医療DXの事例紹介

コラム 2025.01.20
マネジメントDX 戦略・計画策定
医療DXの事例紹介
目次

はじめに

世界に先駆けて少子高齢化が進む日本では、労働人口の減少が危惧されています。そのため、健康寿命の延伸が必要であり、国民の健康増進や質の高い医療の提供が求められています。デジタル化推進による保険・医療情報の利活用や、適切な医療を提供できる労働環境整備のために、医療DXが急務となっています。本コラムでは、医療業界の課題と医療DXの推進に向けた事例を紹介します。

1.医療業界の課題と医療DXの推進

(1) 医療業界の抱える課題

① 医療従事者の不足と過労

令和6年4月より「医師の働き方改革」が施行されましたが、少子化に伴う医療の担い手の減少や医師を志す人材の減少により、個人の負担が増加しています。病院常勤勤務医の約4割が年960時間超、約1割が年1,860時間超の時間外・休日労働が発生しているのが現実です。タスクシフトやタスクシェアによる業務分散の推進が急務です。

医師の働き方改革概要
出典:厚生労働省「医師の働き方改革概要」より抜粋

② 院内情報及び医療業界全体の情報非連携による非効率 IT

ITインフラの未整備により、アナログの院内情報共有や病院間での情報やりとりが非効率となっています。新型コロナウイルス感染症流行時には「医療の見える化」ができていないことで対応の遅れや業務負荷が発生しました。

③ 医療の地域格差

都市部と地方部での医療サービスの質やアクセスに大きな差があります。地方では専門医の不足や医療施設の老朽化が問題となっており、訪問による業務非効率も発生しています。

④ 医療技術の進化に対する普及速度の遅さ

新しい医療技術や治療法の普及には時間とコストがかかります。特に中小規模の医療機関では最新技術の導入が難しく、医療の質に差が生じる可能性があります。また、通常業務に忙殺されるため、新たな技術や治療法を学ぶ時間の確保も課題です。


医療従事者の確保のためには、労働環境の整備や効率的な情報連携の仕組みづくりが重要です。また、医療機関への依存を減らす「予防」という考え方も重要です。デジタルを活用し、医療業界だけでなく国民生活や社会の在り方を変えていくことが「医療DX」となります。

(2)医療DXとは

医療DXとは、保健・医療・介護の各段階において発生する情報やデータを、全体最適された基盤(クラウドなど)を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えることを指します。

医療DXについて
出典:厚生労働省「医療DXについて」

(3)医療DXが目指すもの

医療DXは、
①国民の更なる健康増進、
②切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供、
③医療機関等の業務効率化、
④システム人材等の有効活用、
⑤医療情報の二次利用の環境整備
の5点の実現を目指しています。

(4) 医療DX推進の具体策

① 病院収益改善と資金援助によるインフラ整備

①医療機関が必要なデジタルインフラを整備することが不可欠です。厚生労働省の医療施設調査では、2020年の電子カルテ普及率は一般病院で57.2%にとどまっています。現在では、「電子カルテ情報標準規格準拠対応事業」による医療機関へのシステム導入補助や、医療DX推進体制整備加算・医療情報取得加算などにより、インフラ整備が進んでいます。

医療施設調査
出典:厚生労働省「医療施設調査」

② 法規制の理解とデータ標準化

デジタルデータになることで情報漏洩や情報の改ざんリスクが高まります。遠隔医療や電子カルテの利用及び管理に関する法規制を正しく理解できる環境をつくり、情報セキュリティ体制や学びの機会を用意することが必要です。また、異なる医療機関間でのデータ共有を容易にするよう「3文書6情報」を定めて医療データの標準化を推進しています。

③ 教育と啓発活動

医療従事者向けにはデジタルツールやデータ管理に関する研修プログラムを提供し、スキル向上を促します。また、患者向けには医療DXの利便性や安全性を啓発し、デジタルツールの利用促進を図ります。

2. 医療DX事例

ここからは、具体的な医療DXの事例を「バックオフィス業務の効率化」、「ICT技術を活用した業務の効率化」、「DXカルチャーの定着」の3つに分けてご紹介します。

(1)バックオフィス業務の効率化(デジタライゼーション)

