継続的な考課者研修の実施が、
本来の目的に沿った制度運用の実現に繋がる

考課者研修の重要性
考課者研修とは、人事考課を行う「考課者」を対象に人事考課に必要な考え方・考課スキルなど、考課者が正しい認識を持ち、人事考課を適切に運用する事を目的に実施される研修のことである。
一般的には部下(≒被考課者)を持つ社員を対象に実施する事が多い。
最近タナベコンサルティングでは、考課者研修の実施依頼が急増している。
その理由として、人事評価制度が年功的に能力が積み上がっている事を前提とした職能資格制度から役割発揮に重きを置いた役割等級制度へと変化していることが要因の一つであると考える。職能資格制度では、勤続年数や年齢といった誰が見ても解釈が同じとなる客観的な指標に基づき考課を行っていたが、役割等級制度では、常日頃から部下をよく観察しなければ評価をすることができない定性的な評価項目も重視されるため、考課がこれまで以上に複雑化しており、適正な運用に向けて考課者に求めるレベルが上がっている。本コラムでは自社の制度を最適に運用していくための具体的な進め方について記載していく。
考課者研修の目的
考課者研修の主な目的は、人事制度の理解を深め、評価者が公正で客観的な評価を行うためのスキルと知識を習得することにある。
企業において、評価制度は従業員のモチベーション向上やキャリア開発に直結する重要なプロセスだが、評価者のスキル不足や偏った見方が原因で不満が生じることも少なくない。
そこで、考課者研修を受講することで、評価者は評価基準の理解を深め、実践的な評価方法を学ぶことが可能になる。
さらに、考課者研修ではフィードバックの技術も磨かれる。
具体的かつ建設的なフィードバックを提供することで、従業員の成長を支援し、組織全体の生産性を向上させることが可能になる。
考課者研修の目的は、人事制度理解を深め、適切な人事考課を行う考え方・判断スキルを養い、社員一人ひとりの将来も見越して評価ができる人材を育成することだと言える。

被考課者の納得感を高める考課者の役割
考課者研修を実施していない企業においては、「考課者」という言葉自体になじみが薄い場合もあるだろう。
そのため研修内容を解説する前に、まずは考課者の役割を認識いただきたい。(表1)
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出所:タナベコンサルティングにて作成
考課者の役割は、組織の文化や方針、評価の目的に応じて異なることがあるが、いずれの場合も被評価者の成長と組織の目標達成を支援する重要な役割を果たす。
また、考課者研修は一度だけの実施ではなく繰り返し実施いただくことを推奨している。
人事考課における考課者の役割は半期・通年の特定のタイミングでだけ実施するものと思われがちだが、常日頃から考課者が以下の3つの役割を意識していただく事が重要である。
①事実に基づき評価するための"観察"
②不足事項を補うアドバイスや出来ている事を認める"コミュニケーション(対話)"
③評価時に慌てて思い出さないよう記憶に頼らない"記録"
これらを意識して評価期間を過ごし、評価期間修了時に考課することが、被考課者の考課結果に対する納得性を高める事に繋がる。考課者研修も考課直前にピンポイントで実施するのではなく、考課者が正しい認識を持つまで継続的に実施する事を推奨する。

考課者研修で伝える内容
前述した考課者に求められる役割は、日常業務では身に着ける機会を十分に意識付けできない事が多い。そのため、考課者研修が効果的である。研修では「考課シートの使い方」などといった実務面だけではなく、「人事制度の内容理解」や「人事制度の考え方」などの基礎部分から教育することをおすすめしている。そうすることで表面的な理解ではなく、評価制度の本質理解へと繋がる。
上記内容を踏まえ、具体的な研修実施例を紹介する。
参考にしていただきたい。(表2)
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出所:タナベコンサルティングにて作成
また、考課者研修を行うにあたり、考課者が陥りやすいと言われている評価エラーをおさえていただきたい。
以下に代表的な評価エラーの例を記載する。(表3)
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出所:タナベコンサルティングにて作成
上記のように適切な考課が行われなかった場合、たとえ素晴らしい制度を構築したとしても被考課者が自身の考課結果に不満を持ち、本来目指すべき組織の実現は困難になる。
考課者に対して研修を実施し、適切な考課を行うことができる考課者を育てていく事が必要となる。

効果的な考課者研修の実施方法
考課者研修は、組織の評価制度の信頼性と公正性を向上させる重要な要素になるため、適切に行う必要がある。適切に設計された研修プログラムは、考課者の評価スキルを高め、評価プロセスの一貫性を確保する。
考課者研修を成功させるためには、以下4点を意識すると良いだろう。
・明確な目的の設定
これによって評価基準やプロセスを具体的に理解させ、考課者が評価に対する自信を持てるようにする。
・実践的な演習を取り入れる
ケーススタディやロールプレイを通じて、考課者が実際の評価シナリオを体験し、フィードバックを受ける機会を提供する。
これにより、理論と実践のギャップを埋め、評価スキルの向上を図る。
・継続的なフォローアップを行う
定期的なレビューや追加のトレーニングセッションを通じて、最新の評価手法やツールを導入し、考課者のスキルを常にアップデートする。
・研修の成果を測定し、改善点を特定する
アンケートや評価データを活用して、研修の効果を分析し、次回の研修に活かす。
これにより、組織全体の評価プロセスが一層強化され、持続的な成長が期待できる。
これらを意識することで効果的な考課者研修が実施でき社員の評価に対する満足度を一定に保つことが出来る。
さいごに
前述している通り昨今、働き方の変化や仕事に対する価値観の変化に伴い、人事制度を再構築している企業が増加している。
人事制度の価値は設計2割・運用8割と言われるほど、運用が非常に重要であり、制度に占める考課者の役割の重要性は非常に高い。制度設計と適切な運用を見据えた考課者研修の実施により、適切な人事制度運用を実現し、企業成長へと繋げていただきたい。
本コラムが、効果的な考課者研修実施の一助となれば幸いである。
この課題を解決したコンサルタント

タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部
チーフコンサルタント山本 幸生
- 主な実績
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- 人事制度再構築コンサルティング(小売業、冠婚葬祭業、卸売業、製造業 など)
- 採用コンサルティング(インフラ業 など)
- 幹部人材育成支援コンサルティング(製造業 など)
- 管理職人材育成研修、新入社員教育研修(製造業、小売業、卸売業 など)
