営業のデジタルシフトは、経営システムの改革であり、言い換えれば、営業の"体質転換"ともいえます。性急な情報の刈り取り、短期目線での投資判断は、体質改善には繋がりません。中期的目線での取り組みであることを理解することがリード獲得体質には不可欠です。
本コラムでは、 営業のデジタルシフトを進める際のポイントを実際の事例を用いて紐解いてゆきます。
1.営業のデジタルシフトとは
営業のデジタルシフトとは、営業活動において、従来の対面や電話などの手法から、デジタル技術を活用した手法へと移行することを指します。これにより、営業活動の効率化、コスト削減、顧客との関係強化が期待できます。
2.営業のデジタルシフトの進め方
次に、営業のデジタルシフトの進め方について説明します。
(1)フェーズⅠ:現状分析と目標設定
まずは、現在の営業プロセスやツール、パフォーマンスを評価し、強みと弱みを把握します。営業チームのフィードバックを収集し、現状の課題やボトルネックを特定します。また、Web分析を行い、検索市場での自社の状況や、競合の分析を行います。
その後、デジタル戦略を構築していきます。これは、売上目標から逆算した、Webから獲得したい引き合いの獲得数等を明確にし、具体的な数字に落とし込みます。
(2)フェーズⅡ~Ⅲ:適切なツールの選定と導入
フェーズ2のデジタルマーケティングサイドでは、マーケティングサイトの構築やCRMシステム、マーケティングオートメーションツール、データ分析ツールなど、必要なデジタルツールを選定します。ツールは、営業プロセスを効率化し、顧客データを効果的に管理するために不可欠です。選定したツールを導入し、既存のシステムやプロセスと統合します。ツールの設定やカスタマイズを行い、営業チームが使いやすい環境を整えます。
(3)フェーズⅡ~Ⅲ:データ活用と分析
フェーズ2のリアルマーケティングサイドでは、営業活動から得られるデータを一元管理し、適切なフォーマットで収集します。データの正確性と信頼性を確保するためのプロセスを整えます。また、収集したデータを分析し、顧客の行動パターンやトレンドを把握します。これにより、データに基づいた意思決定が可能になります。
フェーズⅠ~Ⅲの終了後、デジタルシフトによる効果を測定し、目標達成度を確認します。必要に応じてプロセスを最適化し、効率化や効果の向上を図ります。新しい技術やツールを導入することで、さらに改善を進めます。
タナベコンサルティンググループでは、営業戦略からデジタルマーケティング戦略の具体策設計、Webサイト制作、MAツール実装、広告運用、そしてフィールドセールスの課題に即したツール作成(企画)、セールスパーソン育成までを、立体的かつ一気通貫でサポートします。
3.営業のデジタルシフト化によるメリット/デメリット
まずは、営業のデジタルシフト化によるメリットを説明していきます。
(1)効率化と自動化
メリット: CRMシステムやAIツールを使用することで、リードの追跡、データ入力、フォローアップなどのタスクを自動化できます。これにより、営業担当者は戦略的な活動に集中できるようになります。
具体例: AIチャットボットが顧客からの問い合わせに24時間対応することで、営業担当者の負担が軽減されます。
(2)データドリブンな意思決定
メリット: デジタルツールを活用して収集されたデータを分析することで、効果的な戦略を立てることができます。これにより、マーケティングキャンペーンの成功率が向上します。
具体例: Webサイトの訪問者データを分析して、最も効果的な時間帯にメールキャンペーンを実施します。
(3)コスト削減
メリット: デジタルツールの導入により、移動費や印刷コストなどの経費を削減できます。
具体例: オンラインミーティングを活用することで、出張費を削減することができます。
(4)顧客満足度の向上
メリット: 個々の顧客のニーズや行動をデータで把握し、パーソナライズされた提案やサービスを提供できます。
具体例: CRMシステムを使って顧客の過去の購入履歴を基に、最適な製品を提案することができます。
(5)グローバル展開の可能性:
メリット: デジタルツールを使用することで、地理的な制約を受けずにグローバルな市場にアクセスできます。
