1.営業DXとは
デジタル・トランスフォーメーションの定義について、総務省『令和3年版 情報通信白書』では、以下のように定義しています。
Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革をけん引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること
(総務省『令和3年版 情報通信白書』
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112210.html)
この定義を踏まえると、「営業DX」とは、デジタル技術やデータを活用して営業プロセス全体を抜本的に改革する取り組みと言えます。単なるWeb会議ツールや名刺管理アプリの導入やIT化にとどまらず、蓄積された顧客データを分析し、個人の勘や根性に頼る属人的な営業から、「データに基づいた戦略的な営業」へと組織全体を転換させることが重要です。
つまり、営業におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)は、デジタル技術を駆使してネットとリアルの両面で最適な営業活動を行い、顧客体験価値を変革し、持続的な成果と競争優位性につなげていくことだと考えます。
2.営業DXとデジタル化の違い
「営業DX」と「デジタル化」は似た言葉で混同されがちですが、両者には目的と取り組みの深さに大きな違いがあります。
紙の書類や日報をデータ化してシステムに入力したり、対面商談をオンライン会議に切り替えたりするなど、既存の業務プロセスをアナログからデジタルに置き換えて「部分的な業務効率化」を図る取り組みが「デジタル化」です。多くの中小企業がこのデジタル化の段階で満足してしまいがちですが、これだけでは根本的な課題解決や組織の変革には至りません。
一方で本来の「営業DX」とは、ITツールの導入をゴールとするのではなく、デジタル化によって得られたデータを分析・活用し、営業手法や組織のあり方全体を再構築して「新たな価値を創出する」ことを目的としています。営業プロセスの再設計や顧客の購買行動の分析を通じて、組織の価値創出の仕組みを根本から変革し、企業の競争優位性を高めることこそが真のDXです。
アナログ業務をITツールに置き換える単なる「デジタル化」で満足するのではなく、この2つの違いを正しく理解し、データ活用を見据えた取り組みへと繋げることが、営業活動全体を進化させる戦略的なDX推進を実現する鍵となります。
3.営業DXがもたらす3つの変化
営業DXが組織に定着することで、単なる業務効率化という枠を超え、主に以下のような3つの大きな変化がもたらされます。
(1)属人化からの脱却
これまでの営業活動は、ベテラン担当者の頭の中にしかない経験や勘、個人的な人脈に依存する「属人化」に陥りがちでした。しかし営業DXを推進することで、トップセールスのノウハウや過去の商談履歴、成功パターンがデータとして可視化され、組織全体の共有資産に変わります。これにより、担当者が不在の際でも他のメンバーが迅速かつ適切に対応できるようになるほか、若手社員への教育やノウハウ共有がスムーズになり早期戦力化が実現するなど、チーム全体の営業力が飛躍的に底上げされます。
(2)データに基づく意思決定
個人の感覚や経験則といった不確かなものではなく、正確なデータに基づいて客観的な意思決定を行う「データドリブン営業」が可能になります。SFAやCRMなどに蓄積された顧客の行動データや商談結果を分析することで、失注の本当の原因を特定したり、受注確度の高い見込客をスコアリングして抽出したりすることができます。これにより、精度の高い売上予測や、より確実な営業戦略の立案が可能となり、効果的なPDCAサイクルを回し続ける組織へと進化します。
(3)顧客体験の向上
顧客の基本情報だけでなく、過去の商談履歴、問合せ内容、さらにはWebサイト上での行動履歴に至るまで、すべてのデータが一元管理されるようになります。これにより、それぞれの顧客が抱える潜在的な課題やニーズを深く理解し、最も最適なタイミングでパーソナライズされた質の高い提案やフォローアップが可能になります。一貫性のあるきめ細やかな対応は顧客満足度を大幅に高め、結果としてアップセルやクロスセルの成功、顧客生涯価値の最大化に大きく貢献します。
