CASE
事例
S社 設備工事業
中長期ビジョンの再デザインのための事業ポートフォリオ変革
設備工事業者であるS社は1925年設立以来空気調和設備、給排水衛生設備、電気設備を中心とした建設設備工事に従事。1950年に上場を果たして以降、新工場の増設や設備投資、各社内施設を拡充しながら成長をとげ、現在では社会インフラにかかわる多様な要素技術によって、建築設備事業以外でもその他エンジニアリング事業へ幅広く展開、快適環境を創造し広く社会に貢献されている。直近期では売上高2,000億円を超え、過去最高売上高および最高益を更新されている。
また長期ビジョン2025では「選ばれる会社」をコンセプトに現在推進中、さらに2050年には長期ビジョン「選ばれ続ける企業」をテーマとして、サステナブルな世界の実現に貢献する企業を目指されている。
"正しい危機感"をもとに、改めて足元の課題に着眼をおき、将来視点から戦略の再設定をおこなう
これまで着実に成長してこられたS社であるが、新型コロナウイルスによる経済の膠着、資材不足による原価の高騰、働き方改革による時間の制限、人材の高齢化や人口減少による採用難、さらには転職市場活況による離職率の増加といった人手不足、後継者不足による業界再編など昨今大きく変化する外部環境を捉えるとともに、これまでの成長と「現在のわが社のポジションは過去に打った手の成果であり、決して将来を保証するものではない」という"正しい危機感"をもたれ、持続的成長を目指されています。そのためにも真に顧客から一番に選ばれる会社(ファーストコールカンパニー)の確立をするべく、まずは2025年から始まる次期中期経営計画の策定にあたり、進行中の中期経営計画の見直しから実施し、その内容を基に2025年からスタートする次期中期経営計画の内容にアップデートされた戦略案を反映させることからプロジェクトを組成し開始した。
その上で下記3点を重視しながら意思決定をおこない、次期中期経営計画のベースとされました。
1.主要4事業における市場成長性×収益性を切り口とした事業ポジションの明確化
2.バックキャスティング思考で事業ポートフォリオの変革、資源配分を実施
3.事業間シナジーの発揮による企業価値の向上
主要4事業における市場成長性×収益性を切り口とした事業ポジションの明確化
現状分析の一環として、4事業のポジションを分析。各事業の市場を分析し将来予測をシナリオ別に想定。今後市場成長性が年平均成長率何%で成長するかを分析するとともに、事業の構成要素製品やエリアや、顧客別に細分化し、それぞれ収益性を分析した。そのうえで、課題となる事業を特定しつつ、市場成長性の高低と収益性の高低を切り口に四象限で事業やターゲット産業のポジションを明確化。市場成長性が高く収益性も高い事業を有望事業、市場成長性が高く収益性が低い事業を強化事業、市場成長性が低く収益性が高い事業は残り福事業、市場成長性と収益性が共に低い事業は構造改革事業として整理した。その結果、有望事業が1事業、強化事業が2事業、残り福事業が1事業という結果となった。
バックキャスティング思考で事業ポートフォリオの変革、資源配分を実施
資源配分・事業ポートフォリオの変革として下記3点を重視しつつ各事業で戦略を構築した。
⑴有望・中核事業への経営資源投下
収益性が高く、市場の成長性も高い傾向がある事業においては更なる増強を図るために、市場分析を基に成長分野を整理し、その中でも特に重点におく分野を絞り込んで、リソースを配分する。また脱炭素といった社会への貢献価値も明らかにしながら、成長×環境の両軸で事業戦略を策定する。またこの有望事業については積極的にICTやロボット化などの開発投資を強化し、競争優位性を確立していく。
⑵強化事業・残り福事業における事業効率化による収益改善
収益性が低い強化事業においては選択と集中を経て収益構造を改革する。そのために改めて自社の強みをプロジェクトの中で時間をかけてディスカッションを実施した。自社内だけでは捉えることができない視点を第三者視点を取り入れながら強みを明確化し、その強みが活かせるターゲット産業の絞り込みを実施。強み(固有技術)×成長市場といった事業戦略を考えるうえでの基本を改めて設計した。その際、市場での競争優位性を明確にするために自社のポジションを明確にし、現在と2030年での変化をマップ化することで明確化することができた。
また、長期的に市場規模が縮小する事業においては、コスト削減策を強化するとともに受注形体の変革や新たなビジネスモデルを構築するなど、残り福としての収益性を高めつつ新たに事業範囲を延伸させることで収益源を確保する。
⑶M&Aによるバリューチェーンのアップデート
事業戦略を実現するためのバリューチェーンを整理し、特に開発およびアフター領域をターゲットとしたM&Aにより、戦略オプションの実現を図る。戦略を実行する上では、社内のリソースに限りがある場合や、機能の強化にスピードを要する場合が出てくる。その場合にM&Aをはじめ、アライアンスや業務提携を通じて機能を強化していく。成長分野へ展開するうえでより新たな技術を取り入れていくといった観点で開発分野でのM&A、また、単なるアフターサービスではなくカスタマーサクセスや蓄積したデータ活用など、アフター領域における提供価値の変化に対応するために、M&Aという手段で早期成長を図る。
事業間シナジーの発揮による企業価値の向上
現状分析を実施した結果、顧客管理情報が縦割りになっており共有されていないといった課題や戦略上のターゲットが絞り切れていないことから既存の4事業のシナジーが発揮されていない状態であった。ゆえに、他事業が対応できる建築案件であっても個別の事業範囲内での提案・受注になり、他事業部が機会損失している状況も見受けられていた。今回の事業ポートフォリオを整理し、次期中期経営計画に向けて各事業の戦略を策定するうえで、いずれにしてもターゲット産業の明確な共通項目として実施してきた。その結果、事業間を超えた戦略策定がしやすくなったことで、事業間シナジーを高めるきっかけとすることができた。
会社プロフィール
S社 設備工事業
業種 | 設備工事業 |
---|---|
売上高 | 2,000億円 |
最新事例
- 長期ビジョン・中期経営計画策定による事業拡大
- 建設業における働き方改革と業務効率化の実現:工務部の設立と現場との役割分担による成功事例
- 設備工事業における業務見える化取り組み事例
- 中長期ビジョンの再デザインのための事業ポートフォリオ変革
コンサルタント紹介
- タナベコンサルティング
取締役
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部山本 剛史
- タナベコンサルティング
取締役
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部村上 幸一
- タナベコンサルティング
上席執行役員
九州本部高島 健二
- タナベコンサルティング
執行役員
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部土井 大輔