具体例: eコマースプラットフォームを利用して、海外の顧客にも製品を販売することができます。
次に、営業のデジタルシフト化のデメリットを説明していきます。
(1)初期導入コスト
デメリット: 高性能なデジタルツールやシステムの導入には初期費用がかかります。これが企業によっては大きな負担になることがあります。
具体例: 高機能なCRMシステムの導入には、ライセンス費用や設定費用が必要になります。
(2)技術の習熟
デメリット: 新しいツールやシステムを効果的に使いこなすためには、社員のトレーニングが必要です。社員がツールを使いこなせるようになるには時間とリソースがかかります。
具体例: 社員が新しいCRMシステムに習熟するまでに数週間から数ヶ月かかることがあります。
(3)セキュリティリスク
デメリット: デジタルツールの利用に伴い、データの漏洩やサイバー攻撃のリスクが増加します。このような事態を防ぐための対策が必要です。
具体例: 顧客情報を保存するシステムがハッキングされるリスクがあります。
(4)顧客のデジタル対応力の差
デメリット: すべての顧客がデジタルツールに慣れているわけではないため、一部の顧客に対しては従来のアナログな手法も必要になります。
具体例: 高齢の顧客がオンラインでのサポートを使いこなせない場合があります。
(5)依存度の高さ
デメリット: デジタルツールに過度に依存すると、システム障害が発生した場合に業務が滞るリスクがあります。
具体例: CRMシステムがダウンすると、顧客情報にアクセスできなくなり、営業活動が停止します。
このように、デジタルシフトを成功させるためには、これらのメリットを最大限に活用しつつ、デメリットを最小限に抑える戦略が求められます。企業の特性や市場環境に合わせて、適切なアプローチを取ることが重要です。
4.営業のデジタルシフト化の成功のポイント
「営業のデジタルシフト」がなかなか成果に結びつかない要因として、「施策のデジタル化にとどまっている」ケースが挙げられます。
デジタルシフトは事業戦略を遂行するための手段であり、営業やマーケティングのしくみ=手段だけ切り替えても、
(1)Webページを作りっぱなし(コンテンツ不足)
(2)見込情報(リード)が活かせない(営業との連携)
(3)成果が限定的で競争優位につながっていない(ターゲット商品、マーケットが広すぎた)
と、走り始めてから問題が出てくるケースが多くあります。
営業のデジタルシフトは現状の営業スタイルの改善をするための「戦術」ではなく、「戦略的"変革"」です。
5.デジタルシフトに成功した企業事例
土木事業を手がけるA社の取り組み事例を紹介します。
行政からの案件が多い建設土木業界で、A社は、民間の案件の引き合いを増やすために、土木の営業部門でプロジェクトを立ち上げました。
自社の強みを見直し、デジタルマーケティング戦略の構築を行った後、ホームページのコンテンツの情報量を拡充。 社内に蓄積された資料やノウハウの棚卸を行うなかで各担当者の属人的な知見やメソッドなどが洗い出され、組織で共有化することにより、社内で埋もれていた"営業の勝ちパターン"の確立につながりました。
施工実績のコラムについては、管理フォーマットを作成し、月数回のペースでコンテンツを更新。サイト訪問数やお問合せ件数などのKPI(重要業績評価指標)を策定し、効果測定をしています。
その結果、お問合せ件数が2倍以上に達したほか、これまで営業のメンバーがまわり切れていなかったエリアからのホットリードを獲得しました。
現在も、リアル&デジタルを活用した顧客創造活動を行っています。
6.まとめ
営業のデジタルシフトは、現代のビジネス環境において避けて通れない変革です。
従来の営業プロセスに最新のデジタルツールと技術を組み合わせることで、企業は効率化、顧客満足度の向上、そして競争優位の確立を実現できます。しかし、この変革には計画的なアプローチと継続的な取り組みが求められます。
現状分析と目標設定から始まり、適切なツールの選定と導入、社員教育、データ活用、プロセスの最適化、継続的な改善とイノベーション、そして社内文化の醸成に至るまで、各ステップを着実に進めることが成功の鍵となります。また、デジタルシフトの効果を最大限に引き出すためには、全社員が変革を受け入れ、積極的に参加することが重要です。