全社を巻き込んだERPリプロジェクトを通してDXを推進

事例 2025.04.14
全社を巻き込んだERPリプロジェクトを通してDXを推進

創業100年超の電設資材総合商社

武政:

愛知県名古屋市に本社を置く深田電機は、電設資材の総合商社です。今回は現在取り組まれているERPリプロジェクトやDXの推進について、深田理恵社長と深田亜矢子専務にお話しいただきます。まずは会社の歴史についてお聞かせください。

深田社長:

創業は1921(大正10)年です。今日まで細く長く続いており、社歴は100年を超えました。2000年には、「for your life, for our globe」というテーゼを掲げ、皆さまのより良いライフのために、そして私たち地球の未来のためにという目的の下、電設資材の総合商社として環境ソリューションを通して皆さまの幸せや地球環境に貢献したいと考えております。

特に、社員の幸せを実現するには、会社が存続しなければなりません。それには、社会の役に立つことが必要条件ですし、弊社で働く人や関わる人を幸せにできない会社に存在意義はないと私は思います。そうした思いから、社員の幸せはずっと追求しております。

武政:

「for your life, for our globe」はすばらしい言葉です。100年以上続く背景には社員を大切にされる社風も関係しているように思います。今回のプロジェクトは基幹システムの載せ換えが1つの柱になります。既存のシステムは深田社長が構築されたとお聞きしていますが、社長のご経歴やシステム構築の経緯をお聞かせください。

深田社長:

私は1979年に入社いたしました。学生時代にコンピュータの言語を学んだこともあり、会社へのコンピュータ導入に当たって社長だった父から担当するように言われたのです。当時、導入したIBMのSystem/34は自社開発が必要だったため、言語を学んで会計処理や請求書の作成などから開発を始めました。さらに、1995年から1年掛けて基幹システムの開発に取り組み、1日10時間近く開発に費やして「マルチオン」を完成させました。

IBMの部門長会議でマルチオンを発表した際、「これ以上、作り変える必要がない」とまで評価していただきましたが、その言葉の通り、大きな変更を加えることなく30年間使っております。商社のほとんどの業務をコンピュータに載せたことは、弊社にとって大きな転機となりました。

独自開発の基幹システムを30年ぶりに一新

武政:

今回、リプロジェクトを決断された理由をお聞かせください。

深田社長:

マルチオンは30年前のシステムがベースですから、端末の画面が見づらいことが1つ。また、お客さまのインターフェースともっとオープンにつながる仕組みの必要性を感じていました。そこで、前職のリクルートでシステムのプロジェクトマネジャーも務めた経験を持つ深田専務にお願いしました。

武政:

深田専務はずっとシステムを担当されてきたのでしょうか?

深田専務:

前職でシステムエンジニアを経験し、2010年に深田電機に入社しました。人手不足だった総務と経理を兼任し、給与計算や振替伝票の起票、就業規則の改定などを行っていましたが、基幹システムのリプレイスを担当することになりました。

2019年にウェブ注文の機能を備えていたSalesforceを導入しましたが、スクラッチで作るにはSalesforceの機能が多すぎる点や勘定科目との連携が難しく上手くいきませんでした。その経験を活かし、よりカスタマイズした形で導入できる販売管理・業務管理のパッケージソフトの検討を重ね、最適なシステムを選定しました。

武政:

システムの載せ換えに当たって、どのような課題がありましたか?

深田専務:

マルチオンは非常に多機能です。問屋に必要な機能をすべて備えてはいますが、30年間大きな仕様変更がないまま使われてきたことで支障が出ていました。例えば、項目1つとっても営業所や人によって使い方が違っており、その要件定義を社内だけでやり切るのは困難でした。

今はタナベコンサルティングやシステムベンダー企業と一緒に取り組んでいるところですが、コミュニケーションを取る中で卸売業の業界についてきちんと理解されていると感じています。2社のお力をお借りして一番の山場である基幹システムの要件定義をやり遂げたいと思っています。

営業本部を巻き込んでERPリプロジェクトを推進

武政:

ありがとうございます。要件定義が始まった段階ですが、プロジェクトの進捗についてご感想をお聞かせください。

深田社長:

