取材先様のお役職は、取材当時のもの、タナベ経営社員の役職は、2020年現在のもの

人間力と専門力に磨きをかける
古郡建設 取締役 民間営業部長
丸山 勝美氏(右)
創業104年の総合建設企業新入社員を現場で育てる
"日本近代経済の父"渋沢栄一の出身地として知られる埼玉県深谷市。ここに本社を構える古郡建設は、同県北部を地盤とする地域密着型の総合建設会社である。
同社の創業は1914年と古く、2018年で104年目を迎える。創業当時は利根川の砂利を採取し、販売する事業を営んだ。2代目社長・古郡泰二氏の時代に、建設業へ事業を拡大。バブル全盛期の1980~90年代にはゴルフ場造成工事を数多く受注し、発展の途をたどった。現在は医療福祉施設、工場施設や環境設備などの分野で強みを発揮している。
古郡建設は2017年より、新入社員全員の土木・建築工事現場研修を実施している。期間は4~9月までの半年間。「工事屋として専門家になるためには、現場を知ることが一番」と語るのは、自らも豊富な現場経験を持つ、取締役民間営業部長の丸山勝美氏だ。
新入社員は従来、数日間の研修を経てすぐに各部署へ配属されていたが、現場で通用する深い知識が身に付いておらず、業務でつまずくことも多かったという。
また、現場では職人や協力会社の社員から教わることも多い。若手社員にとってはかけがえのない経験になっている。
「すぐに各部署へ配属されないので、一見、遠回りな人材育成方法にも見えますが、長い目で見ると近道」と丸山氏。同じ現場で半年間過ごすことで、新入社員同士の絆も育まれるという。2017年に入社した社員は6名、うち女性は3名。すでにリーダーシップの発揮が目立つ社員もおり、今後への期待は高い。
古郡アカデミー開校「人間力」「専門力」を鍛える
新入社員の現場研修は、人材育成の取り組みの一部にすぎない。人材育成に力を入れる同社では、2017年7月から企業内大学「古郡アカデミー」を開校し、若手社員の育成に本腰を入れている。
現場の主力である60代の大量退職を目前に控える中、3年で若手社員を育て、現場で活躍する戦力にすることが開校の目的だ。対象は入社2~4年目の20人。タナベ経営と今年1月から打ち合わせを重ね、7月に初回講義を開講した。
講義は月1回、土曜日に実施。内容は「人間力」と「専門力」の2本立て。人間力では、小冊子にまとめた「クレド」をかみ砕いて説明し、古郡建設の社員としての在り方、求める人間像について講師が解説する。
一方、専門力では、現場で必須となる工事・建築関係の資格取得を見据えて授業を構成。「若い技術者に何が必要か、何が足りていないのか」を工事長が検討し、必要な知識を分かりやすく解説する。
教える側の学びにも直結
古郡アカデミーの講師は社員が担当しており、人間力は丸山氏、専門力は工事長が務める。「教わる側も勉強になりますが、人を引き付ける話し方や分かりやすく伝える工夫など、教える側の研鑽にもなっています」と丸山氏。教える側の学びに直結するため、今後はより多くの社員に講師を務めてもらうという。
スキルや知識の強化に加え、会社のDNAを伝える機会としてもアカデミーは有効だ。例えば初回講義では、社歴の長い吉野専務が現場について語り、受講者から好評を博した。11月からは古郡一成会長が同社の歴史を語る授業を行い、若い世代へ古郡建設のDNAを引き継いでいる。
新入社員の現場研修、2~4年目の古郡アカデミーに続き、2018年4月からは中堅社員向けのアカデミークラスもスタートさせる。11月からは外部の講師を招き、管理職向けの研修も開催。各階層の教育を手厚くし、全社員の能力を高めていくという。
人材育成に力を入れる理由について、丸山氏は「東京オリンピック関連工事の影響で今は追い風が吹いていますが、必ず向かい風の時代が来ます。その時、無事に乗り越えて勝ち残っていくためにも、若い人材を育てておくことが必須」と語る。今のうちの若手育成が将来の競争力となり、他社との差別化や自社の強みにつながっていくのだ。
丸山氏は未来を担う若手社員たちに「本当の意味で"家族"になりたいし、一人前になって、会社を背負って立つ人になってほしい」とエールを送る。
同社のクレドには「家族思考」という言葉があり、次のような説明がある。「私たちは、社員のみならずその家族も含めて一つの大家族です。(中略)家族だから信頼し、良いことも悪いことも何でも話し合います。(中略)家族だからみんなが幸せになる努力をします」
何でも話せて互いに成長し合える、家族のような強い絆で結ばれた古郡建設の社員たち。各々が人間力を高め、高い専門性を発揮することで、今後も同社は躍進し続けるに違いない。
タナベ コンサルタントEYE
タナベ経営 経営コンサルティング本部
部長 戦略コンサルタント
山村 隆日本商工会議所の調べ※1によると、「人手不足の影響が出ている」と答えた企業のうち、建設業(81.8%)が最多だった。また、2018年3月卒予定の大学生求人倍率は建設業で9.41倍※2と、10倍に迫る勢いである。
人手不足が深刻な建設業界。しかも高い専門性が求められるため、人が育つには多くの時間と投資を要する。
それだけに、人材育成の成功は大きな差別化要因となり、競争優位をもたらす。タナベのコンサルティング事例を見ても、成功企業の共通点は、人を育てるという信念―人こそ財産で、会社の繁栄を築く競争力になるという、強い思いにある。
まさに、古郡社長、丸山取締役をはじめとする経営陣による育成へのコミットと、人材育成に時間と投資を惜しまない古郡建設の取り組みは、その理想的な事例といえるだろう。
※1 「商工会議所LOBO(早期景気観測)2017年7月調査結果」
※2 リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査(2018年卒)」
会社プロフィール
- 会社名
- 古郡建設株式会社
- 所在地
- 〒366-0026 埼玉県深谷市稲荷町2-10-6
- TEL
- 048-573-3111(代)
- 創業
- 1914年
- 資本金
- 3億円
- 売上高
- 91億円(2017年3月期)
- 従業員数
- 111名(2017年10月現在)
- 事業内容
- ①総合建設業(土木工事・建築工事・舗装工事・設備工事)
②住宅・リフォーム・リニューアル・建築事業
③建設と不動産のトータル・プランニングおよびコンサルティング
④ホテル事業
⑤上記の事項に付帯する事業 - URL
- http://www.furugori.co.jp/