役員研修・育成の重要性とその背景
タナベコンサルティングでは、創業以来、経営者(社長、役員)に向けた研修を展開し続けている。「魚は頭から腐る」というように、企業は経営者、役員の価値判断、意思決定でそのありようが決まる。
役員研修・育成は、コーポレートガバナンス・コードの原則において、「取締役・監査役のトレーニング」として以下のように規定される。
「新任者をはじめとする取締役・監査役は、上場会社の重要な統治機関の一翼を担う者として期待される役割・責務を適切に果たすため、その役割・責務に係る理解を深めるとともに、必要な知識の習得や適切な更新等の研鑽に努めるべきである。」
このため、上場会社は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきであり、取締役会は、こうした対応が適切にとられているか否かを確認すべきである。
しかしながら、経済産業省の調査「コーポレートガバナンス・システム研究会」によれば、会社側による研修実施は23.7%、会社側の第三者委託による研修実施は16.7%である(合計40.4%)。
役員研修がなかなか実施されない理由の1つとして、「必要がないという声(聖域化)によって進まない」ということも実態としてある。役員は「スゴロクの上り」の如く聖域化され、リスキリングのようなことがむなしく聞こえる状況が存在する。
また、経営法友会の「役員研修に関するアンケート結果」において、新任役員(執行役員含む)への研修実施率は、53.9%であり、その後の継続実施率は46.5%に留まり、決して高いとは言えない。実施時間については、3時間未満が50.0%、その中でも最も多いのが1時間以上2時間未満で22.9%となっている。役員が習得すべき内容の多さを考えるとあまりにも少ない時間であるということが実態としていえる。
成果を上げた企業の役員研修事例
そんな中、タナベコンサルティングが関わる中堅・中小企業において成果を上げている役員研修事例を紹介する。
(1)社内プロジェクト&他流試合(弊社主催「プロ役員セミナー」)の活用による役員の育成
A社(製造業、社員数1,000名)は、社内の経営幹部育成プロジェクトとして、ジュニアボード(次世代人材育成:青年役員会)を20年以上継続して実施している。
ジュニアボードでは、現役トップ等の意志を受け社命として、新規プロジェクトや経営課題の改善に年次単位で取り組み、現ボード(役員会)へ提言するというものである。
そのプロジェクトにタナベコンサルティングもファシリテーターとして関わり、ワンチームでタフな課題に取り組む。事業戦略、経営戦略をインプットとアウトプットを通じて体得し、次世代経営者へと成長していく。
その後、社内のアセスメントを受け、役員へと昇格する者は、プロ役員セミナーの参加により、真の役員になるべく他流試合での体験を積む。
A社では、ジュニアボードやプロ役員セミナーへの参画が役員への登竜門として独自の育成システムとして機能している。
(2)参考プログラム
『プロ役員セミナー』について参考までに、プロ役員セミナーのプログラムを記載する。
4つのインプットと参加者同士の討議、異業種交流
①プロ役員の条件と経営の本質
・プロ役員の条件と役割
・プロ役員に必要な能力
・プロ役員の責任と義務
②プロ役員に求められるビジネスモデル思考
・プロ役員にとっての事業とは
・ミッションから始めるビジネスモデル
・環境変化を読解
・ビジネスモデル思考
・競争力の強化
・売上高経常利益率10%実現の五つの条件
③プロ役員としての人・組織づくり
・プロ役員に求められる経営センス
・経営のバックボーンシステム
・組織デザインと人材マネジメント
④プロ役員としてのアカウンティングスキル
・プロ役員が押さえるべき経営指標
・収益構造から生産性を診る
役員研修の取り組みの方向性
タナベコンサルティングでは、これまでの臨床経験より、役員育成に対し、3つのステージを提唱している。
役員モデル1.0~3.0である。
(1)役員モデル1.0
新任、承継間もない役員向けの研修であり、スタートアップ役員の位置づけとして設定。
(2)役員モデル2.0
役員を育てている役員、つまり人を作る役員のステージとして、プロフェッショナル役員の位置づけとして設定。
(3)役員モデル3.0
未来(事業)を創造できる、新たな収益の柱を築ける役員として、エクセレント役員の位置づけとして設定。
当然、企業規模や業種・業態特性などにより条件や制約は変動するが、それぞれのステージに求められるスキルや影響力がある。タナベコンサルティングではそれらのステージごとにインプットすべきカリキュラムをセレクト形式で準備し、各社に合わせたカリキュラム構成とする。
さいごに
「トップマネジメント、役員の能力(器)が企業経営を左右する」ことは、言うまでもないことである。
しかし、役員研修・育成に取り組む企業は先に述べた通り、まだまだ多数とは言えない。日々の事業経営を先導する役員は多忙を極め、学びの時間捻出が困難である。
とは言え、役員育成の重要性を踏まえると、決して先延ばしにできることではない。
トップマネジメント層、すなわち役員が成長することで、事業が成長し、次世代メンバーが次のステージを担うリーダーへと成長していく環境が醸成される。人づくりの好循環を生み出すためにも役員の育成は不可欠である。ぜひ、聖域なき育成の実践を期待する。
この課題を解決したコンサルタント
タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部
エグゼクティブパートナー松本 宗家
- 主な実績
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- 上場建設業の人事制度構築支援
- 上場製造業の次世代幹部育成・ジュニアボード運営支援
- 中堅企業の中期ビジョン策定
- 卸売業、サービス業、建設業、製造業の社内アカデミー構築& 人材育成支援