非常に熱心に対応していただき順調に進んでいると思います。

深田専務:

私も順調に進んでいると思います。前回のSalesforce導入時と今回の大きな違いは、選定の過程を丁寧に進めたこと。多くのプロダクトを実際に見て、納得した上で選定しました。

もう1つは体制の違いです。前回はシステムのメンバーだけで動いており、ほかの部門の役員や営業所の協力を仰ぎづらい面もありましたが、今回は社長や営業本部が最初からメンバーに入るなど、全社的な体制でプロジェクトが進んでいます。営業本部も今回のシステム移行を自分事として捉えており、全社的に協力ムードが高まっています。

武政:

全社で取り組むことで成功に近づきます。プロジェクトメンバーとして参画することで、みんなが腹落ちした中で意思決定できています。営業本部が関わることで、今後の全社展開においても率先して活用してくれるのではないかと思います。

深田社長:

プロジェクトメンバーが力を十分に発揮できるかが、新システムが成功するか否かに大きく関係します。落とし込みの段階で多くの意見が出るほど完璧なシステムに近づいていきますが、それにはメンバーをどれだけ巻き込めるかが重要になります。タナベコンサルティングにご協力いただきながら意見を言いやすい雰囲気をつくっていきたいと考えています。

武政:

メンバーを巻き込む際に特に重要なポイントが3つあります。1つ目は一体感の醸成。2つ目は目的を伝え続けること。迷ったときや議論になったときに必ず目的に立ち返るような議論に導くことが大事です。3点目が客観的な視点。調査をして多くの情報を集めてファクトをもとに会話をする。弊社としては、この3点を徹底しています。

営業本部を巻き込みながらプロジェクトを実施されています。最初の段階から全社を巻き込んでいくポイントや工夫があればお聞かせください。

深田専務:

Salesforceへの移行が上手くいかなかった大きな要因は、システム担当者だけでやり切ろうとしてしたこと。ですから、今回は明確な意思を持って他部署を巻き込んでいきました。例えば、タナベコンサルティングへの発注が決まった段階から営業本部にも会議に参加してもらい、そのままメンバーに入ってもらいました。

最初の会議はシステムの選定の段階であり、専門用語が飛び交うフェーズでした。このため、営業本部は同席するだけになってしまうことは分かっていましたが、あえて参加してもらいました。Salesforceの導入時は営業本部に同席してもらうことを遠慮してしまい、最後まで上手く巻き込むことができなかったからです。

今回、タナベコンサルティングから営業本部に直接声を掛けていただいたことも良かった点です。そのお陰でプロジェクトメンバーに入ってもらえたのではないかと思います。

武政:

確かに提案段階から営業本部が同席されていました。早い段階から参加してもらうことが1つポイントと言えます。

プロジェクトでは、全体セッションと個別セッションの両面から理解を深めていきました。セッションでは、やり方が変わることへの不安の声もお聞きしましたが、一方で非常に前向きな意見も多く出ていました。それも含めて最初から一緒にスタートできたこと、さらに会社のミッションを共有しながらプロジェクト組成できたことは良かったと思います。

シンプルな仕組みで業務効率化と顧客満足向上へ

武政:

2025年3月からシステムベンダー企業も加わり、全体でキックオフして要件定義が始まりました。新システムの導入によって、社員が働きやすくなり、お客様サービスの向上につながり、利便性も上がります。今後の展望やプロジェクトに期待することをお聞かせください。

深田社長:

業務において、無駄なことややり方を変えることで効率化できる部分は必ずあります。今のシステムをそのまま載せ換えるのではなく、簡素化すべき部分は簡素化してより使いやすいものにしてほしいと思っています。なるべく手間を省いたシンプルな仕組みが一番ですから、業種特化型システムのパッケージにはめていく方が後々使いやすいのではないかと考えています。

武政:

業務を洗い出した上でより良い形に効率化し、その要件を定義すること重要です。パッケージはある意味でベストプラクティスですから、そこに当てはめていくのも1つの方法です。一方、業務に合わせてシステムをカスタマイズしながら効率化する方法もありますが、仕組みが複雑化することは避けられません。専務はどのようにお考えですか?

