STUDY

マテリアリティ(重要課題)の必要性。その概要から特定プロセスを解説

大山 賢一郎

本プログラムの執筆者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング
チーフマネジャー

大山 賢一郎

広報支援活動をはじめ、ノベルティー・販促商品の企画提案などに従事。 実務で培った顧客管理手法やコミュニケーション手法を基にした営業コンサルティングを展開。 また、クライアントの立場に立った教育体系づくりも、多くの企業から高い評価を得ている。

マテリアリティとは

世界には様々な課題があります。取り組むべき課題として、世界で一番注目されているのはSDGsではないでしょうか。
例えばSDGsには

"1.貧困を無くそう"
"2.飢餓をゼロに"
"3.全ての人に健康と福祉を"

等の持続可能な開発のための目標17項目あり、更にその下に

"2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。"
"2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、全ての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる。"
"各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、2030年までに貧困層及び脆弱層に対し十分な保護を達成する。"

などの169のターゲットと更にその指標として

"国際的な貧困ラインを下回って生活している人口の割合(性別、年齢、雇用形態、地理的ロケーション(都市/地方)別)"
"各国の貧困ラインを下回って生活している人口の割合(性別、年齢別)""各国の定義に基づき、あらゆる次元で貧困ラインを下回って生活している男性、女性及び子供の割合(全年齢)"

など232項目が設定されています。

これらの社会的な課題に、企業としても取り組んでいかなければなりませんが、当然、すべての項目に取り組むことは不可能であります。そこで重要なのは"マテリアリティの設定"です。

マテリアリティとは、企業が優先して取り組むべき「重要課題」のことであり、企業活動による社会課題への影響度合いを評価し、優先順位をつけ「企業としてそれぞれの課題をどの程度重要と認識しているか、また、どのように取り組んでいるのか」を分かりやすく示すものです。

例えば、通信事業等を手掛けるソフトバンクでは、

"DXによる社会・産業の構築"
"人・情報をつなぎあたらしい感動を創出"
"オープンイノベーションによる新規ビジネスの創出"
"テクノロジーのチカラで地球環境への貢献"
"質の高い社会ネットワークの構築""レジリエントな経営基盤の発展"

を6つのマテリアリティを設定しており、それらはSDGsの開発目標である

"4.質の高い教育をみんなに"
"5.ジェンダー平等を実現しよう"
"7.エネルギーをみんなに。そしてクリーンに"
"8.働きがいも経済成長も"
"9.産業と技術革新の基盤を作ろう"
"11.住み続けられるまちづくりを"
"12.つくる責任、つかう責任"
"13.気候変動に具体的な対策を"
"16.平和と公正をすべての人に"
"17.パートナーシップで目標を達成しよう"

に紐付けられています。このように"マテリアリティ"の設定と発表をすることにより、環境や社会にも配慮するために何を重視しているのかを、ステークホルダーに明確に示す役割を持っています。

参照:ソフトバンク HP
https://www.softbank.jp/corp/sustainability/materiality/

マテリアリティの必要性~重要度の増す非財務指標~

マテリアリティの重要性が増した背景には、非財務諸表への注目が高まったことが挙げられます。企業の成功を評価する際、従来は財務指標(収益、利益、キャッシュフローなど)が主に使用されてきましたが、近年では非財務指標の重要性が増しています。
これらの指標は、企業の持続可能性、社会的責任、従業員の幸福度など、従来の財務指標だけでは捉えきれない重要な側面を示し、継続的な成長のために、とても重要な指標として注目度が増しています。

とはいえ現状は、財務諸表のように国際標準的なガイドラインが定まっているわけでは有りません。

代表的なガイドラインとしては

"IIRC(International Integrated Reporting Council(国際統合報告評議会))"
"SASB(Sustainability Accounting Standards Board(サステナビリティ会計基準審議会))"
"GRI(Global Reporting Initiative))"
"ISO30414"

などがあります。それぞれの特徴として

IIRCの特徴としては、

「統合思考(Integrated Thinking)」
「指導原則(Guiding Principles)」
「内容要素(Content Elements)」

という考え方があります。

統合思考は様々な情報が統合して開示されるだけでなく、報告書作成のプロセスを通じて「統合思考(組織内の様々な事業単位及び機能単位と、組織が利用し影響を与える資本との間の関係について、組織が能動的に考えること)」が組織内に浸透することで、企業の行動が変化し、企業価値が向上することを目的としています。

指導原則は報告書作成と表示の基礎となる「指導原則」(戦略的焦点と将来志向、情報の結合性、ステークホルダーとの関係性、重要性、簡潔性、信頼性と完全性、首尾一貫性と比較可能性)を設定しています。

