ROA(総資産利益率)とは?収益構造の改革におけるROAの有効性
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インフレーションと金利の上昇によるコスト増加圧力が強い現在の経済環境において、企業は収益構造の改革を余儀なくされています。インフレーションは対応する人件費などのコストを押し上げ、利益率の低下を招く一方、金利の上昇は借り入れコストを増大させ、資金調達や投資の計画に影響を及ぼしています。これらの課題に対応するために企業は収益構造の改革が迫られている状況にあります。収益構造の改革に向けた施策の検討、その評価指標としてROAが有効であります。収益構造の改革に向けてなぜROAが有効であるのか、そのポイントについて以下で解説します。
収益構造の改革におけるROA(総資産利益率)分析の有効性
ROA(Return on Assets)とは総資産利益率のことで、企業が所有する総資産に対してどれだけの利益を上げているかを示す指標です。保有する資産のパフォーマンスを評価するために用いられ、計算方法は次の通りです。
ROA=純利益/総資産
ROAが高けれ高いほど、企業は保有する資産を効果的に運用できており、高いパフォーマンスを発揮できていることを示します。
収益構造の改革を行う際にROAが有効である理由について、「全体的な収益性の把握」「各施策の効果を明確に把握できる」「企業の持続性を評価する」の3つの観点から以下で説明します。
全体的な収益性の把握
ROAは純利益と総資産の双方から、企業の全体的な収益性を包括的に評価できるため、収益構造の改革に向けた経営指標として非常に有効です。企業の全体的な収益性を包括的に評価できるという点について以下で説明します。
(1)純利益の評価
ROAの分子は純利益であり、価格戦略の見直しやコスト削減が純利益に与える影響を観測することができます。
(2)総資産の管理
ROAの分母は総資産であり、事業性、非事業性関係なく企業が保有するすべての資産を含みます。企業が資産をどれだけ効率的に管理しているかを評価する指標として、不要な資産の売却や財務レバレッジの見直しによる影響を観測することができます。
短期的な収益性を示す(1)純利益の評価と、長期的な資産の状況を示す(2)総資産の管理の双方から評価できることから、企業の収益性を包括的に評価できるといえます。
各施策の効果を明確に把握できる
ROAは構成要素を分解することでROAツリーに展開することができます。収益構造の改革に向けた具体的な施策がどのようにROAに影響を与えているかを、詳細に把握することができる点で有効であり、これにより企業は各施策の効果をより的確に把握でき、戦略的な意思決定を行いやすくなります。以下にROAツリーの構成要素とその具体的な施策の例を示します。
1.純利益の向上
(1)コスト管理の最適化
①原材料費の削減
(例)サプライチェーンの見直しによる原材料の効率的な調達
➁労務コストの削減
(例)機械設備の導入や自動化によるプロセスの効率化
(2)価格戦略の見直し
①コスト増加分の販売価格転嫁
(例)既製品の販売価格の引上げや高付加価値製品の開発
➁新価格設定モデルの導入
(例)バンドル販売やサービスオプションを含む新しい販売価格モデルの開発
(3)財務戦略の最適化
①借入のリファイナンス
(例)低金利の借入へのリファイナンス
➁資本構成の見直し
(例)借入圧縮による財務レバレッジの見直し
2.総資産の最適化
(1)資産売却と再投資
①非効率な資産の売却
(例)非事業用資産や使われていない設備や不動産の売却
➁成長分野への再投資
(例)機械設備や研究開発費への戦略的投資
(2)資産効率性の改善
①資産の有効活用
(例)設備の稼働率向上
➁不要資産の処分
(例)在庫管理の改善
以上のようにROAツリーを展開することで、収益構造の改革に向けた各施策がどのようにROAに影響を与えるかを把握することができます。これにより、企業は各施策の評価を的確に行うことができ、長期的な成長を支えるための具体的な行動計画を策定できます。
企業の持続性を評価する
ROAは、企業の短期的な収益性だけではなく、長期的に持続可能な成長を評価するためにも重要な指標です。ROAを活用することで、企業は資産の効率的な利用と収益性のバランスを評価し、持続可能な成長を実現するための戦略を構築できます。以下にROAが持続可能な成長の指標として重要である理由を説明します。
(1)バランスの取れた成長の実現
ROAは企業の短期的な収益性を評価する一方で、総資産の運用効率性も測定します。これにより企業は短期的な利益追求に偏らず、長期的な成長も同時に実現していくことができます。
(2)持続可能なビジネスモデルの評価
ROAは企業のビジネスモデルが持続可能かどうかを評価するための指標としても有効です。収益性が高い企業は市場シェアが高く競争優位性があることや、高付加価値製品の提供ができており、長期的な競争優位を確保できていると考えられます。
(3)市場の信頼性
高いROAは企業が安定して高い収益を上げていることを示すため、投資家からの信頼を得やすくなります。これにより、株価の上昇や資金調達が有利になり、投資活動の活性化など企業の競争力を支える基盤となります。加えて、ROAが高い企業は顧客やビジネスパートナーからの信頼も得ることで長期的な関係性を構築し、投資家からの評価同様に市場での競争優位を確保する基盤を構築することができます。
最後に、ROAは企業の資産効率と収益性を包括的に評価するための指標であり、持続可能な成長を実現するために重要な役割を果たします。特に、インフレや金利上昇の現代において収益構造の改革を進める際にROAを使用することで、異なる施策の成果を的確に把握し評価を繰り返すことで収益構造の改革、更には企業の持続性の向上に向けた競争優位性の確保を図ることができます。
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