1.小売業界の現状
みずほ銀行が日本産業の未来を予測した調査報告書によると、2050年にはEC化率は39%に達すると予測されています。日本でECが始まったとされるのは1995年であり、Windows95がブームになっていた頃です。これが2022年には9.13%に拡大し、およそ10%到達まで27年かかっていた計算になります。そして2050年にはこのEC化率は約40%まで増えると予想されています。
ECが加速する理由は人口減少、人口動態などの影響も大きく、消費の中心を担う15~64歳は2020年の7406万人から2050年には5275万人まで減少します。一方で2050年の消費者は全世代でデジタルに違和感を持たない、デジタルネイティブな親和性の高い世代に移ります。そのため、消費は一気にデジタル化が進むと予想できます。
なお、人口減少の影響で小売業販売額は2020年の120兆円弱から2050年には約100兆円まで減少すると予測。また、EC化率の進行と同時に実店舗面積の圧縮も進み、2050年には2020年比で約30%圧縮されるとみずほ銀行は予測しています。
(「2050年の日本産業を考える ~ありたき姿の実現に向けた構造転換と産業融合~」
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/1070_05.pdf
みずほ銀みずほ産業調査 Vol. 70)
2.EC活用によるDX戦略の目的/重要性とは
みずほ銀行の予測する購買行動には次のような記載があります。「2050年に向かう過程で、食料品・日用品といった『非自発的な作業としての購買』は限りなく自動化され、買い物にかける時間は短くなる。」
2020年で3.3%だった食品EC化率は2030年に10%台となり、2050年には39.6%に達することが予想されています。最近のAmazonのTVCMでも食料品・日用品の訴求が強くなっていること、また配送パートナー募集のCMも同様に増えていることから、今後は非食料品にもEC化はますます高くなっていくでしょう。そのためEC市場の大きな発展にともない、宅配便の取扱個数も大きく増加することが予想されます。
国土交通省が発表した2022年度(2022年4月~2023年3月)の宅配便の取扱個数は50億588万個ですが、2050年には110億個を大きく超える可能性があります。
2030年までの短中期的には物流需要が物流供給を上回り、物流コストのインフレ影響が増大する一方、ドローンや自動化技術の発展により輸送の状況も大きく変わるでしょう。
そのため自社に合わせた物流パートナーを選ぶことが重要になってきます。
(「2050年の日本産業を考える ~ありたき姿の実現に向けた構造転換と産業融合~」
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/1070_05.pdf
みずほ銀みずほ産業調査 Vol. 70)
3.小売業でのEC活用によるDX推進のメリット
(1)オンライン販売による販路拡大
いつでも、どこでもスマートフォンの画面から顧客が必要な商品を注文できるため、これまで販売できなかった場所や地域への販売が可能となります。
(2)売上管理の迅速把握
実店舗の場合はPOSシステムがあるものの、レジ締めといった作業は人の手でおこなわれている状況はまだまだあります。ECでは管理画面上で売上の状況がリアルタイムで把握でき、また過去との比較も容易におこなうことが可能です。これにより目標に達していない場合は迅速な施策を行うことができます。
(3)人手不足に対する生産性向上
例えば実店舗では人が接客など店舗運営オペレーションを対応する必要があり、人件費・テナント料など一定の固定費が発生します。一方でECの場合はWebサーバーやドメイン、カートシステムの使用料などで抑えられるため、大幅な圧縮につながります。
4.小売業におけるECによるDX戦略の具体的な取り組み事例
(1)越境による販路拡大
ECにより販売地域が大きく拡大できますが、これは日本だけでなく海外も当てはまります。今後人口減少にともない市場が縮小していく中、海外への販売ルートを確立することで日本国内以上の売上を確保することも可能です。この場合越境ECに対応したプラットフォームを確立する、販売力のあるディストリビューターをパートナー選定することが必要となってきます。
(2)購買データに基づくプロモーション計画、新商品開発
ECでの販売により、顧客の地域、興味関心、購買行動に至るまでの期間といったデータを収集することができ、販売のためのプロモーション最適化に向けたデータ収集が可能となります。また商品の購買傾向から顧客最適の商品開発をするヒントを探ることもできます。
5.ECによるDX戦略を成功させるためのポイント
(1)売上の方程式を理解する
ECでの売上を伸ばすためにはどのように成り立っているかを把握する必要があり、下記の式で表すことができます。
「売上 = アクセス数(集客)× 購入率(CVR)× 客単価」
アクセス数は商品を購入する母数の数で、購入率(CVR)はECへの訪問顧客のうち何%が購入に至っているかの割合、客単価は顧客1人あたりの平均単価を表します。これらを把握することで、アクセス数は十分であるものの購入に至っていない場合、購入率に課題があると判断することができます。
(2)自社の商品特性・販売チャネルに合わせたECプラットフォームの選定
自社で販売したい商品特性によりビジネスモデルが異なります。例えば化粧品や健康食品などはリピート販売が前提となるため、リピート販売の機能を実装したECカートシステムを選定する必要があり、商品点数が多い場合は運用管理が容易なECカートシステムを選ぶ必要があります。
(3)販売のためのプロモーション施策
ECサイトを立ち上げただけでは顧客への認知・集客はできないため、大きく4つの方法を実施する必要があります。
① Paid Media(広告)
Google広告、Yahoo広告やMeta広告など、費用を支払うことで集客を行う手法です。開始と同時に一定数の集客効果が期待できるメリットがありますが、効果を持続するために費用を払い続けるといったデメリットがあります。
② Earned Media(パブリシティ)
口コミサイトやPR(プレスリリース)などから集客を行う手法です。第三者からの情報発信や掲載審査により、情報の信頼性が高くなるメリットがありますが、必ずしも掲載されるとは限らないといったデメリットがあります。
③ Shared Media(消費者・生活者のSNSやブログ)
消費者・生活者からのSNS発信により集客を行う手法で、情報拡散の機会があれば一気に集客が見込めるメリットがあるものの、発信する情報のコントロールができないため炎上リスクといったデメリットがあります。
④ Owned Media(自社ウェブサイトや公式SNSアカウント)
コラムによるSEOや自社SNSからの情報発信で集客を行う手法です。発信する情報のコントロールができるメリットがあるものの、情報の拡散力が弱く効果が出るまでに時間がかかるといったデメリットがあります。
上記は「PESOモデル」とも呼ばれますが、それぞれの手法にメリット・デメリットがあるため、バランスよく組み合わせて実施することが重要です。
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