国際統合報告フレームワークでは、報告書に含まれるべき情報を「内容要素」として示しています。各内容要素は、本来的に相互に関連しており、相互排他的なものではありません。
また、これら相互の関係と、中長期的な価値創造プロセスを示しているのが「価値創造プロセス」です。

参照:https://www.jpx.co.jp/corporate/sustainability/esgknowledgehub/disclosure-framework/04.html

SASBの特徴は業種ごとに企業の財務パフォーマンスに影響を与える可能性が高いサステナビリティ課題を特定している点にあります。
SASBスタンダードでは、企業のサステナビリティを分析する視点として、環境、社会資本、人的資本、ビジネスモデルとイノベーション、リーダーシップとガバナンスと、それに関係する26の課題カテゴリー(General Issue Category)を設定している点にあります。

GRIの特徴は報告主体が経済、環境、社会に与えるインパクトを詳細に開示する必要がある点です。また、GRIスタンダードは、モジュール式になっており、報告主体が自分の事業に関連するトピックを選択できるようになっています。

ISO30414の特徴は人的資本(従業員のスキル、能力、モチベーションなど)に焦点を当てた持続可能性報告のガイドラインである点です。主に組織の人的資本に関する情報の評価と報告に関する手法を提供しています。
この標準は、組織が人的資本に関する評価と報告を行う際の指針を提供し、透明性と信頼性を向上させるための方法に焦点を当てています。

このように様々な国際基準があり、マテリアリティを特定、特に課題の洗い出しの際などに参考にすることができます。

マテリアリティの特定の5ステップ

マテリアリティを特定するに当たって必要な手順は

1.課題のリストアップ
2.課題の優先順位付け
3.マテリアリティの特定
4.事業戦略への取り組み
5.定期的な見直しと更新

という5つのステップを踏むことをおすすめします。

1.課題のリストアップ

マテリアリティの特定のファーストステップは、課題の洗い出しです。課題を洗い出す上で、大切な視点は2点あります。

1つ目は、顧客だけでなく組織に関連するあらゆるステークホルダー(利害関係者)を認識・理解することです。(ステークホルダーとは株主・経営者・従業員・顧客・取引先のほか、金融機関、行政機関、各種団体など、企業のあらゆる利害関係者を示します。)

2つ目は、バリューチェーン全体をカバーする広い視点で行うことです。つまり、原材料の確保、製造、販売など顧客に届くまでの様々な段階を視野に入れる必要があります。
このようなとても幅の広い視点から、現在自社の関わる部分または、今後関わっていく部分の環境課題などを洗い出します。

2.課題の優先順位付け

課題を洗い出したら取り組むべき課題に対し優先順位を付ける必要があります。
2軸でマッピングを行うことをおすすめしております。
例えば、食品メーカーB社は縦軸に

"社会にとっての重要度"
"事業にとっての重要度"

の切り口で課題をマッピングをし、C社は"社会からの注目度""当社の取組の優先度"で組んでいます。このように"社会"と"自社"の必要性の2軸で取り組んでいる企業が多いです。
また、C社ではプロットに当たって同業社や主な顧客、アンケート調査(情報サービス企業を活用)の動向、および、CSR・ESG 戦略委員会でのアンケート調査をもとに検証しています。

このようにステークホルダーとの対話とコラボレーションは、マテリアリティの特定において鍵となります。ワークショップ、アンケートなどの手法を活用して、ステークホルダーと直接的な意見交換を行います。これにより、ステークホルダーにとって重要なテーマが浮き彫りになります
。また、自社にとっての重要度については、自社の理念、ミッション、パーパス、MVV(Mission(ミッション)、Vision(ビジョン)、Value(バリュー))、中長期的な計画等を軸に、重要度を考えていく必要があります。

3.マテリアリティの特定

優先順位を定めた課題の中から、リスクとチャンスの分析、事業戦略との整合性の確認、産業動向と市場の変化の分析を行いマテリアリティを特定していきます。リスクとチャンスの分析では特定したテーマや課題に対して、リスクとチャンスの分析を行います。
組織が直面する環境的、社会的、ガバナンス関連のリスクや機会を評価し、それらが組織の戦略やビジョンにどのように影響を与えるかを考察します。

また、一つのリスクとして、チェリーピッキングや、SDGsウォッシュと捉えられないかを考慮する必要があります。
チェリーピッキングは、重要度の高い項目ではなく、最も取り組みやすい課題に取り組んでいる場合に批判の対象になります。
SDGsウォッシュとは企業がSDGsに関連するキャンペーンや広告を行いながら、実際には環境への悪影響を減少させる取り組みを行っていない場合や、企業がSDGsに関連するプロジェクトを実施していると主張するが、その実態は十分な社会的影響をもたらしていない場合などに批判の対象になります。

