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失敗事例にみるM&Aの問題点
~トラブル回避のために事前に確認したいポイント~

2022.08.26

近年M&Aの件数は年々増加しています。M&Aが活発化している背景としては、経営者が高齢化し、後継者不在の企業が増加していることや、人材不足の問題、急激に変化しているビジネス環境などさまざまです。M&A件数が増えた一方で、M&Aで「損をした・失敗した」という企業も少なくありません。そこで今回は、M&Aにおいてビジネスの拡大や業績回復など良い結果を得るために、必要な対策とポイントをご紹介します。



事前調査と準備の重要性


M&Aは売り手企業・買い手企業の両方にとってリスクの大きい取り組みです。
買い手企業側は、売り手企業の内容を精査し、内包しているリスクを分析するため、一般的にM&Aを実施する前にデューデリジェンス(買収監査)を行います。
デューデリジェンス(以下DDという)は、企業価値評価、財務DD、法務DD、税務DD、労務DDなど多岐に渡り、それぞれ目的が異なります(ここでは目的の詳細は割愛します。詳しくは、サービス「デューデリジェンス」をご参考ください)。
よくある失敗例として、売主様と買主様で意気投合してしまい、DDの内容を重視せずにM&Aを実行してしまうことがあります。言うまでもなく、買い手企業側のアドバイザーもしくは仲介業者はM&A成立のために活動しています。買い手側が、DDにおける課題やリスクに目をつぶり、M&Aを進めてしまうということも否めません。売り手企業側も専門家など第三者からの冷静で客観的な意見を参考に、対処していくことがトラブル回避のためには必要となります。


事前調査と準備の重要性|失敗事例にみるM&Aの問題点~トラブル回避のために事前に確認したいポイント~

ケース①:デューデリジェンスでは把握しきれないケース


前述の通り、入念な打ち合わせを行い、DDを実施し、M&Aを実行したが成約に至らなかった事例をご紹介します。
簿外債務の確認には限界があります。売主が売り手企業との間で保証債務の契約、いわゆる連帯保証を行っているケースです。連帯保証は個人で行うものと思われがちですが、法人企業でも連帯保証を行うことは可能です。しかも連帯保証の契約は帳簿で確認することができません。また、連帯保証だけでなく、労務面においても簿外債務は存在します。例えば、従業員への残業代の未払などが代表的です。給与体系と実際の労働環境に乖離がある場合、未払の可能性があります。企業によっては残業代の未払が常態化しているケースも珍しくありません。したがってM&Aでは売主の表明保証として安全性を担保します。また損賠賠償の金額を前もって株式譲渡契約などの契約書に盛り込むことが必要となります。
万が一、売り手企業の簿外債務が発覚し、売主側の過失が認められる場合は訴訟の対象になります。その際の賠償金額の上限は前もって、M&Aの契約書に示すことが一般的ですが、M&Aの契約書の内容は専門的な内容が多いため、必ず弁護士などの専門家に確認して頂くことが大切になります。
DDは基本的に買い手側企業が行うものですが、売り手企業側の準備不足や不備が発覚すれば、最悪の場合、破談に至るケースもあります。売り手企業側は、分析の際に依頼された資料提供や現地調査などにしっかりと対応することがトラブル回避のためには必要となります。M&Aは限られた時間で限られた情報を基に、いかに分析し、リスクやトラブル要因への対処法を買い手企業・売り手企業の双方で合意できるかがポイントになります。


ケース①:デューデリジェンスでは把握しきれないケース|失敗事例にみるM&Aの問題点~トラブル回避のために事前に確認したいポイント~

ケース②:最終契約前の確認


M&Aの最終局面では株式譲渡契約書(事業譲渡契約書)が重要となります。これまで交渉を進めてきた内容をすべて契約書に落とし込みます。金額面などはもちろんですが、その他に大切な内容として引継ぎ期間中の顧問契約などがあげられます。株式譲渡契約で引継ぎ期間中の顧問契約の内容に触れることも珍しくはありません。しかし、引継ぎ期間中の内容が曖昧なケースも散見されます。
失敗事例として、引継ぎ期間中の業務量を明記せず、買主と売主との認識の違いが起こってしまい、トラブルになったケースもあります。トラブル回避の対策としては、十分に引継ぎ期間中の業務内容の確認を行うことです。業務内容を明確にし、その上で引継ぎ期間中の売主への報酬を決定することが大切です。引継ぎ期間中の業務内容が固まったら、業務内容に応じて、週何日出社し、最低何時間勤務するかを株式譲渡契約書または顧問契約書等に明記し、契約を行うようにしましょう。業務内容や勤務時間によっては売主に対して、社会保険料が発生する場合がありますので、注意が必要です。


ケース②:最終契約前の確認|失敗事例にみるM&Aの問題点~トラブル回避のために事前に確認したいポイント~

ケース③:クロージング手続の確認


譲渡契約書の締結を行うことがM&Aの完了ではありません。契約書に基づき、資金決済などを完了させて初めてM&Aの手続きが完了します。契約後の手続きを「クロージング」と言います。クロージングの条件は契約書に盛り込まれることが一般的です。例えば、クロージング手続きを売主側で進める必要がある場合、買主はクロージング手続きが完了するまでは譲渡代金の支払いを行うことはありません(行う必要はありません)。したがって、譲渡契約書を締結する段階で、クロージングの手続きを十分に双方で確認する必要があります。
例えば、株式譲渡契約後に従業員に対して同意を得るなどの条件がある場合、売主は従業員に対してM&Aの同意を取る必要があります。同意の取り方も、口頭同意で問題ないのか、または書面での同意が必要なのか株式譲渡契約の内容に従います。このように、株式譲渡契約書を取り交わしても、クロージングの手続きを行い、その条件を満たして資金決済が完了するまでは、売主としてM&Aは成功していない状態であることを認識しましょう。最後の最後まで気が抜けないのがM&Aです。


ケース③:クロージング手続の確認|失敗事例にみるM&Aの問題点~トラブル回避のために事前に確認したいポイント~

まとめ


各社M&Aを検討する際は、譲受企業、譲渡企業ともに自社へのメリットを求めていることは言うまでもありません。
しかし入念に事前調査を実施し、M&Aを進めたにも関わらず、成立した後に「失敗した」と感じている企業があることも事実です。今回ご紹介した事例を参考に、M&Aにおける失敗のリスクを最小限に抑えられるよう対策を講じていただければと思います。


このコラムの執筆者
三谷 博孝

三谷 博孝

M&Aコンサルティング事業部
チーフマネジャー

銀行にて法人営業に従事した後、事業承継の課題に取り組むためM&Aを志し、当社に入社。「クライアントに寄り添い、企業繁栄に奉仕する」をモットーに、中堅中小企業へ向けた譲渡案件の受託交渉から、企業価値評価、企業概要書の作成、買手企業とのマッチング及び条件交渉等のM&Aアドバイザー業務を担当。年間5件以上の成約を手掛ける。

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  • 菓子製造業会社の譲渡側M&Aアドバイザリー
  • 地場建設業の譲渡側・譲受側のM&Aアドバイザリー
  • 建設資材製造業の譲渡側のM&Aアドバイザリー
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