4.営業DXが注目される背景/重要性
総務省『令和3年版 情報通信白書』では、コロナ禍において、企業におけるデジタル・トランスフォーメーションがあらためて注目されている要因として、4つ考えられると記されています。
1.スマートフォン等の普及に伴う消費行動等の変化
2.デジタル・ディスラプションの脅威
3.リアル空間を含めたデータの増大・ネットワーク化
4.デジタル市場のグローバル化
(総務省『令和3年版 情報通信白書』
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112230.html)
その中でも、営業DXにおいては、スマートフォン等の普及に伴う消費行動等の変化とリアル空間を含めたデータの増大・ネットワーク化の影響を受け、企業側の変化が求められています。
『スマートフォン等の普及に伴う消費行動等の変化』について
消費行動等の変化の背景には、あらゆる業種・業態においてこれまでにない新しい製品やサービス、ビジネスモデルを展開する新規参入企業の登場があります。これは、BtoC企業に限ったことではなく、BtoB企業の購買者行動にも変化が起きています。特に、情報収集段階で購買者が営業担当と会う割合も低くなってきております。すでにサービスの比較・検討を済ませた段階で問い合わせをする形に変わってきていると感じている企業もいらっしゃるのではないでしょうか。
『リアル空間を含めたデータの増大・ネットワーク化』について
新規顧客の営業においてこれまでリアル営業を行っていた場合は、初回アポイントのタイミングでお客様の関心事などを1から情報収集をする形でした。ただし、現在の顧客はサービス、関連情報をネットワーク上で調べています。営業との商談前にインターネット上で行動し始めています。したがって、その行動の情報をうまく取り込み、自社の営業活動に活かすことで優位性を作っていくことが重要となってきます。
5.営業DXを推進するデジタルツールの活用
営業DXを推進するデジタルツールの活用について、リード獲得からリアル営業につなげる活動における一例についてご紹介します。ただし、デジタルツールを導入することは手段であり、導入後いかに業務の効率化を図り、営業担当者がお客様の課題解決に時間をあてられるかが重要となります。
(1)マーケティングサイト
営業ツールに例えると、営業提案書の役割を果たすWebサイトです。見込客の集客・リード獲得・育成・ホット客抽出のみを目的として構築を行います。詳細な商品説明、事例紹介、業種別・課題別記事、よくある質問、お役立ち資料など、見込客が望む情報のみで構成します。
(2)マーケティングオートメーションツール
顧客・見込客のWeb上の行動を自動的に記録するツールです。メール発信も可能です。すべての見込客がホットリードではないため、クールリードとのつながりを保ちながらホットリードへと育成していけるように、定期的な接点をネット上で作っていきます。
(3)CRM
自社と顧客との関係性を主軸とした顧客情報の管理を目的としています。機能面において、CRMはSFAと共通点が多いですが、商談・案件を軸とするSFAと違い、CRMは顧客とのコミュニケーションを軸に情報を管理しています。
(4)SFA
顧客情報や営業ステータスの一元管理、営業メンバーの行動管理、売上管理や予測といった機能を備えており、営業活動の効率化を得意としています。
6.成功事例から学ぶ営業DXのポイント
営業DXに取り組む上で、お客様や社内外の利用者に寄り添うためには、営業やインサイドセールスなど社内の複数部門をまたぐ関係者と連携し、全社の取り組みとして推進することが重要です。DX担当部門の設置だけでなく、全社を巻き込める意思決定のもと、お客様に寄り添った営業DXを実行していくことが大切です。
ここでは、実際に営業DXを推進し、成果を上げている企業の事例をご紹介します。
(1)デジタルマーケティング推進と顧客理解
A社は新型コロナウイルスの蔓延による対面接触の減少を機に、Web会議システムを利用したオンライン営業への切り替えと、情報交換の場としてのサイトリニューアルを行いました。
特徴的なのは、サイト構築前にお客様向けの綿密な調査を行った点です。「どのような情報が見たいか」「どんな時に営業に連絡を取りたいか」など顧客理解を深めることで、お客様が必要とする情報を最適なタイミングで提供できる仕組みを構築しました。
