RPA(Robotic Process Automation)は、DXの一部として推進され、ここ数年で企業の業務効率化及び自動化を支える重要な技術として広まり、DXのためのデジタルツールとして確固たる地位を築いてきました。単純作業の自動化やデータ処理の高速化により、人間がより創造的な付加価値業務に集中できる環境を整える手段として、多くの企業が導入を進めています。
しかし、現在のRPAは依然として、定型的なルーチン業務やパソコン上で行う反復作業を自動化するためのツールに留まっている部分が大きいと言えます。
こうした中で登場してきたのが、未来型RPAです。本コラムでは、従来型のRPAが限界を越え、AIとの統合などによる高度な可能性を持つ未来型RPAの特徴と、その実現によって私たちの働き方がどのように変化するのかを考察します。
1.従来型RPAのメリットとデメリット
従来のRPAは、あらかじめ設定されたルールやシナリオに従って業務を自動化します。これにより、以下のようなメリットが実現されてきました。
(1)時間の削減
定型業務の自動化により、人間の作業時間が大幅に短縮されることで付加価値業務へのシフトが可能となる。
(2)コスト削減
人間がパソコン上で行う単純作業をRPAに代替することによる、コスト削減や作業ミスによるコスト増加の防止ができる。
(3)業務品質の向上
24時間365日働くことができるRPAロボットにより、目検でのチェックミスや突合作業といった人為的ミスを排除し、安定した結果を出すことが可能である。
こういったメリットがある一方で、以下のようなデメリットや限界も出てきています。
①柔軟性の欠如
予め設定していたルールには含まれていない予期せぬ変化やルール外の業務に対応する能力が低く、エラーが発生しないためのルール作成が必要となる。
②複雑業務への課題
複数部門や複雑なプロセスへの適用が難しいため、業務単位でのシナリオ作成が必要である。また、事前の業務フローを明確にするといった作業が発生する。
③シナリオ作成の負担
上記の課題へ対応するために、シナリオ構築やルール設定が業務毎に都度発生し、時間とコストがかかる。
これらの課題を解決するためには、従来型のRPAでは限界を感じざるを得なく、RPA自体の進化が不可欠であるといえます。そんな中、未来型RPAはAI(人工知能)やML(機械学習)といった次世代の先端技術を融合することで、これらの課題を乗り越えることが可能であると考えます。
2.未来型RPAの特徴
未来型RPAは、従来の定型的なルーチン業務やパソコン上で行う反復作業を自動化するためのツールに留まらず、次のような特徴を備えることが期待されています。
(1)AIとの融合
未来型RPAは、AI技術を活用することで、従来型RPA以上に「賢い判断」を行います。たとえば、画像認識や自然言語処理を活用することで、非構造化データ(メールや画像、手書き文書など)にも対応可能となります。これにより、従来は自動化が難しいとされていた定型文だけではないメール文章の作成やメルマガ発信などの業務にも適用範囲が広がります。
(2)自己学習機能
従来のRPAでは、シナリオ変更が必要な場合、人間が手動でそれぞれの設定を個別に変更する必要がありました。 未来型RPAは機械学習を活用することにより、業務プロセスの変更や新たなパターンに自動的に自己適応することが可能になると期待できます。これにより、導入後に発生するシナリオ変更にかかる時間や運用コストが大幅に削減されます。
(3)リアルタイム分析と意思決定
未来型RPAは、リアルタイムでデータを収集・分析し、即時に意思決定を行えるようになります。これにより、顧客対応において迅速な対応や、顧客に合わせた的確な対応が可能になり、顧客満足度の向上及び生産性向上が期待されます。
(4)人間との協働
未来型RPAは、完全な自動化を目指すのではなく、人間とRPAロボットとの協働を目指します。チャットボットや仮想アシスタントとの連携により、人間が指示を出しつつ、ロボットがその指示を判断し、適切に実行するハイブリッド型の業務を実現することが可能になります。
(5)高度なセキュリティ
RPAを導入する際の検討事項として、業務を自動化することによる個人データの漏洩やセキュリティリスクが懸念されます。未来型RPAは、セキュリティ機能を強化し、取り扱うデータの安全性を確保します。例えば、ブロックチェーン技術を組み込むことで、データの改ざん防止やトレーサビリティを向上させることが可能になります。
3.未来型RPAがもたらす変化
未来型RPAの進化は、私たちの働き方や企業の運営に大きな変化をもたらすと考えられます。
(1)ホワイトカラー業務の劇的な効率化
従来のRPAが主にバックオフィス業務を対象としていたのに対し、未来型RPAはフロントオフィス業務にも浸透していくと考えられます。例えば、営業プロセスの自動化やマーケティングキャンペーンの最適化、さらにはリアルタイムでのカスタマーサポートの強化が可能となります。
(2)新たなスキルの必要性
RPAが進化することで、人間にはより高度な判断力や創造力が求められるようになります。これに伴い、データ分析やAIの基本的な理解といったスキルが不可欠となり、DX人材の教育やトレーニングの重要性が増すことになります。
(3)労働時間の短縮と働き方の多様化
未来型RPAによって単純作業が自動化されることで、人間はより価値の高い業務(付加価値業務)に専念できるようになります。また、リモートワークやフリーランスといった柔軟な働き方の推進がより一層必要となってきます。
(4)企業競争力の向上
未来型RPAを活用することで、企業は迅速かつ柔軟な意思決定が可能となり、市場競争において有利な立場を築くことができます。特に、グローバル市場での競争が激化する中、ダッシュボード経営といったデータをリアルタイムで利活用し、迅速に対応できるデータドリブンな企業が優位性を持つと考えられます。
5.導入に向けた課題と展望
未来型RPAの実現には、いくつかの課題も残されていると考えられます。技術的には、AIや機械学習の精度向上が必要であり、運用面では導入コストや個人データの取扱いや情報セキュリティに関する問題が挙げられます。また、従業員が新しい技術に適応するための教育やサポートも企業にとっては重要な課題であるといえます。
しかし、こうした課題を克服することで、未来型RPAは企業や社会全体に大きな利益をもたらすことが期待されています。特に、政府や公共機関への導入が進めば、行政手続きの効率化や国民サービスの向上といった社会的な恩恵も実現でき、次世代のデジタル技術をより身近に感じることができると推察します。
未来型RPAは、従来型RPAの課題を克服し、限界を乗り越え、AIや機械学習との融合によって業務自動化の新たな未来を切り開く技術となります。その導入は、企業の生産性向上や業務効率化だけではなく、人間がより創造的で価値の高い付加価値業務に注力できる環境を作り出すことが可能であります。デジタル技術の進化スピードはますます加速しており、今後10年でRPAがどのように進化し、社会に貢献することができるのかが注目されます。この未来型RPAが描く世界は、私たちの働き方に大きな変革をもたらすとともに、企業の在り方や社会全体の仕組みにも新たな可能性を示すことが期待されます。

