BtoBデジタルマーケティングとは?
(1)はじめに
「営業担当者に会う前に勝負は決まる」
昨今、法人ビジネスおいても営業担当者と会う前にWebサイトである程度情報収集し、購買・契約の意思決定を行なうことが一般化しています。
しかし、その一方で、Webサイトの整備を疎か・軽視しているサプライヤー企業が多いことも事実です。例えば、「10年前に制作したコーポレートサイトを放置したまま」「Webサイトに力を入れている時間があれば、営業訪問の件数を増やすべき」等の声をよく耳にします。たしかに法人ビジネスにおいては、最終的にはリアルの商談の場で対面で交渉・打合せを行い、購買・契約の意思決定をすることが大半です。一部、デジタルで完結するサービスもありますが、最終的にマンパワーが決め手になります。その意味では、Webデジタルに工数・費用を掛けるよりも、従来通りリアル施策・マンパワーに重点を置くことは理解できます。
しかし、ここで押さえておくべきポイントは、業界業種による違いはあるものの、顧客側で事前にWebで情報収集を済ませておきたいというニーズがある点です。それを軽視して、顧客へ従来通りアプローチしても、一方的な営業活動は迷惑と捉えられ、企業イメージがダウンする恐れがあります。そして、このような傾向は、コロナ禍で加速度的に広がりました。
そこで本稿では、BtoBビジネスでは軽視できなくなったデジタルマーケティングについて、その定義・メリット・成功のポイント等を解説します。
(2)BtoBデジタルマーケティングの定義
BtoBマーケティングにおけるデジタル領域の拡大により、「BtoBデジタルマーケティング」というキーワードを頻繁に耳にするようになりました。現在、マーケティングリテラシーを習得するうえでは欠かせないテーマになっています。このキーワードの定義は、「BtoB(法人向けビジネス)におけるデジタルを活用したマーケティング活動」です。そして、「デジタルを活用した」を具体的には、Webサイト・SNS・Web広告・メールマガジン等のデジタルツール・デジタル施策を活用する事を表します。
冒頭にお伝えした通り、顧客側ではリアルの営業担当と会う前にデジタルである程度情報収集している中では、サプライヤー側もデジタルマーケティングに着手すべき状況です。「BtoBデジタルマーケティング」では、顧客の購買行動プロセスである「認知」「興味関心」「比較・検討」「購買・契約」の流れの中で、デジタルを実装し、最適化を図る必要があります。
BtoBデジタルマーケティングのメリット
さて、実際にデジタルマーケティングを推進するメリットについて以下3点ご紹介します。
(1)営業生産性の向上
メリットの1点目はデジタルマーケティングを実装・推進することで、営業生産性が上がる点です。
従来型のリアル営業に依存した営業活動では、基本的に1人のセールスが営業活動のすべてを一貫して担った結果、業務量は膨大になります。架電・問い合わせ対応・訪問・商談・クロージング等の一連の営業活動に、顧客の数を掛け合わせる事で業務量が膨れ上がるのです。
もっとも新人セールスが、営業の業務を一通り経験しスキルアップする上では、そういったことも一時的に必要です。しかし、生産性の視点で、中堅・ベテランセールス含めた、営業組織全体としてその体制を続けていくことは、果たして良いのでしょうか。
デジタルマーケティングにはその課題を解決するポテンシャルが備わっています。例えば、新規及び既存顧客への継続的なアプローチの大半を、デジタルに任せることが可能です。理想形として、「プル型」で待っていてもWeb経由で問い合わせが来るパターンです。
ぜひこの機会に、自社にとって、どの領域にどのようにデジタルを活用していくことで生産性を上げていくか、一度精査・検討されてはいかがでしょうか。
(2)これまでアプローチ出来なかった新規顧客との接点が持てる
