グループガバナンスに必要なポイント
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グループガバナンスに必要なポイント
2019年6月に経済産業省より「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」が公表され、グループガバナンスの重要性がクローズアップされております。その背景としては、近年の経営戦略を推進するにあたり、企業戦略においてグループ会社の重要性が増していることがあげられます。また、事業の多角化に対応したリスク分散や、機動的な経営を実現するための権限委譲を目的に純粋持株会社に移行する企業が増加していること、M&Aなどでグループ会社が増加していることもグループ会社の重要性が増している要因にあげられます。
このような流れの結果、企業におけるグループ会社の数は増加し、グループ全体で統率のとれた運営の重要性が高まっているものの、現状多くの企業はグループ会社にまでガバナンスを十分に浸透できていない状況です。
本件では、グループガバナンスの再構築について、「ガバナンスを推進するための仕組みの整備」と「グループ全体の組織再構築」の2つを説明します。
ガバナンスを推進するための仕組みの整備
資源配分システムの再整備
ガバナンス強化において重要なポイントの一つは「攻め」のガバナンスです。そして、その中核をなすのは、資源配分に関わる意思決定システムの構築であり、前述の「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」においても「事業ポートフォリオマネジメント」という表現で言及されています。それゆえに、企業のグループ経営体制にマッチした資源配分システムに再構築することが重要であり、具体的な資源配分システムの再構築に関しては、資本コストをベースとするのが一般的です。
権限・責任の再定義
グループガバナンスにおいて、権限委譲の範囲をグループ全社全体として、それぞれのグループ特性により区分けし、区分けごとに権限委譲の方針を定めることにあわせて、権限移譲に伴う責任も再定義する必要があります。なお、ここでいう責任の代表的なものは業績責任であり、どのような指標を設定するかを議論する必要があります。具体的には、権限設定の際に行ったグループ会社区分に従って業績評価の指針を定めつつ、グループ会社それぞれに業績責任を図る指標と具体的な数値を設定することが一般的です。
人材マネジメントの再構築
企業において事業の多角化・グローバル化の進展と、その手段としての純粋持株会社制度への移行や、M&Aの活用などにより、近年ではグループ会社が量的にも質的にも増加しつつあります。そのため、グループ会社の経営陣をどのように配置するのかは重要な経営課題として、その認識が高まっており、実務指針においても指名・報酬についての言及がなされています。実務としてはグループ全体の経営幹部をコントロールできる一定の仕組みを構築する必要がありますが特に重要な仕組みとして、グループ会社間でスムーズに経営幹部が移動できるための候補人材のプールとその選抜のための基準作りや、グループ会社間での職位の読替え、そしてグループ内での報酬方針の整合性確保が挙げられます。一方で、仕組みを動かすには、全てのグループ会社に同一に運用することは現実的ではなく、グループ会社の性質や規模に応じた運用基準を合わせて検討することが重要です。
資金マネジメント
グループ本社は、グループ全体の企業価値向上に向けて経営陣の意思決定をサポートする重要な組織である一方で、適切なガバナンスを維持するための仕組みを構築する役割を担っています。その中でも近年、多くの企業において取組みが進められているのが資金マネジメントです。一般的に、グループ会社の増加とともにグループ全体での資金が増加し、再投資の原資へ回せるものと思われがちですが、資金自体は各社の事業活動の成果であるために、分散しているのが現状です。グループ本社としては、これらの資金を集約し、グループ全体最適の視点で再投資や調達した資金の返済原資に供することが望ましいため、グループ内での資金集約のルールを定め、CMS(Cash Management System)を活用した資金マネジメントを行う企業が増えています。
さらに今後は、単なる集約だけではなく、ガバナンスの観点からグループ会社の資本・配当政策に踏み込んだルールを定め、グループ会社の適正資本水準をにらみつつ、資金をグループ本社に集約していく動きが加速すると思われます。
モニタリング・監査体制の整備
グループガバナンスが重用される背景の一つに、ガバナンス強化の流れの中で企業の対応が進む一方で、発生した多くのガバナンスに関する問題はグループ会社が起点となるものが多く存在する、という点があげられます。それゆえ、実務指針においてもグループ内部統制に力点が置かれています。一方で、グループ会社全てに対してグループ本社が直接的に統制をかけることは、実務上困難です。そのためグループ会社の性質や規模に応じてグループ会社が直接統制を行うか、グループ会社の統制状況の有効性を確認する間接統制を行うか、その選択を検討する必要があります。この際には前提条件において整理した、グループ会社の区分にリンクしてモニタリングと監査体制を整備することが現実的です。
グループ全体の組織再構築
グループ経営を統括する組織設計
グループ本社は、グループガバナンスを円滑に進める存在として重要であり、ガバナンスに資する組織の設計要素、また最終的な組織形態の選択として、純粋持株会社制度に移行するか否かを決定する必要があります。また、グループ本社機能の補完として、グローバル体制における地域統括会社の要否や、さらに本社部門を中心とした間接部門効率化を図るためのシェアードサービスの活用なども検討する必要があります。
グループ再編の推進
グループ経営の形態を検討するに際して検討が必要なものとしては、グループ企業の再編があげられます。再編についてはポートフォリオマネジメントにおける集中と選択によるグループ外への退出はもちろんのこと、グループ内における類似の役割を担う会社の統合、さらには役割明確化のためのグループ会社の分割などが想定されます。特に、類似会社の統合についてはM&Aで買収した企業の子会社と、元来の子会社の間で頻繁に起こりうる事象でもあります。なお、再編の際に重要なガバナンス上の視点はグループ会社の数を絞り込むことにあります。グループ会社の数がガバナンス上のリスクがあるのは自明の理であり、過去のガバナンス問題が顕在化した企業を見てもグループ会社の絞り込みは重要なポイントといえます。
資本・出資比率の見直し
グループ再編と並行して実施すべき事項はグループ会社の資本と出資構成の見直しです。出資比率の見直しについては、戦略的な観点から完全子会社化や出資比率の引き上げ、もしくは引き下げなどが行われることが多いですが、今後はガバナンスという観点から特に上場子会社に対する出資比率の見直しも検討されることになると思われます。さらに今後重要となるのは、グループ企業の資本そのものをガバナンスの視点から見直すことです。なぜなら、多くの企業においてはグループ会社の資本金がどのような経緯で設定され、現在の水準に至っているのか、さらには剰余金についてはどのような方針で留保しているのかが明確でなく、また現在の水準が十分であるかの検証もなされていません。そして、この結果、グループ会社において過小資本や過大資本が発生している可能性があり、特に課題資本は、その過剰流動性を背景にした資金の流用や横領などガバナンス上の問題を惹起する可能性が高まるのです。なお、これらのグループ組織の再構築については、会計・税務上の影響を見極めるとともに、少数株主をはじめとしたステークホルダーへの対応など、現状に即した対応が必要となります。
グループ経営システム構築サービスの詳細は下記よりご覧ください。
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