中途採用者を受け入れる仕組みと共に
成長する風土を育むことを検討いただきたい。
はじめに
総務省が発表した「労働力調査(基本集計)2023年平均結果」によると、転職希望者は1,007万人(同39万人増)と7年連続で増加し、初めて1,000万人台を超えた。従来の終身雇用・年功序列から、働き方改革の推進やWell-Beingなど働く価値観の変化もあり、転職が当たり前の時代と言っても過言ではない。また企業も転職などで様々な経験を積んだ人材や即戦力の幹部人材など、事業成長スピードを加速させるために中途採用に積極的な企業も多い。
しかし新卒一括採用が根付いている日本において、中途採用者の受け入れに対しては新卒ほど体制が整っておらず、即戦力で知っているだろうと育成計画や研修も不十分な企業が多い。そのため中途採用者が組織に馴染めず、十分な成果を発揮できないまま、双方にとって不幸な状況に陥ることもある。
本コラムでは、中途採用者をどのように組織に馴染ませるか、成果を発揮するための組織作りのポイントについて紹介したい。
中途採用者が直面する課題
はじめに中途採用者を受け入れるうえで、どのような課題に直面するのか考察したい。
(1)会社独自のルールを習得
中途採用者で最も多いのが前職と同じ業界や職種での転職である。当然であるが、ある程度仕事に対するイメージができ、経験を活かしてキャリアアップを目指し転職するケースが多いからである。
しかし、いくら前職で近い経験があったとしても、会社が変われば仕事のプロセス、ルール、風土は異なり、近い経験があったとしても新たに覚える必要がある。そのため貢献意欲の高い社員や幹部候補として転職した人材ほどプレッシャーに感じてしまうこともある。
(2)前職で得た知識や成功体験をリセットする
中途採用者は様々な経験や知識を得ている反面、前職での成功体験やルールに縛られ、新しい環境に馴染むのに障害となることもある。新入社員であれば0から仕事のプロセスやルールを覚えながら習得することができる。一方、中途採用者は前職での経験を否定するのではなく一度リセットし、新たな会社のプロセス・ルールを覚えなければならない。
(3)社内ネットワークの構築
仕事は一人で完結するわけではなく、営業・契約・経理など次の工程を担当する部署との連携が必要なことが多い。新入社員であれば、業務を覚える中で先輩とのつながりや紹介などで、社内のネットワークを構築することができるが、中途採用者は繋がりも少なく、分からないことを誰に質問すればいいか、情報が集まりにくいなど社内のネットワークが無いため、業務を円滑に進めることに苦戦することもある。
以上のように中途採用者は、前職でいくら経験があったとしても会社独自のルールや仕事のプロセスも異なり、社内のネットワークがない状態であることを理解した上で接する必要がある。たとえ即戦力としての採用であっても、すぐに成果を出せるわけではなく、まずは会社に馴染み、研修を通して業務知識を習得し、活躍する仕組みを作る必要がある。
中途採用者が活躍するポイント
中途採用者が活躍するために、以下のポイントを紹介したい。
(1)メンター制度の導入
まず大切なことは、組織に馴染ませるための仕組みづくりが必要である。その一つとしてメンター制度がある。
メンター制度とは、経験の浅い社員に対し「他部署」や「年齢の近い」先輩社員がサポートする制度である。会社独自の文化やルールを身に付けるだけでなく、社内のネットワークを構築する上でもメンターがパイプ役となり、早く組織に馴染ませることが重要である。
(2)教育の仕組みを整える
次に中途採用者を育成するために、業務知識ではなく会社を知るための教育体制を整える必要がある。
①中途社員への個別教育
中途社員は経験や採用時期も様々なため、組織として研修計画が組まれることは少ない。基本的な社内のルールを研修した後はOJTが中心となり現場任せの教育になることが多い。
まずは中途採用者とコミュニケーションを取りながら、育成計画を立て仕事のプロセス・ルールを理解させることが重要である。可能であれば研修講師はメンバーが交代で担当することで複数の社員と関係を構築することやチームに早く打ち解けることに繋がる。
②受け入れる側への教育
中途採用者への教育と同様に、受けれる側への教育も必要である。中途採用者=即戦力と捉えてしまうと、既に知識があるのではと積極的に教える文化は育ちにくい。その結果、中途入社の社員は壁を感じてますます組織に馴染むことが難しくなる。中途入社を組織に馴染ませるために、まずはチームでサポートする体制を整えることが必要である。
(3)定期的な面談
最後に中途採用者との定期的な面談を実施することである。面談に関しては上司との面談以外にも、人事部・メンター・外部カウンセラーなど、本人の正直な意見や悩みが相談できるよう、異なる立場の社員との面談も実施できることが望ましい。
さいごに
タナベコンサルティングでは中途採用者が多く、2023年は新規採用者の82%を占めている。そのため、上記の「中途採用者が活躍するポイント」と企業内大学(アカデミー)がある。先輩コンサルタントが研修講師を務め、オンラインでいつでも学ぶことができるため、私自身理解できるまで何度も視聴した経験がある。
社員は勝手に組織に馴染み、成長するわけではなく、中途採用者を受け入れる仕組みをつくり、ともに成長する風土を育むことを検討いただきたい。
この課題を解決したコンサルタント
タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部
チーフコンサルタント柴田 貴也
- 主な実績
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- 金属商社:人事制度再構築支援
- 物流業:人事制度再構築支援
- コールセンター:人事制度再構築支援
- 金型製造業:事業再生支援
- 化粧品製造業:執行役員制度構築支援 など