メリットの2点目は、リアル営業に依存すると、営業活動が属人化し、顧客へアプローチできる範囲や量に限界が生じます。デジタルを活用することで、いわゆる「空中戦」が可能になり、これまでアプローチ出来なかった顧客との接点を持つことができます。
金属加工製品のA社では、これまでリアル営業主体で架電や飛び込み営業を中心に顧客開拓を行っており、開拓できるエリア(地域)に限界を感じていました。そこで、マーケティングサイトとWeb広告を展開することで、これまでアプローチ出来なかった地方エリアの新規顧客からの問い合わせが増え、Webを通じて月間30~40件程度の見積り依頼・資料請求を獲得できるようになりました。Web広告では詳細なターゲット設定が可能ですので、A社はその特長・利点を活かして地方の未開拓地域に重点を置き、デジタルマーケティングを推進することで新規顧客開拓に成功しています。
(3)ライバル会社との差別化が可能になる
メリットの3点目は、デジタルマーケティングの取り組み自体が、ライバルと差別化になる点です。これは特に、業界の傾向としてデジタルマーケティングを実装・活用できていない場合に有効です。一方で、デジタルマーケティングが浸透している業界業種では、一段とレベルの高い、より緻密なデジタルマーケティングの設計・実装が求められます。
建設土木業のB社では、中期ビジョンの重点テーマとしてデジタルマーケティング推進を掲げました。ライバル他社がデジタルマーケティングへ余り力を入れていない中で先手を打ち、成果を上げています。Webサイト・YouTube・Web広告・メールマガジンを活用し、インサイドセールス体制を構築。安定的にWeb経由で受注ができるようになり、大型物件の成約も出始めています。
B社の事例を踏まえて、ライバルより先行し差別化していくためにも、即座にデジタルマーケティングに着手すべきと言えます。
具体的なBtoBデジタルマーケティングにおける施策
次にBtoBデジタルマーケティングの具体的な施策を、以下2つの目的に分けて紹介します。
(1)リードジェネレーション(見込み顧客の獲得)
リードジェネレーションは、デジタルマーケティングの見込み顧客のすそ野を広げる重要な取り組みです。リードジェネレーションを目的とした主なデジタル施策として、
① サイトのSEO対策
② SNS(Facebook・YouTube)アカウントの運営・活用
③ Web広告運用
が挙げられます。
①と②は、時間と工数を掛けてじっくりと取り組み、成果に繋げていく施策です。即効性は期待できませんが、コンテンツの「ストック効果」でリードジェネレーションの基盤が強化されていきます。
そして、③Web広告運用は、費用を投じて早期に成果獲得を目指す施策です。
ここで押さえるべきポイントは、それぞれの持つ特徴を押さえ、施策を組み合わせて成果を最大化することです。
(2)リードナーチャリング(見込み顧客の育成)
リードナーチャリングは、獲得した見込み顧客の温度感を高め、受注・成約に繋げる取り組みで、いわゆる「顧客育成」にあたります。
リードナーチャリングを目的とした主なデジタル施策として、
① MA(マーケティングオートメーション)ツール活用
② メルマガ配信
③ ウェビナー開催
④ SNS(Facebook・YouTube)アカウントの運営・活用
⑤ Web広告運用
が挙げられます。
こちらもリードジェネレーションと同様、時間・工数を掛けて取り組む施策と費用を投じて即効性を求める施策の組み合わせが必要です。 ただし、リードジェネレーションと異なり緻密な「顧客最適化」が求められます。顧客の状況・温度感に合わせて、施策・コンテンツを出し分けていくことが必要です。具体的には、MAツールの場合は、製品サービスを近々必要としている「今すぐ」顧客には、ダイレクトな製品サービス情報や販促キャンペーン情報を配信し、まだ製品サービスを必要としていない「そのうち」顧客には、他社事例(ケーススタディ)等のソリューション型コンテンツを配信する、というような例です。