導入当初は社内で温度差がありましたが、営業部門に対してデジタルマーケティングの目的や意図、具体的な営業活動への活かし方を丁寧に説明することで、社内への浸透を成功させています。
(2)デジタルとリアルの融合による営業プロセスの効率化
ある住宅メーカーでは、将来的な展示場への来場者減少を見据え、対面の接客に大きく依存していた従来の営業スタイルからのデジタルシフトが急務となっていました。
そこで、ターゲット層に合わせたブランド展開を行うとともに、顧客がスマートフォン等で事前に十分な情報収集ができるデジタル上の仕組みを構築しました。従来は展示場で営業担当者が一から行っていた商品説明や魅力付けをデジタルで補完することで、顧客が事前に深く比較検討してから来店する状態を作り出しました。
結果として、初回商談から意思決定(即決)までのスピードが格段に上がり、営業現場の負担軽減と営業効率の大幅な向上を実現しています。デジタル経由の集客が全体の半数以上を占め、受注数も約1.7倍に増加するなど、営業プロセス全体の変革が大きな成果に繋がりました。
お客様だけではなく社内の営業にとっても、デジタル活用における多少の摩擦はどの企業においても起こる可能性があります。利用者は、お客様だけでなく社内にもいるという点で、ツールや施策の導入目的と意図を社内に向けて共有し、全社の取り組みとして落とし込んでいくことが営業DXを成功に導く最大の鍵だといえます。
7.営業DXにおける、よくある失敗例とポイント
営業DXは、成功すれば企業の競争力を飛躍的に高める一方で、進め方を誤ると「高いコストをかけたのに効果が出ない」といった事態に陥るリスクもあります。ここでは、多くの中小企業が陥りがちな3つの失敗例と、それを防ぐための注意点を解説します。
(1)ツールの導入自体が目的化してしまう
最も多い失敗が、「他社もやっているから」「高機能だから」という理由で自社の課題に合わない多機能なツールを選んでしまい、現場が使いこなせずに終わるケースです。結果として、ツール導入自体が目的になってしまいます。
【導入前の注意点】
まずは自社の「絶対に解決したい課題」を一つに絞りましょう。そして、いきなり全社に大規模なシステムを導入するのではなく、特定の部署や課題に絞ってスモールスタートを切り、小さな成功体験を積み重ねながら対象範囲を広げていくことが重要です。
(2)現場の理解・協力が得られず反発を招く
経営層がトップダウンでシステムを導入しても、実際にツールを使う現場の営業担当者から「入力作業が増えるだけでメリットがない」と反発を招き、定着しないケースも後を絶ちません。
【導入前の注意点】
営業DXは現場の協力なしには成立しません。「なぜこのツールを導入するのか」「ツールを使うことで、担当者自身の業務がどう楽になり、成果に繋がるのか」を導入前に丁寧に説明し、現場がメリットを実感できるような対話の場を設けることが不可欠です。
(3)データが入力されるだけの「データの墓場」になる
SFAやCRMに顧客情報が入力されても、担当者ごとに運用ルールがバラバラだったり、誰もそのデータを分析・活用しなかったりして「データの墓場」と化してしまうケースです。これでは単なる高価な報告ツールになってしまいます。
【導入前の注意点】
「どの項目を」「どのタイミングで入力するか」といった明確な運用ルールを事前に定めることが重要です。また、週の営業会議で必ずツールのダッシュボードを見ながら議論するなど、データを見て活用することを業務プロセスの中に強制的に組み込む仕組みづくりが必要です。
これらの失敗を避け、営業DXを組織に定着させるためには、自社の現状課題の可視化から、適切なツールの選定、そして現場への浸透まで、包括的な視点を持った専門的なノウハウが求められます。
8.まとめ
タナベコンサルティングでは、営業戦略からデジタルマーケティング戦略の具体策設計・Webサイト制作・MAツール実装・インサイドセールスの立ち上げ・広告運用まで、煩雑になりがちなデジタルマーケティングを、立体的かつ一気通貫でサポートします。お悩み事があればぜひお気軽にご相談ください。
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