適切な現状認識
属人的になりがちな営業活動において、活動内容がブラックボックス化されている組織は多くあります。そのブラックボックスを解き明かさないままデジタルツールの導入やWebサイトの強化を図っても、営業活動に活かされなければ業績拡大には繋がりません。営業DXを検討する際、自社の営業課題と向き合うことはとても重要です。
しかし、検討を始める現状認識フェーズでは営業活動だけにスポットライトをあててはいけません。BtoBの顧客創造活動は、見込みとなるクライアントが自社の商品・サービスを認知してロイヤルカスタマーに至るまで、おおよそ図1のようなステップをたどります。まずは自社のマーケティング戦略を含めた顧客創造活動を俯瞰的に捉え、マーケティングから営業までの全てを棚卸しすることを推奨します。
その上で改善すべき課題の抽出を行いますが、課題抽出時は以下2点を意識してください。
1.事象ではなく課題を捉える
図2ではマーケティングファネルの各ステップ下にクライアントからよくいただく相談事項を記載しました。しかし、これらは全て課題ではなく事象です。
営業DXではボトルネックとなる課題に対して、データやデジタル技術を活用し改善することで業績貢献への期待値は大きく高まります。しかし、改善すべき課題が明確でなければ対策も的を得たものになりません。例えば、図のように起きている事象に対して、問題となっている事柄を掘り下げ、的確に課題を捉えてください。
2.定量的に課題を捉える
営業DXの目的は、いうまでもなく業績の拡大です。施策検討時は常に業績インパクトが実施可否の判断基準となります。そのためにも現状認識フェーズでは課題や施策を定量的に捉える必要があり、そうすることで優先順位付けや効果検証の指標としても役立ちます。図4に例を示します。
組織文化の変革とマインドセット
営業DXでは単にデジタル技術やツールを導入するだけでは成果にはつながりません。それを活かす組織力、マネジメント力が必要となります。まず、新しい技術や手法を採用することは、従来の働き方や考え方の見直しを求めます。変化に柔軟な組織を作る、営業DXは企業文化そのものの変革といっても過言ではありません。そのため、営業DXで本質的な成果を上げるためには中長期的な時間を要します。デジタル技術の活用を前提とした育成制度や評価基準の見直しなど、経営活動として継続できる仕組み作りが必要になります。
組織文化の変革とマインドセットを行う際に重要なポイントは以下2点です。
1.経営陣の理解
営業DXの取り組みが成果に繋がっていない企業を見ていると、経営陣のデジタル活用に対する理解が不足している事が少なくありません。経営資源を配分しない、デジタル活用を前提とした評価体制が整っていないなど、経営課題として捉えきれてない場合、取り組みの継続が困難になります。部門最適ではなく全社最適として営業DXを推進する土壌を整えましょう。
2.マーケティングと営業の目線合わせ
前述の通り営業DXはマーケティング活動を含めた顧客創造活動の全てがスコープに入ります。マーケティングと営業のセクションが別の組織でよくあることですが、それぞれの部門最適な活動が営業DXの成果を著しく損ねます。マーケティングと営業の垣根を越えて、顧客目線で自社にとって必要なデジタル施策を検討しましょう。過去のリード情報や顧客満足度調査など、時にはクライアントの声を2部門間で読み合わせする事は大変効果的です。
インプットよりアウトプット
デジタルツールを導入することで、アナログ情報をデジタルに変えてデータを蓄積し、分析を行い、営業活動に活かすことができます。いわゆるマーケティングオートメーションツールやSFAツールなどが代表されるわけですが、このデジタイゼーションといわれるデジタルツール導入によるデータ蓄積のための環境整備活動が営業DXの中心にあります。
デジタイゼーションにおいて重要なのはデータのインプットを優先させない事です。
デジタルツールを最大限活かすためには入力されるデータの量・質が充分なほど、分析の精度は確かに向上しますが、量・質が揃うのを待っているといつまでたってもそれは達成できません。「データが整備されてから分析をする」「データの入れ方がバラバラなのでまずは入力ルールを設ける」というのでは営業DXの成果から遠ざかってしまいます。
データの量・質が不充分でも大まかな傾向や因果関係を見つける事は可能です。まずは今あるデータを分析し営業現場にフィードバックを返すことが営業DXを加速化させるためには必要です。そしてそのフィードバックを営業が活かせるかを確認し、改めて必要なデータの量・質、それに伴うフィードバックの精度に予測を立て、また営業現場にフィードバックを返す。
特にデータのインプットを営業現場に求める場合は、目に見える対価を"先に"返すことが重要です。「ターゲットの予測が出来る」「訪問先のニーズがわかる」など営業の現場で役に立つと思われるデータを示すことが、データの量・質を向上させる一番の近道です。デジタイゼーションに課題を感じている企業では、まずは不充分でも蓄積された"今"保有しているデータを徹底的に分析しアウトプットを行う事から始めましょう。