以上、目的別に主な施策を紹介しました。繰り返しになりますが、自社の業種・顧客特性に合った形で「顧客最適化」を図り、様々な施策を組み合わせていく必要があります。そして、BtoBビジネスの特性を鑑みて、デジタル一辺倒では無く、展示会・セミナー・営業訪問等のリアル施策との連携を図るべきなのは言うまでもありません。
BtoBデジタルマーケティングを成功させるポイント
本稿の最後に、デジタルマーケティング成功のポイントを3点ご紹介します。
(1)戦略・アクションプランを策定する
デジタルマーケティングで成果を上げるためには、行き当たりばったりで闇雲に進めるのは避けなければいけません。よくありがちなのが、周囲から評判が良いと聞き、いきなりMAツールを実装・活用するケースです。他社で成果が出ているからと、その情報に流されて最初に施策・手法に入るのでは到底望む成果は得られません。
重要な事は、まず戦略を設計し、計画的にデジタルマーケティングを推進していくことです。
戦略設計の項目は。Why(目的・目指す方向性)、What(強み・訴求ポイント)、Who(顧客ターゲット)、How(施策・ツール)の4点です。Why・What・Whoを明確にしたうえで、How(デジタルマーケティングツールやプロモーション施策)を考えるのです。
そして、戦略を明確にしたうえで、続いて重要な事はアクションプランを策定することです。
戦略を設計しただけでは「絵に描いた餅」に終わります。戦略に基づいたアクションプランを立て、具体的にアクションを起こすことでデジタルマーケティングは前に進みます。
(2)PDCAサイクルを回し続ける
具体的なアクションを起こす中で、PDCAサイクルを絶えず回し続けることが成功へのカギを握ります。
デジタルマーケティングは定着しているか、成果は出ているか、対策をどうするかなど、常に確認・検証するというスタンスです。
事例として、食品製造業のC社では、月に一度必ず営業とマーケティング部門のメンバーが集まり、PDCAミーティングを開催しています。マーケティングサイトやWeb広告の成果やリード獲得状況を確認。Web経由の見込み案件の共有・フォローや受注に向けた対策をディスカッションし、必ず実行策・担当・期限を明確にしています。
C社のように、単にディスカッションで終わるのでは無く、具体的な実行策と誰がいつまでに実行するのかまで決めることがPDCAミーティング開催の意味を持つのです。自己満足で終わるような、PDCAを回すこと自体が目的化するような事は避けなければいけません。
(3)「スモールスタート」で着手する
そして、3点目は「スモールスタート」です。
デジタルマーケティング立上げのプロジェクトで失敗するケースとして、いきなり全社的に推進する大きなプランを描いて頓挫するパターンです。戦略とアクションプランを立てて満を持してスタートしたものの、社内メンバーが腹落ちせず、また従来の方法に固執してデジタルマーケティングが停滞することがよく見られます。
建設業のD社では、営業企画部がデジタルマーケティングの旗振り役で、営業拠点とエリアを限定してデジタルマーケティングを推進しました。限られたエリアの中で、担当メンバーを絞り、試験的にランディングページとWeb広告の展開をスタート。3ヶ月経過した辺りから、Web経由のお問い合わせを獲得できるようになり、5ヶ月目にはWeb経由で成約できるようになりました。その後、D社はデジタルマーケティングの展開範囲を広げています。
デジタルマーケティングで実際に成果を出す事で、社内メンバーの士気も向上し、社内連携を進める契機になります。
「スモールスタート」で着手することも一つの選択肢としてご提案します。
以上、本稿ではBtoBデジタルマーケティングについて、その定義・メリット・具体的な施策・成功のポイントをご紹介しました。ぜひ少しでも参考にしていただければ幸いです。
なお、このような取り組みは、成果を出すまでには、相応の時間と工数・費用が掛かります。
自社にとってどのような戦略・計画や施策が必要か、今一度ご検討いただき、一歩前へ踏み出しましょう。