人事コラム
戦略人事のビジョンとは?経営に貢献する人事部門への変革ステップ
ビジョンを語れる人事部門が、経営と現場をつなぐ強いリーダーを育てる。
戦略人事(HRBP)の定義から人事ビジョンの策定・浸透まで、経営貢献を目指す人事責任者が押さえるべき変革の視点と実践ステップを体系的に解説します。
人事が企業価値を創る時代。戦略人事の力で自社を変革しよう。
戦略人事(HRBP)とは?従来の人事管理との違い
戦略人事とは、経営戦略の実現を目的として、人事施策を経営と一体的に設計・実行するアプローチを意味する。英語では「Strategic Human Resource Management(SHRM)」と呼ばれ、人的資源を組織の競争力の源泉として位置づけられており、近年では多くの企業で導入、または導入検討がされている。
従来の人事部門は、採用・給与計算・労務管理といった定型業務を担う「管理機能」が主業務であると認識されてきた。これに対し、戦略人事では人事部門が経営の意思決定に直接関与し、事業成長を人材・組織の面から能動的に支える役割を担う。
この考え方を体系化したのが、HRBP(Human Resource Business Partner:HRビジネスパートナー)という概念である。HRBPは、経営層や事業部門のパートナーとして、組織課題の可視化・人材戦略の立案・変革の推進を担う機能を有するのである。
端的に整理をすると、従来の人事が「依頼を受けて動く」受動的な存在であったのに対し、HRBPは「課題を自ら発見し、解決策を提案する」能動的な存在と言えるだろう。この違いが、経営への貢献度を大きく左右するのである。
日本では生産年齢人口の減少が続いており、人材確保の難易度は年々高まっている。こうした社会環境の変化が、戦略人事への転換を促す背景の一つになっている。
人事部門が「ビジョン」を掲げるべき理由と経営戦略との関係
人事部門がビジョン(目指す姿)を明確に持つことは、経営戦略との連動を実現するうえで不可欠といえる。ビジョンのない人事部門は、個別施策の積み上げに留まり、組織全体の方向性と乖離するリスクがあるからである。
経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート」では、経営戦略と人材戦略の連動が企業価値向上の重要な要素として示されている。同レポートは、経営陣が主体となって「企業理念・パーパスの明確化」「達成すべき目標の設定」「重要な人材アジェンダの特定」「定量的なKPIの設定」という4つの取り組みを推進することが提言されている。
人事部門のビジョンは、こうした経営の意図を人材・組織の言葉に翻訳したものといえる。「どのような人材を育て、どのような組織をつくるか」という問いに対する答えを、人事部門が自らの言葉で語れるかどうかが、戦略人事への変革の一丁目一番地として認識されたい。
戦略人事に求められる3つの視点
戦略人事を実践するうえで、人事部門には以下の3つの視点が必要だ。
①経営視点:事業戦略を人材戦略に翻訳する力
経営が描く中長期の目標を、「どのような人材が何人必要か」「どのようなスキルを育成すべきか」という具体的な人材要件に落とし込む力である。経営の言語と人事の言語を橋渡しできる人事部門だからこそ、経営視点に沿った具体的な戦略立案の視点が求められる。
②現場視点:組織の実態を可視化する力
現場の課題を定性・定量の両面で把握し、経営層に対して根拠ある提言を行う力である。エンゲージメントの状態、スキルギャップ、離職傾向などのデータを活用し、組織の健全性を継続的にモニタリングすることが求められる。
③変革視点:組織を動かし続ける力
人事諸制度を設計するだけでなく、変化を組織に定着させる全社牽引力である。新しい人事施策は、現場の理解と経営のコミットメントが揃って初めて機能する。人事部門が変革の推進役として機能するためには、様々な階層・部門と対話を繰り返しながら各関係者を牽引していくことが求められる。
この3つの視点は、それぞれ独立した視点ではなく、相互に補完し合うものである。どれかひとつが欠けると、戦略人事の実効性は大きく損なわれるため、現時点の有効度を確認してもらいたい。
人事ビジョン策定のプロセス
人事ビジョンを策定するプロセスは、大きく4つのステップで整理できる。
ステップ1:経営戦略の読み解き
まず、自社の中長期経営計画や事業戦略を深く理解することから始める。「どの市場で、どのような価値を提供し、どのような組織で戦うか」という経営の意図を、人事部門が自分の言葉で語れるレベルまで咀嚼することが出発点だ。経営戦略の認識ギャップが生じるとその後の人事ビジョンの妥当性が担保されない。
ステップ2:現状の人材・組織の把握
次に、現在の人材ポートフォリオ(保有スキル・人員構成・育成状況など)と、経営戦略が求める人材像とのギャップを明確にする。このギャップが、人事ビジョンの核心的な課題となる。ただしこのフェーズは人事部門だけで完結できないことも多い。各部門を巻き込みながら、正しい実態の把握が求められる。
ステップ3:ビジョンの言語化
把握した課題をもとに、「人事部門として何を実現するか」を簡潔かつ具体的な言葉で表現する。抽象的なスローガンではなく、経営層・現場社員・採用候補者のいずれにも伝わる言葉で語れることが重要だ。別の表現では人事ポリシーや人材マネジメント方針などと表現されるケースもある。ある製造メーカーでは人事ビジョンとして、人材採用・人材育成・人材活躍・人材定着の4つの視点で整理をした。例えば、人材採用であれば「会社の価値観と組織風土に共感し、更に高められることが期待される人材を採用します。」というような形である。この人事ビジョンにしたがって、具体的な施策を展開する。
ステップ4:KPIの設定とモニタリングルールの仕組み化
ビジョンの実現度を測る指標(KPI)を設定し、定期的に進捗を確認・見直す仕組みを最後に検討する。人事ビジョンは一度策定して終わりではなく、経営環境の変化に応じて継続的にアップデートされるものである。
経営層・現場社員へのビジョン浸透とコミュニケーション
人事ビジョンを策定しても、それが組織に浸透しなければ意味をなしえない。浸透のカギは、「誰に」「何を」「どのように」伝えるかを押さえることだ。
まずデータと論理で語る経営層に対しては、人事ビジョンが経営戦略の実現にどう貢献するかを、定量的な根拠とともに示すことが有効と言える。感覚的な訴えではなく、人材ギャップの現状・施策の優先順位・期待される成果を論理的に説明することで、経営層のコミットメントを引き出すことができる。
次に現場社員に対しては、「なぜこの人事施策が自分のキャリアや仕事に関係するのか」を、具体的なストーリーとして伝えることが重要である。またそのストーリーが社員の共感を生むように工夫しなければならない。単なる人事諸制度の説明にとどまらず、「この組織でどのようなキャリアが描けるか」という未来像を示すことで、社員の能動的な意欲を引き出すことができる。
最後にビジョンの浸透は、一度の説明や施策導入だけで完結するものではない。1on1・タウンホールミーティング・社内報など、複数のチャネルを組み合わせ、繰り返し・継続的に発信する仕組みを設計することが求められる。
以上のように、人事部門が自らが経営戦略と連動したビジョンを語り続けることが、組織全体の変革を後押しする原動力となるのである。またそれらの活動がHRBP力を高め、戦略人事へと変革するための必須要素として認識されたい。
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