルマネジャー大木 悠佑
- 主な実績
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- 経営/マネジメント体制構築支援 (サービス業、卸売業、製造業、物流業)
- 組織/人材戦略構築 (不動産業、上場サービス業、toG)
- サクセッションプラン構築 (情報サービス業)
- 人事制度再構築支援 (人材派遣業、建設業、運送/物流業、上場製造業、上場情報サービス等)
- 中期ビジョン/中期経営計画の策定・推進支援 (製造業、卸売業、技術サービス業)
- ブランディング構築支援 (卸売業、製造業、サービス業)
- 新規事業開発支援(不動産業)
- 店舗マネジメント支援(サービス業)
- SDGs戦略構築支援(サービス業)
- 教育体系構築支援(上場建設業)
- ジュニアボード(上場製造業、物流業)
- 階層別教育 (新入社員、2年次、3年次、新任管理者、幹部、役員)