なぜホールディング経営が選ばれるのか?
団塊世代からジュニア世代へ
- ホールディング経営
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本コラムは、ダイヤモンド社発行の「ホールディング経営はなぜ事業承継の最強メソッドなのか」の第1章の記事です。
ピークを迎える事業承継
「60歳を超えたら、経営者は次の世代にバトンタッチすべきだ」
ある中堅ハウスビルダーの創業社長(六一歳)が自らに言い聞かせるように話す。
顧客層が世代交代しているのに、経営者が古い価値観のままでは、多様化しながら絶えず変化するニーズにキャッチアップできない、というのである。メールやSNSで顧客とコミュニケーションを取る若い営業社員に対し、「営業とは、顧客と直に会って対話するものだ」などと古い考え方を一方的に押しつけるようでは、今の時代に経営者は務まらない。確かにその通りかもしれない、と筆者も思う。
この会社は創業して20年余りだが、顧客と真摯に向き合う経営で信頼を獲得。年商も50億円を超える規模に成長した。今後は、厳しいマーケットで生き残るためにも地域ナンバーワンのポジションを目指すという。そして、その主役を創業世代ではなく、主に40代のリーダーを中心とした後継者世代に託そうとしている。理由は右に述べた通りだ。そして、この会社もホールディング経営を目指している。創業者に子息はいるが後継者としては定めず、所有と経営を分離して社員から社長を選び、事業経営を任せていこうという考えである。
還暦を過ぎたら「後継者を誰にすべきか」と考え始めるのは自然な成り行きであろう。しかしながら、現代の日本には後継者が不足している現実があり、多くの経営者が頭を悩ませている。経済紙も、「後継者不足で大廃業時代が訪れる」と警鐘を鳴らす。そして東京・大田区や東大阪市の製造業者などが引き合いに出され、「技術承継を急がなければ、モノづくり大国日本の未来は暗い」と問題提起する。経済産業省の推計によれば、2025年には120万社以上が後継者不在の状態になるのだという。事業承継は、もはや一企業やオーナー経営者個人レベルの問題ではなく、転換期にある日本経済の行く末を左右する大きなファクターになっているといえるのだ。
後継者不足はオーナー経営の事業承継を先送りさせ、経営者自身が高齢化するという問題につながる。コトはより深刻化するのだ。先の経済産業省の試算では2025年に6割以上の経営者が七〇歳を超えるという見通しである。また、中小企業庁の「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年)の結果を見ても、経営者の平均引退年齢は明らかに高くなっている。データでは30年以上前の平均引退年齢が60代前半であったのに対し、近年は60代後半から70代に差し掛かっていることが分かる(図表2)。
この70歳前後の世代は、第二次世界大戦後の第一次ベビーブーム(1947~1949年)に生まれた、いわゆる"団塊世代"と一致する。団塊世代は日本の人口のボリュームゾーンを構成し、戦後の高度経済成長を牽引した立役者といえる世代である。その世代の経営者が一斉にリタイア期に差し掛かっているのがまさに今の潮流であり、言い換えれば"事業承継はピークを迎えている"。このピークはこれから2020年ごろまで続く、と筆者は見ている。「2020年以降に景気の崖が来る」。そんな想定をしている経営者は多い。2020年東京オリンピック・パラリンピック後に景気が低迷することを過去の歴史が物語っているからだ。
しかし本当に景気の低迷期が到来するのか?
ここでそれを議論するのは不毛であろう。むしろ悲観的な想定のなかで、最善の準備をしようと考えるのが健全である。団塊世代の経営者であれば、当然その準備のなかに事業承継も含まれてくる。どんなに逆風であっても企業は常に成長していかなければならない。その持続性を次世代に託しながらも、逆風が吹く前に万全の備えをしておく必要があるのだ。
経営のバトンを受け継ぐのはどんな世代だろうか。
それは第二次ベビーブーム(1971~1973年)に生まれた"団塊ジュニア世代"であるだろう。今ピークを迎えている事業承継は、「団塊世代から団塊ジュニア世代への承継である」といってよい。団塊世代が高度経済成長期の立役者であったとするならば、ジュニア世代はバブル経済崩壊後の低成長期に社会人デビューした、いわゆる"ロストジェネレーション"である。筆者も一九七二(昭和四七)年生まれのジュニア世代であるため、"ロスジェネ"ぶりは実体験として持っている。大学受験などの進学時には受験者数が多いため競争は熾烈を極め、頑張って大学に入ってもバブル経済が崩壊して、今度は就職氷河期に見舞われた。まともに就職せず「手に職を」と資格取得に走ったり、大学院に進学する学生が増えたりしたのもこの世代である。
社会人になっても世の中は"失われた10年"の状況で、バブル以前には考えられなかった大型倒産が相次いだ。"失われた10年"はいつの間にか"失われた20年"といわれるようになり、その間にリーマン・ショックなど、100年に一度といわれる経済危機も体験した。先輩からは「考える前に動け」と教わったが、頑張って汗をかいても思うように成果は出せず、「考えながら動く」ように変化していく過程のなかで、ビジネスパーソンとして成長していったように思う。
そんなジュニア世代も、すでに40代半ばに差し掛かっている。会社では中核を担い、多くがリーダーとして、またマネジャーとして活躍している。オーナー企業では、ジュニア世代の後継経営者も続々と誕生している。経営の主役は確実に世代交代をしているが、ここで注目すべきは、それに伴って経営の価値観も変化しているということである。団塊世代は日本経済の"成長期"に社会に登場したが、団塊ジュニア世代は〝成熟期〟しか知らない。
成熟期における価値観のキーワードは、「多様性」にあるだろう。成長期の価値観はとかく画一的になりがちだが、むしろそのほうがスピード感があってよかった。しかしながら成熟期になるとモノやサービスが溢れるため消費者のニーズや嗜好も多岐にわたるようになるし、働き方も多種多様だ。20年前にテレビCMで流行した「二四時間戦えますか?」という働き方を画一的に押しつけてしまうと、いまや〝ブラック企業〟のレッテルを貼られてしまう時代なのである。
話を本書のテーマであるホールディング経営に戻そう。ホールディング経営が次世代の経営スタイルとして選ばれるようになっているが、その理由も「多様性」と深く関係がある。ビジネスモデルや組織カルチャー、そして働き方などの多様性を包含するスタイルであることが、ホールディング経営の一つの魅力になっているからである。一つのビジネスモデルに固執するとやがて陳腐化していくし、あるいはもうすでに陳腐化している。またトップダウン一辺倒の組織では社員のモチベーションが上がらず、成長もしない。
先に紹介した中堅ハウスビルダーは、地域ナンバーワンのポジションを取るというビジョンを掲げるが、その背景には「縮小マーケットのなかで存続するには一番になるしかない」という創業者の強い危機感がある。顧客のニーズも多様化しているため、ホールディング経営体制のもと、複数のブランドを一つ一つ分社化し、それぞれに社長を置いて顧客と向き合った自由度の高い経営をしてもらいたいと考える。地域ナンバーワンというのは、グループ全体のビジョンであり、それをホールディングカンパニー(持ち株会社)から打ち出す。そして、その傘下にぶら下がる事業会社各社が多様化する顧客ニーズやその変化にフレキシブルに対応していく。それが、同社の創業者が理想とする未来図なのである。
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