バックオフィス業務の効率化では、「予約システムやアプリによる患者予約・受付の自動化」や「院内回覧及び承認のためのワークフローシステム導入」「文書管理のデータ化と共有」「備品などの在庫管理のシステム化」などが挙げられます。ここでは、ワークフローの事例をご紹介します。

【ワークフロー事例】
ある法人でワークフローシステムを導入し、4つの業務のペーパーレス化を実現しました。特に、院長や部長クラスについては出張や研修が多く、承認作業が滞ることも多かったですが、スマートフォンでの承認も可能となり大きな成果を上げています。
稟議書決裁については、申請から承認、決裁、回覧、完了報告までをすべてワークフロー内で完結させることでリードタイムの短縮を実現しています。また、休暇申請については承認されたデータを表計算ソフトに取り込んで人事担当者が管理・集計することで紙からの入力作業削減に寄与しています。このように、紙のコスト削減だけでなく回覧やデータ転記などの手作業の削減、進捗管理が可能になるなど業務変革が実現されました。

(2)ICT技術を活用した業務効率化(デジタライゼーション・デジタルトランスフォーメーション)

ICT技術の活用は、医療行為、看護や介護といった実務の業務効率化に寄与します。ここでは「スマートホスピタル化」の一例をご紹介します。
【ICTを活用した患者・入居者の管理】

パラマウントベッドが提供するベッドサイドケア情報統合システムは、ベッドサイド端末に患者情報を集約し表示すること、スタッフステーションでも患者情報を表示・確認ができます。電子カルテシステムや他の機器と情報連携が可能で、モバイル端末などからスタッフ全体での情報共有ができます。スマートベッドシステムが目指す姿は「リアルタイムに患者を見守ること」「ケアする人を安心サポート」することとしており、患者に寄り添う時間を創出しています。また「データ活用による新しい価値創造」という観点でも睡眠状態やバイタルサインの蓄積したデータは、ベッドの機能をさらに進化させるための情報としてだけでなく、「病気の早期発見や予防」につながる可能性があります。


出典:パラマウントベット株式会社「ニュースリリース」

(3)病院DX事例(デジタルトランスフォーメーション)

最後に紹介するのは、病院DXによる組織変革を行った事例です。愛媛県にある社会医療法人石川記念会のHITO病院は、「HITOを中心に考え、社会に貢献する」を経営理念に掲げ、患者と働く人の「いきるを支える」ために病院DXを推進しています。
【HITO病院の事例】
HITO病院は、医師全員のiPad所持と音声認識ソフトの活用をしています。記録の入力作業を削減することで患者様の近くにいる時間を増やし、より最適な医療の提供を実現しています。また、1人一台のiPhone導入により、従来の1対1の対面や電話主体のコミュニケーションからの変革も行っています。チームチャットによる場所や時間に縛られない報連相や翻訳機能による外国籍スタッフとの連携によりフラットでオープンな職場環境へと変容しています。このように、医療従事者の働き方の変革だけでなく、今までの慣習に捉われないコミュニケーション連携による組織風土の改革でDXを推進しています。


出典:社会医療法⼈⽯川記念会HITO病院「iPhoneと⾳声⼊⼒が変えるセラピストの働き方改革」

3.さいごに

持続可能な医療の提供や品質の維持には、医療DXは欠かせないものです。アナログ業務がデジタルに置き換わることへの抵抗感や、業務の変革に前向きになれない組織もあるかもしれません。コロナ流行により医療DXは加速しています。この波に乗り遅れないように、まずは現場からできるデジタル化に着手してはいかがでしょうか。

AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
チーフコンサルタント
松永 大樹

給食業界でプレイングマネジャーとして病院厨房の管理から大規模国際スポーツイベントの運営管理担当と多岐にわたるフードサービスを経験し、当社に入社。「現場・現実・現品」の三現主義を軸に、5Sによる業務改善、デジタルを活用した業務効率化やIT化構想支援を行う。顧客とのコミュニケーションを大切にする伴走型コンサルティングスタイルを信条とする。

松永 大樹
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