当然、悪意を持ってチェリーピッキングやSDGsウォッシュを行うことは問題外ですが、マテリアリティを絞り込む場合はステークホルダーだけでなく第三者からどのように見られるかということも重要な視点となります。

事業戦略との対比では組織の事業戦略とマテリアリティの特定されたテーマの整合性を取ります。特定したテーマが組織の長期的なビジョンや戦略目標と一致するかどうかを改めて検討します。

あらゆるリスクやチャンスの中で絞られた課題が、本当に自社の理念、パーパス、MVV(Mission(ミッション)、Vision(ビジョン)、Value(バリュー))、中長期戦略に特定されたマテリアリティとマッチするのか今一度検討する必要があります。マッチする場合、マテリアリティが持続可能な戦略にどのように統合されるかを検討します。

産業動向と市場の変化の分析では特定したテーマが産業全体や市場の変化にどのように関連しているかを分析します。外部環境の変化や類似業界の動向を把握することで、特定したテーマの重要性がより明確になります。また、他の組織が類似の課題にどのように取り組んでいるかを学ぶことも大きなヒントになります。

全ての要素を確認した上でマテリアリティを特定してください。

4.事業戦略への取組

マテリアリティを特定したら、実際にその課題解決に向けて取り組めるように事業戦略へ取り込んでください。マテリアリティにどのように取り組んでいくのかKGI(Key Goal Indicator、重要目標達成指標)KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)などに落とし込んでいく必要があります。
KPIに落とし込む際はできるだけ具体的な方針・対策を設定し、経営戦略へ落とし込んでください。

5.定期的な見直しと更新

マテリアリティの特定は一度きりの作業ではありません。環境や組織の状況は変化するため、定期的な見直しと更新が必要です。
組織は、新たなリスクや機会を評価し、マテリアリティを最新の状況に合わせて調整する必要があります。

また、上記にあるように

"IIRC"
"SASB"
"GRI"

等の国際的なガイドラインも定まっておらず随時改定が入ります。こういったガイドラインや国際的な潮流も意識し、見直し、更新をかけていく必要があります。

マテリアリティの発信

マテリアリティを特定し、実行することで、社会的課題の解決に向け前進することになりますが、やはりあらゆるステークホルダーや社会に評価してもらうためには発信もとても重要な項目です。

マテリアリティの発信についてのポイントは、具体的な成果や取り組み内容、透明性や誠実さのアピール、今後の取組等重要なポイントはいくつもありますが、ぜひ発信していただきたいのはマテリアリティを特定するまでのプロセスです。上記で説明したマテリアリティを特定するプロセスを開示することにより、ステークホルダーを巻き込んでいることや、マテリアリティ設定をストーリーで追えるため非常に納得性が高くなります。

メーカーのD社ではHPの中にマテリアリティの設定のプロセスをしっかりと記載しています。
D社ではマテリアリティ特定までプロセスをステップ4つに分けて紹介しています。

STEP1ではSDGs、MSCI、SASBなどを参考に環境・社会・ガバナンスにおいて34の重要なマテリアリティ候補について記載しており、ステークホルダー軸(消費者、重要顧客、投資家、国自治体の各視点)と自社軸(商品サービスのSDGs貢献度、自社開発部門、経営層の各視点)でアンケートやデスクリサーチをしたことが記載されています。

STEP2ではステークホルダーへの影響の分析について記載しています。D社でもステークホルダーにおける重要度と自社における重要度でのマッピングを行っています。重要課題についてはしっかりとどの課題なのか具体的に掲載されています。

STEP3では経営層で妥当性の検討をしており、5つの重要テーマとSDGsのどのテーマに分類されるかが記載されています。

STEP4ではマテリアリティと目標の設定内容を記載し、各テーマとテーマの方向性、2030年の目標が掲載されています。
その後のマテリアリティのアップデートまで記載されており、実に納得性の高いマテリアリティの設定プロセスが掲載されています。

まとめ

マテリアリティ(重要課題)の必要性。その概要から特定プロセスを解説していきましたが、マテリアリティ設定の重要性は日々高まってきています。ステークホルダーの納得度の高いマテリアリティを設定し企業価値を高めていってください。

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タナベコンサルティンググループは
「日本には企業を救う仕事が必要だ」という
志を掲げた1957年の創業以来、
66年間で大企業から中堅企業まで約200業種、
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