深田専務:

まずは要件定義を確実にやり遂げることが最重要課題であり、できる限り業種特化型パッケージシステムの標準機能に合わせた形で業務整理をして、要件定義を終える。それを当面の目標として取り組んでいます。

私自身、入社してからずっと課題に感じているのは受注の手順です。現状は、お客さまのオーダーを紙の受注メモに記入し、それをメーカーの発注

システムに打ち込み、さらに弊社の基幹システムに打ち込んでいます。全く同じ情報を3度、記入や入力するのは生産性の面でも問題ですし、今回のプロジェクトで効率化したいと思っています。

武政:

3倍の時間と手間が掛かる上にミスのリスクも高まります。先ほど深田社長が指摘されたシンプル化の理由もそこに尽きると思います。

DXへの理解が会社の将来を左右する

武政:

支援の重点として検討を進めて参ります。2025年2月にDX認定を取得されました。取得した意図や取り組みについてお聞かせください。

深田専務:

武政さんと最初にお会いした際、名刺に印刷されたDX認定のマークについてお聞きしたのがきっかけです。そこから愛知県のデジタル人材育成事務局の個別相談を1年間受ける中、DX認定取得を勧めていただき挑戦しました。

武政:

取得によってどんなメリットがありましたか?

深田専務:

まず、現段階で取得企業数が少ないため、DX認定取得企業として目立ちます。また、税制優遇も魅力でした。今回のプロジェクトでシステムの入れ換えが控えていたことも挑戦した理由の1つです。また、メリットとしては、認定取得によって弊社の現状を再確認できたことも良かったですね。課題を認識することができました。やはり一番のネックは基幹システムの載せ換えであり、ここを達成しないと何も進まないと痛感しました。

武政:

DX認定取得は、ステークホルダーへの訴求などブランディングにつながります。反響はありましたか?

深田専務:

一般財団法人関西情報センターが主催する「関西CIOカンファレンス」のパネリストとして参加しました。お声掛けいただいた理由として、DX認定を取得していたことが大きいのではないかと思います。

深田社長:

AIやITをかいかに活用していくかが成長するか否か、あるいは生き残れるか否かを左右する重要な要素になると、専務とも常々話をしております。そうした中、専務が先頭に立ってDX認定取得してくれたことを嬉しく思っていますし、非常に助かっています。

DX認定取得に際して宣言したのは、社員の幸せ、お客様の幸せにつながるDXの推進です。ITやロボットの活用が人の助けになり、余裕が生まれて幸せにならないと意味がありません。DX化によって、みんながどれだけ幸せになれるかを追求していきたいと思います。

武政:

ありがとうございます。DXやデジタルとの向き合い方にも通じる素晴らしいお話です。最後、DXとの向き合い方について、今回の取り組みも踏まえて感想をお聞かせください。

深田専務:

これからの時代、経営層がDXについて理解を深めていくことが重要だと痛感しています。弊社においても、営業本部も含めて役員がDXリテラシーを身に付けていかないと経営判断ができない時代になっています。業種やこれまでの経歴を問わず、会社経営とってDXへの理解と推進が必要だと考えております。

深田社長:

全く同感です。DXは会社の将来を左右することを、経営者はしっかりと認識しないといけません。とは言え、専門家ばかりではありませんから、専門家の助けをどんどん借りながら取り組んでいくことが大事だと考えております。

武政:

システムは日々進化しています。専門家とパートナーシップを組みながら、目的を果たすためにDXを進めていくことがますます重要になっていくと私共も考えております。本日はありがとうございました。

AUTHOR著者
上席執行役員
デジタルコンサルティング事業部
武政 大貴

財務省で金融機関の監督業務や法人企業統計の集計業務などを担当後、企業経営に参画したのち当社に入社。実行力ある企業(自律型組織)構築を研究テーマとして、見える化手法を活用した生産性カイカクを中心にコンサルティングを実施。生産性の改善を前提に、DXビジョン、IT構想化、ERP導入支援及びSDGs実装支援など世の中の潮流にあわせたコンサルティングメソッドを研究開発しながら実行力ある企業づくりにおいて高い評価を得ている。

武政 大貴
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