人事コラム
人事制度

賃金トレンドが企業に与える影響と賃金制度における対策

賃金トレンドを踏まえ、企業各社に求められる賃金制度の対応策を事例を交えながら紹介する。

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賃金トレンドが企業に与える影響と賃金制度における対策

賃金トレンドを押さえた上で、自社の戦略や実態に合わせて
柔軟に設計していきましょう。

昨今の賃金トレンドとは

昨今の賃金トレンドとは

エネルギー価格や物価高が高騰する中で、企業は賃金の引き上げを通じて社員の生活を支える責任を求められている。特に、若年層の生活基盤を支える初任給の引き上げは、企業の社会的責任を象徴する動きとして注目されている。帝国データバンクの調査によると、企業の7割以上が2025年4月の初任給の引き上げを実施しているとしており、人事院が公表している大卒初任給のデータでは、最新データの2024年で22万円となっており、前年の21.1万円から大幅に増加している。また、大手企業は軒並み初任給を引き上げ、30万円近く提示している企業や前年度から10万円程度アップした企業もおり、人手不足の昨今では初任給の大幅な引き上げは中堅・中小企業においても避けては通れないものとなっている。

賃金トレンドが企業に与える影響

賃金トレンドが企業に与える影響

それでは、この初任給の引き上げは企業にどのような影響を与えるのだろうか。
ここでは大きく2点記載する。

 

1.初任給引き上げに伴う人件費の増加

初任給の引き上げは単独で完結するものではなく、既存社員の給与体系にも波及するため、企業の人件費全体を押し上げる直接的な要因となる。
例えば、初任給を数万円単位で大きく引き上げた場合、社員間での「給与の不公平感」が生まれるため、若手社員や中堅社員の給与も連動して引き上げる必要が生じる。そのため、企業は初任給の引き上げに伴い、給与体系全体を見直す必要がある。ただ、全社員の賃上げを行うと人件費は大幅に増加してしまい、経営を圧迫する要因となりえる。そのため、賃金引き上げ分を補うために、業務効率化や生産性向上の対応が必要不可欠となる。

 

2.賃金の逆転現象に伴う、既存社員のモチベーション低下

初任給の引き上げがもたらすもう一つの影響が「賃金の逆転現象」である。逆転現象とは、初任給が既存社員の給与に近づく、または上回ることにより、給与バランスが崩れる現象を指す。
例えば、初任給を大幅に引き上げた場合、入社数年目の若手社員の給与が初任給とほぼ同水準になるか、あるいは初任給を下回る状況が発生することがある。このような状況は、既存社員の生産性を低下させかねない。これまでスキル・経験を積み上げて昇給してきたにもかかわらず、新入社員のほうが給与が同水準・上回るとなってしまうと、これまでの努力が報われない会社と考えてモチベーションが低下してしまうのも容易に想像できる。

 

特に、年功序列の思想が根強い企業では、この逆転現象が既存社員の離職率の増加や、モチベーション低下による生産性の低下につながるリスクが高まる。
このような状況を回避するためには、初任給の引き上げに伴い、既存社員の給与体系を段階的に見直すことが必要である。

賃金トレンドに対応している企業の事例

賃金トレンドに対応している企業の事例

それでは、賃金トレンドに対応するにはどのような賃金制度の対策が必要だろうか。
ここでは、初任給引き上げに対して、賃金制度の対応具体策の事例を2社紹介する。

 

1.若手社員の賃金引上げにより、逆転現象を避けつつ、最低限の人件費増加にとどめた事例

明治安田生命は、22年連続で初任給を引き上げており、固定残業代を含めると33万2,000円となり業界最高水準となった。そこに加えて、全社員を対象とした賃上げと入社5年目までの社員の給与を平均8%以上の引き上げを行っている。逆転現象が生じやすく、不満を抱く可能性の高い若手社員に対して手厚く対応することで、人件費の増加を最低限に抑えながら、既存社員のモチベーション低下を防いでいる。

 

2.成果主義の賃金制度により、社員のモチベーション・生産性向上を行う事例

岡三証券は、2025年4月から新卒初任給を現行の25万円から30万円と大幅に引き上げ、業界最高水準となった。それに対応して、ジョブ型の人事制度を採用し、年齢・勤続年数に関係なく、能力・成果に応じて上限を設けず報酬を支払う賃金制度へシフトしている。年齢給では一律で昇給する必要があり、単に人件費の増加に繋がるが、成果を上げた社員に報いる賃金制度とすることで、既存社員のモチベーション向上と、社員の生産性向上による企業の成長を同時に叶えている。

さいごに

初任給の引き上げは採用難である今日において、新卒採用を行う企業としては避けては通れないものとなっている。
このような状況下で、ただ初任給のみを引き上げるのではなく、既存社員のニーズや自社の戦略や実情を適切に把握したうえで、賃金制度全体の再構築を行うことにより、どの階層の社員も満足度が高く、生産性の高い企業となり得ることを押さえていただきたい。

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