はじめに
企業環境は世界情勢の影響を受け、予測がますます困難になっています。国内の企業を見ると、日本から世界に事業領域を広げる企業や、海外から日本に進出する企業が増加しています。ICT技術の急速な発展により、それをうまく活用する企業とそうでない企業の間に大きな差が生じています。また、製品・サービスだけでの差別化が難しくなっている現代では、働き方改革を通じて労働時間を抑えつつ、効率化が求められる時代となっています。
企業を取り巻く環境は予測が困難で、競争が激化する中、企業リソースは限られています。この状況はBtoC(企業が一般消費者を対象に行うビジネス形態)でもBtoB(企業間で取引を行うビジネス形態)でも共通しています。こうした中、マーケティングは限られたリソースを最適に活用し、最大限の成果を生み出すプロセスとして、企業にとってますます重要な役割を果たしています。
本コラムでは、BtoBマーケティングに焦点を当て、成果を上げるための具体的な手法を事例と共に紹介します。まず、BtoBマーケティングの特徴をBtoCと比較しながら説明し、その後、主な手法を紹介します。
1.BtoBマーケティングとは
マーケティング戦略を立てる前に、BtoCと比較した際のBtoBビジネスの特徴を以下に示します。
(1)顧客数は少なく、市場規模は大きい
BtoBビジネスは企業間の取引です。そのため、顧客数はBtoCに比べて少ないものの、取引金額は大きいのが特徴です。1取引あたりの取引金額が高いため、市場規模はBtoCよりも大きくなります。
(2)顧客との関係性が緊密
取引額の大きさに加え、顧客のニーズに応える中で顧客に合わせた仕様変更を求められる傾向が強いです。そのため、常に顧客の期待を超え、信頼関係を築き続けることが重要です。一度関係性を構築できれば、その関係性は密接になりますが、価格競争や信頼を損なう行為は取引継続を脅かす原因となるため、細心の注意が必要です。
(3)専門的な購買知識を要する
提案書、見積書、契約書など、製品を販売するまでに顧客の購買上の取り決めや制約を満たしながら、自社の製品・サービスを提案するプロセスが求められます。製品・サービスの価値だけでなく、契約までの顧客体験価値には必要書類の作成や顧客との円滑なコミュニケーションも含まれます。営業担当者には製品知識だけでなく、契約における顧客理解も求められます。
(4)購入意思決定に影響を与える関与者の存在
企業の購入意思決定には多くの人が関わります。製品・サービスによりますが、経営層、購買担当者、製品・サービスを活用する現場のメンバーなど、様々な役職・部門の人々が意思決定に関与することがあります。これは、意思決定が最終的にされるまでに判断基準の異なる多くの人が影響を与え合っていることを意味します。最終的に意思決定を行うのは人であるため、単に製品・サービスを購入するのではなく、その製品・サービスによって企業の問題を解決し、個人の成果や報酬などの個人的ニーズを満たすことが求められます。
2.BtoBマーケティングの主な手法
BtoBマーケティングの主な手法を4つ紹介します。
(1)製品からソリューションへの移行
顧客の課題は複雑化しており、単純に製品を購入するだけでは解決できないことが増えています。このため、企業は顧客に対して単なる製品・サービスの提供ではなく、顧客の具体的な問題を解決するための総合的なソリューションとして提供することが求められます。これにより、顧客の特定の課題に合わせたカスタマイズが可能となり、顧客満足度の向上が期待できます。
(2)サービスの向上
高品質のサービスを自社の製品に追加することで、顧客に製品以上の価値を提供し、顧客との関係性を強化する必要があります。特に、アフターサービスや技術サポートは顧客満足度を左右する重要な要素です。
(3)ブランドの構築
ブランドは企業の信頼性や製品品質を保証するものであり、BtoBマーケティングにおいて非常に重要です。強力なブランドは顧客に対する安心感を提供し、競争優位性を確保する手段となります。
(4)顧客とのリレーションシップのマネジメント
以前はBtoCマーケティングで一般的でしたが、BtoBマーケティングでも顧客とのリレーションシップマネジメントの必要性が増しています。顧客に対して企業は自社の製品・サービスのベネフィットを提供するなどのコミュニケーション活動を行い、BtoC同様にオンライン上に移行しており、顧客とつながるために検索エンジン最適化(SEO)や検索エンジンマーケティング(SEM)が活用されています。
3.BtoBマーケティングで成果を上げるための具体的な手法
具体的な手法を2点紹介します。
(1)市場分析およびターゲットのウェブ上での動向推察
①市場分析や顧客データの活用
市場分析を通じて対象となる商材のターゲットを選定します。市場を分類し、ターゲットを選定し、以降のマーケティング施策を検討する際の基準とします。ターゲットがどのような顧客であるか、どのような課題を持っているかを推察します。
②顧客のウェブ上での行動調査
顧客が新たなニーズ・課題を持った際、その解決方法や製品・サービスをウェブで調査することが増えています。ターゲットがウェブ上でどのような言葉を使い、情報を収集しているかを仮説を立てて調査します。自社の顧客データを蓄積し、過去の問い合わせ内容から課題を特定し、その際に使用したキーワードを調べ、ウェブ上でどの程度その言葉が使われているかを調査します。潜在顧客を取り込むためには、マーケティングサイトの構成を事前に考え準備する必要があります。
③ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)の活用
顧客データが十分に分析できる場合は、特定企業をターゲットにしたABMを検討します。特定の企業に基づいた施策を行うマーケティング手法で、リソースを集中させることができます。ただし、すべてのBtoBビジネスに適用できるわけではないため注意が必要です。
(2)顧客体験価値の設計と価値を伝えるマーケティングサイトの構成
顧客体験価値はリアルの体験だけでなくウェブ上の体験から始まります。想定する顧客がどのように活動して自社のサイトに到達するのか、到達したサイトでどのような情報を得たいのかを設計する必要があります。顧客の課題とその解決方法がわかりやすく伝わるようにし、顧客が自社の製品・サービスでどのように課題を解決できるかをイメージできるようにします。
BtoBマーケティングの成功事例
~ヤマハファインテック株式会社 ヒートシールテスター「ULTRASONICA」~
ヤマハファインテック社の「ULTRASONICA」は、食品包装用ヒートシール不良を検出する超音波検査機として、業界後発ながらFOOMA JAPAN 2022で通常200件程度のリードが1,000件を超える成果を出しました。成功の要因は徹底した顧客・業界の理解と顧客接点の設計にあります。
(1)ターゲットに合わせた例の掲載
ヤマハファインテックは、従来の充填機メーカーではなく、食品メーカーをターゲットに設定しました。これにより、充填機のプロではない顧客を対象とし、彼らが自社製品の活躍を具体的にイメージできるコンテンツを提供しました。具体的には、課題に焦点を当てたコンテンツ(食品メーカーが直面するヒートシール不良の課題を明確にし、それを解決するために「ULTRASONICA」がどのように役立つかを説明)を作成しました。また、不良の状態がわかるイラスト画像や、対象となる食品、充填機のどこに取り付けるのか、その取り付けイメージ例、工程例などを掲載しました。これにより、技術的な専門知識がない担当者でも簡単に理解できるようにしました。
(2)工場における改善効果を簡易に試算させる
ヤマハファインテックは、ウェブサイト上で訪問者が自分の工場における「ULTRASONICA」の導入効果を簡単に試算できるツールを提供しました。検査工程の人件費、クレーム対応費、不良品の廃棄ロスを入力することで、導入効果を試算できるツールをウェブサイトに設置しました。これにより、具体的なコスト削減効果を簡単にシミュレーションできるようになりました。また、数値データだけでなく、導入後にどのように業務が改善されるかを具体的なシナリオとして説明し、顧客に導入後の未来をイメージさせました。
(3)徹底した顧客・業界理解に基づくマーケティング戦略
独自の業界地図を作成し、食品包装業界全体の構造を把握しました。これにより、顧客がどのような課題に直面しているかを深く理解し、ターゲット設定を精緻化しました。設備購買部門へのインタビューを通じて、実際の購買プロセスやニーズを把握し、この情報を基にカスタマージャーニーを詳細に作成し、各フェーズで最適なマーケティング施策を実施しました。特定の顧客に対してパーソナライズされた提案を行い、顧客一人一人に合わせた価値提供を行いました。これにより、顧客との信頼関係を強化しました。
おわりに
企業を取り巻く環境がますます複雑化する中で、BtoBマーケティングの重要性は増しています。市場分析やターゲットの動向調査、顧客体験価値の設計などの手法を駆使し、限られたリソースを最大限に活用して成果を上げることが求められます。

